イギリスのナショナル・トレジャーを引き継ぐバンド 〜 The Big Moon『Love In The 4th Dimension』〜



 ロンドンを拠点とする4人組バンド、ザ・ビッグ・ムーンのファースト・アルバムに耳を傾ける。『Love In The 4th Dimension』と題されたそれは、これまでイギリスが生みだしてきた偉大なバンドを想起させる。「The End」のコーラス・ワークはXTCやカイザー・チーフスに通じるものだし、ジュリエットのヴォーカルなんて、アレックス・ターナー(アークティック・モンキーズ)の影がちらついてしょうがない。他には『Modern Life Is Rubbish』期のブラーも連想するが、ザ・ビッグ・ムーンを結成したのは、ジュリエットがパーマ・ヴァイオレッツやファット・ホワイト・ファミリーに触発されたからだそうだ。いずれにしろ、イギリスのさまざまなバンドから影響を受けていることは間違いない。


 そうした背景にくわえ、親しみやすいメロディーを生みだせるのもザ・ビッグ・ムーンの魅力だ。アレンジのヴァリエーションも豊富で、軽快なグルーヴが心地よい「Pull The Other One」もあれば、BPMを落として滋味に聴かせる「Cupid」のような曲もある。基本的には、ソリッドかつラウドなギター・サウンドを基調とするロックだが、アレンジの多彩さはなかなかのものだ。


 歌詞は平易な言葉が多い。奇を衒う言葉遊びは見られず、感じたことを素直に歌う等身大の姿が印象的だ。それこそ、寝室であれやこれやと駄弁っているようなジャケットに通じる親密な空気を漂わせる。ここに親近感を抱く人も少なくないはずだ。


 こうした『Love In The 4th Dimension』は、あらゆる点が及第点を超える作品であり、そつがない。とはいえ、それがこのアルバムの弱点でもあるように思う。そつがないといえば聞こえはいい。しかしそれは、飛び抜けた特徴がない、言ってしまえば器用貧乏ということでもある。せっかくのデビュー・アルバムなのだから、もっと弾けて背伸びをしても悪くなかったのでは?と感じてしまった。何もそこまでこぢんまりしなくても...。確かにこのアルバムは良作だ。でも傑作ではない。

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