2015年ベスト映画TOP10

 今年は、リアルサウンド映画部さんで執筆させてもらうなど、映画方面でも仕事をする機会が増えました。もともと映画は大好きです。1日1本のペースで、打ち合わせや仕事の合間に観てます。リストの表記は、“監督名/作品名”です。“監督名/作品名”に貼ったリンクは作品の予告編なので、参考にしてもらえれば。ではでは、どうぞ。


1. アレクサンドル・コット『草原の実験』

 事前に全編セリフなしという情報を入れてなかったら、より楽しめたはず。そう思えるほど、この映画の音、映像、登場人物の動きは饒舌。細部まで計算された構築美は、観客を引きこむ心地よい緊張感で満たされている。そして、過度な感情表現に頼らない、理性に裏打ちされた緻密さが興奮をもたらしてくれるという事実。この事実が孕むのは、観客の価値観を揺さぶるには十分すぎる衝撃と爆発的センス。


2. グザヴィエ・ドラン『Mommy/マミー』

 シンメトリーの使い方などにらしさがあって、映像美も相変わらずグッド。ゴダールと比較されることも多いグザヴィエだけど、彼にはゴダールの悪い癖である難解さの押しつけは一切ない。それは本作を観ればわかるはず。グザヴィエは、自分のスタイルを貫きつつ、できるだけ多くの人に観てもらうための努力も欠かさない。


3. アナ・リリー・アミルプール『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』

 モノクロの映像が醸す美しさと考えぬかれた構図の素晴らしさと言ったら! 音楽の使い方も秀逸。いろんなヴァンパイア映画を観てきたけど、『A Girl Walks Home Alone At Night』が一番好き。どこか詩的な雰囲気はレフンの『Drive』に通じるし。ちなみに監督のアナは、デヴィッド・リンチの『ワイルド・アット・ハート』が大好きだそうです。クッキーシーンでも、長々とレヴューを書きました。邦題はクソ。


4. マシュー・ヴォーン『キングスマン』

 痛快さとユーモアが光る極上のエンターテイメント!『007』シリーズへのオマージュが目立つんですが、ストーリーは『スターウォーズ エピソード1』を下敷きにしていると思います。コリン・ファースとサミュエル・L・ジャクソンが教会前で対峙するくだりなんて、まさにそうだよなあと。マーク・ハミルも出てますからね。アクション・シーンのカメラワークはクセがあり、好き嫌いがハッキリ分かれるかもしれません。でも僕は、クスクス笑いながら観ました。教会でコリン・ファースが三國無双を繰りひろげるシーンではテンションMAX。



5. 呉美保『きみはいい子』

 序盤から中盤までは平熱な雰囲気が際立ってるんだけど、池脇千鶴と尾野真千子が抱擁を交わすところに陽の光が射すシーン以降は、色彩豊かな感情が一気に浮かびあがってくる。こういうダイナミックな展開に持っていくまでの、物語を丁寧に描く繊細さも見逃せない。

 画面サイズをヨーロピアン・ヴィスタにしたのは、たくさんの出来事が起こる広くない街の“広くない感じ”を上手く表現するためなんだろうけど、これも大当たり。物語はもちろんなんだけど、そのスタイルにも惹かれてしまった。

 というわけで、否応なしに多様な社会となった現在において、異なる価値観を持つ人同士はどう繋がるべきか?という疑問に対する決定打のひとつを示した傑作です。



6. チョン・ジュリ『私の少女』

 半ば世捨て人みたいな雰囲気を漂わせるペ・ドゥナ、恐ろしさと純粋さを醸しだすキム・セロンは、共に素晴らしい演技だった。ふたりに襲いかかる“困難”には、ふたりではなく社会に問題があるのでは?という監督の問いかけが込められている。


7. アリ・フォルマン『コングレス未来学会議』

 アンチ・ハリウッドという批評性にばかり目が行きがちだけど、実写からアニメに切り替わるときのドラッギーな感覚にも注目してほしい。すれ違う母子の物語云々よりも、スタイルそのものにガツンとやられました。


8. クリストファー・マッカリー『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』

 シリーズ最高傑作と言っていいんじゃないでしょうか。サイモン・ペグやレベッカ・ファーガソンを引きたてつつ、自らを上手くアピールするトム・クルーズの貫禄に拍手!


9. ダン・ギルロイ『ナイトクローラー』

 狂気がいかにして、社会に侵食していくかの過程を描いた映画だと思います。だからジェイク・ギレンホール演じるルイスは、特に裁かれることもなく、ああいうラストになったのかなと。恐ろしいのは、そんなルイスの存在や、ルイスが撮る過激な映像を求める人がたくさんいるからこそ、裁かれないというところ。そう考えると『ナイトクローラー』は、人という生き物が持つ暴力的な部分を抉りだした怪作と言えるでしょう。ルイスという怪物を求めているのは、他でもないあなただということです。

 夜の撮り方も秀逸。この点は、『ゼア・ウィル・ ビー・ブラッド』(2007)などでも知られる撮影監督、ロバート・エルスウィットの仕事が素晴らしいの一言に尽きる。なぜなら、同じく夜の撮り方が秀逸なマイケル・マンの『コラテラル』(2004)を超えてしまったのだから。ロバート・エルスウィットのおかげで、ただでさえギョロっとして印象的なジェイク・ギレンホールの目が、より不気味な眼力を放っている。

 そして僕は、『ナイトクローラー』を観たあと、ウィリアム・フリードキンを想起しました。特にカーチェイス・シーンを観ているときは、フリードキンの代表作『フレンチコネクション』(1971)や『L.A.大捜査線/狼たちの街』(1985)が頭をよぎった。少なくとも、マーティン・スコセッシの『タクシードライバー』(1976)ではないと思う。



10. ミア・ハンセン=ラヴ『EDEN/エデン』

 90年代のフレンチ・ハウス・シーンを舞台に、ひとりのDJが味わう栄光と挫折を描いた青春ドラマ。数多くのハウス・クラシックが流れるし、当時の空気を知ってる人からすれば、思わずニヤけてしまう登場人物とシーンのオンパレード。

 DJミキサーにはURのステッカーが貼ってあり、さらにクラブのシーンでは過度な演出を避けるなど、当時のクラブ・カルチャーに対する愛情と、それをできるだけまっすぐ届けようとする真摯さが共生している点も魅力ですね。

 特に好きなシーンは、The Orbの「A Huge Evergrowing Pulsating Brain That Rules From The Centre Of The Ultraworld(Orbital Dance Mix)」が流れるなかで、カップルがキスをするところ。

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