Superorganism『Superorganism』



 スーパーオーガニズムは、アメリカのハイスクールに通っていた日本人のオロノ(ヴォーカル)が、ニュージーランドのジ・エヴァーソンズというバンドのメンバーと交流を重ねるなかで、2017年に結成されたバンドだ。彼らは凄まじいスピードで注目を集めていったが、その過程で音楽性についてはあまり語られてこなかった。イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、韓国、日本という様々なバックボーンを持つ8人が集結した多国籍バンドであること、あるいはフランク・オーシャンやエズラ・クーニグ(ヴァンパイア・ウィークエンド)のラジオ番組で曲がプレイされたなど、いわゆる周辺情報が先行していたように思う。

 そんな彼らの音楽の全容を知る意味でも、デビュー・アルバム『Superorganism』はとても楽しみにしていた。本作のレコーディングやプロデュースは彼ら自身が担い、作業はメンバー全員で共同生活を送るイーストロンドンの自宅でおこなわれたという。
 さっそく聴いてみると、ほのかにサイケデリックで、どこか気だるさも感じるローファイ・ポップといったサウンドが耳に入ってきた。サンプリングを多用した音作りはヒップホップ的だが、ダークな感情も顔を覗かせる歌詞に、ポジティヴなフィーリングをまとった音が乗るという形は、筆者からすると『Oracular Spectacular』期のMGMTを連想させるものだった。正直、デビュー・シングル“Something For Your M.I.N.D.”を聴いたときに抱いたイメージからかけ離れたサウンドではなく、大きな驚きがある内容じゃなかった。
 しかし、曲のディテールは凝ってる。声のピッチが目まぐるしく変わる“Everybody Wants To Be Famous”、サイドチェインでうねりを出したようなシンセ・ベースが映える“Reflections On The Screen”、UKガラージの軽快なビートで踊らせてくれる“Night Time”など、それぞれの曲に仕掛けられたフックの数は膨大だ。ポップ・ソングにおいては王道とされるヴァース/コーラス形式にとらわれない曲も多く、それでいてキャッチーというのがなんとも面白い。

 歌詞も興味深いものが多い。なかでも、〈みんな有名になりたいばっかりで 恥じらいなんてものはありはしない〉と歌われる“Everybody Wants To Be Famous”は、過剰な承認欲求で溢れる現在に疑問を投げかける批評性が見られ、面白い。さらに、日本の駅のアナウンスや緊急地震速報のアラームが聞こえる“Nai’s March”には、〈すべてのものが海に飲み込まれてしまうとき〉という一節があったりと、東日本大震災の風景を想像させる言葉が並ぶ。こうした様々な事象を自然に受け止め、それらに関する素朴な気持ちを歌う感性は、自分自身をさらけ出したり、何かしらの主張をすることに抵抗感がないSNS以降の若者たちによく見られる傾向と重なる。

 そんな本作を聴いていると、強迫的にオリジナリティーを求めるより、自分たちが良いと思える曲を作ることに重きを置く8人の姿が目に浮かんでくる。膨大な量の情報が行き交う現在においては、かたくなに新しさを求めずとも、自分の好きなものを詰め込めば、自ずと独自の音楽を作れるということを彼らは理解している。ただ、その感覚自体は最近のものではない。たとえば、2014年に発表されたジュリアン・カサブランカス+ザ・ヴォイズの『Tyranny』は、スクリレックスに通じるハーフ・ステップのビートが刻まれる“Where No Eagles Fly”を筆頭に、様々な要素を限界まで詰め込み、それらをインダストリアルに通じるざらついた質感でコーティングしたトラッシュ・ミュージック集だった。そこには新しさよりも、やりたいことをやるという姿勢がラディカルな形で示されていた。もっと遡れば、「僕らは自分たちの好きなものすべてを採り込もうとしている。適切だろうがそうじゃなかろうが、ね。そして、独創的なものを作りたいと思う」と語ったライアーズを生みだした、2000年代前半のNYポスト・パンク・シーンにその萌芽を見ることもできる。そう考えるとスーパーオーガニズムは、2000年代以降のポップ・ミュージックが生み出した果実と言えるだろう。



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