【米国判例メモ/著作権】CDNサービスを提供する事業者につき、著作権の寄与侵害責任を否定した事例 Mon Cheri Bridals, LLC v. Cloudflare, Inc.

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本件:Mon Cheri Bridals, LLC v. Cloudflare, Inc., 19-cv-01356-VC (NDCA, Oct. 6, 2021)

【はじめに】

 ウェブサイトへのアクセスの高速化・安定化など重要な利点がある一方で、コンテンツ海賊版サイト・模倣品販売サイトなどにも利用されていることで度々問題性が指摘されるCDN (content delivery network) サービス。2018年には、米大手CDN事業者であるCloudflareに対し、①Cloudflareはその顧客による侵害を認識していたこと、②Cloudflareのサービスはその侵害を実質的に支援するものであること、及び③Cloudflareは、そのサービスを差し控えることができたのにそれをしなかったことを理由に、権利者の請求を棄却することを求めるサマリージャッジメントの申立てを却下した裁判例があります。
 2021年10月6日、同じくCloudflareが被告となった事案において、今度はCloudflareの寄与侵害 (contributory infringement) が認められないとする判断が示されました。本件の原告は、ウェディングドレスブランド2社です。同2社が著作権を有する画像を利用して模倣品を販売する業者が後を絶たないため、それらにCDNサービスを提供していたCloudflareを提訴したのです。
 ユーザ、ネットワーク企業と著作権者の適切な利益のバランスという視点を持つことが重要とされるオンライン海賊版・模倣品対策を考えるうえで参考になる事例として、本件を紹介致します。

【裁判所の判断(全文和訳)】

Mon Cheri BridalsとMaggie Sottero Designsは、オンラインでウェディングドレスを販売している。しかし、原告らの著作権で保護された画像を使用して模倣ドレスを販売する模倣品販売業者が急増しているため、原告らの販売数やブランドの評判が低下している。原告らは様々な方法で侵害者を追及してきたが、功を奏しなかった。ウェブサイトが閉鎖されたとしても、また新たなウェブサイトが作られてしまうのである。侵害行為をより効果的に撲滅するため、原告らは現在、侵害者の多くが利用しているサービスを提供する事業者を追及している。Cloudflareである。原告らは、Cloudflareが、侵害者に対してキャッシング、コンテンツ配信及びセキュリティサービスを提供することにより、著作権侵害に寄与していると主張する。少なくとも本件の記録による限り、Cloudflareが著作権侵害に実質的に寄与していると合理的な陪審員が結論付けることはできないであろうと考えられるから、原告によるサマリージャッジメントの申立ては却下され、Cloudflareによるサマリージャッジメントの申立ては認められる。

ある者は、「(1) 他人の侵害を知りながら、(2) (a)その侵害に実質的に寄与するか、又は(b)その侵害を誘発する」場合に、著作権の寄与侵害責任を負う(引用略)。単に著作権侵害者にサービスを提供するだけでは、「実質的な寄与」とはならない(引用略)。むしろ、インターネットの文脈における責任は、ある者が侵害を「著しく拡大」(“significantly magnif[ies]”) させるような方法で侵害ウェブサイトへの「アクセスを促進」する場合に生じる(引用略)。また、ある者は、「侵害プロセスにおける不可欠の手段」(“an essential step in the infringement process”) としての役割を果たすことにより、著作権侵害に実質的に寄与しうる。第9巡回区が認識しているように、これらのテストで使用されている文言は「非常に幅広く」、文脈を無視して考えるとすれば、多くの無害な行為を包含する可能性がある(引用略)。したがって、著作権に対する寄与侵害の成否を検討するに当たっては、責任が認められた主要な裁判例において認定された事実を認識しなければならない(引用略)。

