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吃音が自然治癒した子どもと持続した子どもの脳の話

こんばんは、やのです。
今回は、以下の論文を非研究者向けに日本語で解説したいと思います。
脳の色んな場所の話が出てくるので、難しいです(すいません)。

Chow, H. M. & Chang, S-E. 2017. White matter developmental trajectories associated with persistence and recovery of childhood stuttering. Human Brain Mapping. link

吃音(きつおん)は、以下のような特徴を持つ発話障害のひとつです。
連発:ぼぼぼぼくは
伸発:ぼーーーくは
難発:・・・ぼくは  (参考:菊池良和, 2019. 吃音の合理的配慮. 学苑社)
発達性吃音は、幼児期に5%の割合で見られますが、その内、80%は、数年以内に自然治癒すると言われています(ただし、森, 2018ではやや値が異なります)。

今回紹介する研究は、MRIという機械を使って、「吃音が自然治癒した子どもと持続した子どもの脳は、どのように変化していくのか?変化の仕方に違いがあるか?」を調べています。比較のために、吃音がない子どもも参加しています。

実験参加者

以下の3グループが実験に参加しています。

コントロール群(=非吃音児):43名(内21名が男性、平均7.5歳)
吃音持続群:23名(内16名が男性、平均7.8歳)
吃音自然治癒群:12名(内6名が男性、平均7.2歳)

これらの群の間には、性別の割合、平均年齢、参加の間隔、社会経済的なステータスに有意な違いはありません。ただし、吃音児(持続群・自然治癒群)は、コントロール群に比べて知能指数(IQ)が低い成績になっています。
全員が英語話者です。各参加者は、約1年あけて、2〜4回実験に参加しています。

実験手法

ここから、内容が難しくなります。
この研究では、MRIという機械を使って、拡散テンソル画像(diffusion tensor image: DTI) を撮っています。拡散テンソル画像は、ある方向に向かって走る神経線維を画像化したものです(イメージ)。その程度は、FA (fractional anisotropy)という指標で数値化でき、神経線維が一方向に走っているほど1、拡散しているほど0に近い値になります。

近年、拡散テンソル画像を用いた研究によって、様々な疾患・障害における脳の違いが明らかになってきています。例えば、吃音では、健常者に比べて、弓状束などでFA値が低くなることが報告されています(Neef et al., 2015)。弓状束は、言語に関わる複数の脳領域をつなぐ取りまとめ役をしていて、言語関連の研究にはよく登場します。

実験結果

実験結果をまとめると以下のようになります。
(この実験では、実験参加者は特に何もせずにじっとしているだけですので、前回紹介した研究のような課題はありません)

○ コントロール群に比べて、吃音児(自然治癒群・持続群)は、下頭頂小葉後側側頭葉にある左弓状束において、FA値が低い。また、脳梁においてもFA値が低い

FA値の「成長率(年齢による変化)」を見ると、コントロール群に比べて、持続群は、左弓状束の後部・側部においてその値が低い(FAの低下が見られる)が、自然治癒群では、その傾向は見られず、コントロール群と同様の成長を見せる。持続群は、脳梁・帯状回・前視床放線・大脳脚・小脳脚においてもFA値の成長率が低い。

上視床放線においては、吃音症状の重症度(severity)とFA値に負の相関が見られる(=重症なほど、FA値が低い)

○ その他、吃音グループでFA成長率が高い領域もある。

まとめ

簡単にまとめると、吃音児(特に、持続群)では、複数の脳領域をつなぐ脳の構造に、非吃音児との発達的な違いが見られるようです。著者らは、論文の最後で「これらの発達的な変化を生む要因・メカニズムを理解するための研究が今後必要で、それが、吃音症状を軽減し、吃音の回復の可能性を高めるための治療方法を開発するのを助け得る」と述べています。

これで、今回の内容は終わりです。
今後も時間を見つけて、ちょこちょこ論文が紹介できたらなと思っています🙌 リクエスト、コメント、ご批判などあれば。それではー。



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