原告らは、Cloudflareが提供する2つのサービスを理由に、Cloudflareに責任を課すことを求めている。1つ目に、Cloudflare はパフォーマンス改善サービスを提供しており、これにはコンテンツ配信ネットワークとキャッシング機能が含まれる。これらのサービスを組み合わせることにより、主にユーザがコンテンツをより速く読み込めるようにすることで、顧客のウェブページの品質を向上させる。2つ目に、Cloudflareは、リクエストしたユーザとコンテンツのホストとの間に入ることで、セキュリティサービスを提供する。仲介者であるCloudflareは、疑わしいトラフィックパターンを検出し、ウェブサイトのホストに対する攻撃を防ぐことができる。

1.  原告らは、Cloudflareのパフォーマンス改善サービスが著作権侵害に実質的に寄与すると陪審員が結論づけることができる証拠を提出していない。これらのサービスの効果に関する原告らの唯一の証拠は、そのサービスの利点を宣伝する、Cloudflareのウェブサイトに掲載されたプロモーション資料である。かかる証拠における一般的な記述は、本件で問題となっている直接侵害に対する Cloudflare の効果を語るものではない。例えば、原告らは、ロードタイムの高速化(高速化されたと仮定した場合)が、Cloudflareを利用しない場合に比べて著しく多くの侵害を引き起こす可能性があるという証拠を提出していない。そのような証拠がなければ、合理的な陪審員は、Cloudflare が侵害を「著しく拡大する」ものと認めることはできないであろう(引用略)。また、Cloudflare のサービスは、「侵害プロセスにおける不可欠の手段」でもない(引用略)。Cloudflareが侵害素材をキャッシュから削除したとしても、その著作権で保護された画像はユーザに表示される。すなわち、ホスティングサーバから削除することなく画像をキャッシュから削除したとしても、直接侵害の発生を妨げることにはならないのである。

2.  Cloudflareのセキュリティサービスも、侵害に実質的に寄与するものではない。侵害ウェブサイトにアクセスするユーザの観点からいえば、これらのサービスは何の違いも生むものではない。たしかに、Cloudflareのセキュリティサービスは、第三者がウェブサイトのホスティングプロバイダやそれが置かれるサーバのIPアドレスを特定する能力に影響を与える。もし、Cloudflareがこれらのサービスを提供することにより、第三者がコンテンツを削除させるための努力の一環として侵害事例をウェブホストに報告することがより困難になるのであれば、おそらくCloudflareは寄与侵害の責任を負う可能性がある。しかし本件においては、Cloudflareが著作権の苦情を受けた際、ホストプロバイダに当該苦情を転送するだけでなく、苦情の申立人に対してホストの身元を通知しており、両当事者はこれに同意している。

よって上記のとおり命じる。

【ちょっとしたコメント】

 本件は、Cloudflareの寄与侵害責任を認めるに足りる証拠がないことを理由に、Cloudflareによるサマリージャッジメントの申立てを認めました。
 たしかに、本件では、原告らが提出した証拠が非常に弱かった点は否めないように思われます(原告らが提出した証拠はCloudflareのウェブサイトに掲載されたプロモーション資料だけであり、そのサービスが侵害サイトの利用にどのように影響したかを具体的に示す証拠がなかったようです)。つまり、今後問題となる個別の事案に応じて、その証拠を十分に示すことにより、本件とは異なる結論が示される余地はあるかもしれません。

 他方、キャッシュの削除だけでは足りず、ホスティングサーバから侵害コンテンツを削除しない限り直接侵害の発生は防げないのだから、Cloudflare のサービスは「侵害プロセスにおける不可欠の手段」ではないとした点は要注目だと思われます。これを一般化すれば、「侵害プロセスにおける不可欠の手段」であることを理由にCDNサービスについて寄与侵害が成立することはないと考えることも可能になると思われるからです。
 それだけに、権利者としては、「侵害プロセスにおける不可欠の手段」であること以外の方法で、サービスの提供が侵害に「実質的に寄与」していることを証明する具体的な証拠を揃えることが肝要となるでしょう。裁判所が示した例によれば、CDNサービスによりアクセスが高速化されることでどれだけ侵害行為が増加するのか、といった事実関係がポイントになりそうです。

 また、苦情の申立人に対してホストの身元を通知しているという点は、一般論として、結論に大きく影響を与えうる事情であるといえそうです。権利者が侵害サイトの運営者等そのものに対して権利行使することが合理的に可能な程度に情報を開示しているのであれば、CDNサービス事業者の責任を強く問う必要性は低くなる可能性があるからです。もっとも、裁判所の判断では、具体的にどのような情報が開示されているのかは示されていません。
 裁判所の判断を見る限り、セキュリティサービスの提供によって寄与侵害が成立するか否かは、CDNサービスが介在することによって、それが介在しない場合よりも侵害者の探索が困難となるか否かが1つの判断基準となりそうです。また、裁判所は、CDNサービス事業者としては、侵害サイトの運営者又は侵害コンテンツのアップロード者に対してではなく、侵害サイトをホストするサーバ事業者にコンタクトする手段を権利者に提供すればよいと考えているようにうかがわれる点も、ユーザ、サービス提供者、権利者の利害関係の適切な調整を考えるうえで注目すべきポイントなのではないでしょうか。

 参考になれば幸いです。

以上

■自己紹介■
関 真也(せきまさや) 
弁護士・ニューヨーク州弁護士
日本バーチャルリアリティ学会認定VR技術者
関真也法律事務所 代表。第一東京弁護士会所属。
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漫画、アニメ、映画、ゲーム、音楽などのコンテンツやファッションに加え、XR (VR/AR/MR)、メタバース、VTuber、NFT、eSports、AI・データなど、コンテンツやファッションとテクノロジーが関わる分野を中心に、知財問題、契約、紛争、新規事業の適法性チェックなどを多く取り扱っています。
東海大学総合社会科学研究所客員講師のほか、東京工業大学非常勤講師(担当科目:技術移転と知財)、日本女子大学非常勤講師(担当科目:ファッションロー入門〈仮称〉)その他大学講師等を歴任。
㈱KADOKAWA経営企画局知財法務部担当部長(2016~2017)。南カリフォルニア大学ロースクール修了 (LL.M., Entertainment Law Certificate, Honor Society of Phi Kappa Phi) / 東大データサイエンススクール(事業実務者コース)修了。日本知財学会事務局、コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ブランド・経営分科会幹事 / ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会長 / 一般社団法人XRコンソーシアム社会的課題WG座長など。
著作権法学会 / 工業所有権法学会 / 日本バーチャルリアリティ学会 会員。

主な著書・論文は、「ファッションロー」(共著、勁草書房)、「点群データの作成及び利用と著作権ーデジタルツイン/ARクラウドを活用した社会の発展に向けてー」パテント74巻8号55頁(2021年8月10日)、「『触覚・味覚・嗅覚コンテンツ』の著作権保護を巡る考察」ビジネス法務21巻6号48頁(2021年6月21日)、「AR広告を巡る利益調整と法規制」ビジネス法務21巻6号60頁(2021年6月21日)、「バーチャルリアリティその他人間の能力等を拡張する技術と著作権」知財管理71巻2号167頁(2021年2月20日)、「一問一答:今、社員周知したい テレワーク・会議のデジタル化に伴う著作権法の問題点」ビジネス法務21巻2号65頁(2020年12月21日)、「著作権法による建築デザインの保護とバーチャルリアリティ空間その他コンテンツ内利用ー米国法の議論を参考にー」日本知財学会誌17巻2号29頁(2020年11月20日)、「拡張現実(AR)を巡る著作権法上の問題に関する基礎的考察」日本知財学会誌15巻3号5頁(2019年3月)、「AR領域における商標の使用ー拡張現実技術を用いた新たな使用態様を巡る現行法上の課題ー」日本知財学会誌14巻3号28頁(2018年3月)など。

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