手軽に人と繋がれる現在だからこそ生じる孤独感 〜 Oh Wonder『Ultralife』〜



 ジョセフィーンとアンソニーによるロンドンのユニット、オー・ワンダーは、サウンドクラウドに毎月1曲アップするというチャレンジなど、アピールの手法に注目が行きがちだ。しかし面白いことに、そうした部分に2人はあまりこだわっていない。以前、そのチャレンジについて筆者が質問したとき、アンソニーは〈特に工夫はしなかった〉と語ってくれたように、2人は音楽を作り、それを多くの人に聴いてほしいという想いだけで活動してきた。そうしたピュアな姿勢は、アーティストにも高いセルフ・プロデュース能力やプロモーション能力が求められる現在において、とても珍しいかもしれない。


 そうしたピュアなところは、デビュー・アルバム『Oh Wonder』でも明確に表れていた。2015年に発表されたこのアルバムは、温もりあふれるエレ・ポップ・サウンドに、キャッチーなメロディーや感情の機微をとらえる歌詞が乗った、ストレートなポップ・ソング集だった。奇を衒った小細工はなく、曲の良さで勝負するその姿は潔さを感じさせる。影響を受けたアーティストに、ジョニ・ミッチェル、エルトン・ジョン、キャット・スティーヴンスなど、王道とも言えるシンガーソングライターを挙げる2人だが、これらのアーティストも曲の良さで勝負できる確かな実力を備えている。そんなアーティストたちの遺伝子を受け継ぐ2人は、文字通りの実力派と言えるだろう。


 この潔さは、セカンド・アルバム『Ultralife』で深化している。まず、基本的な姿勢はブレていない。グッド・メロディーを紡ぎ、感情の機微を掬う言葉が歌われる。本作でも2人は、音楽だけに夢中だ。エレ・ポップを基調とした音楽性も健在。音数を絞り、言葉に宿るエモーションを大事にするところも相変わらず。


 とはいえ、変化がまったくないわけじゃない。とりわけ目につく変化は歌詞だ。歌詞のテーマについてジョセフィーンに訊いたとき、彼女は興味深いことを語ってくれた。なんでも、オー・ワンダーの歌はロンドンでの暮らしを題材にすることが多いという。ロンドンには、食費や住宅費が払えない貧しい人たちがいれば、富裕層もいる。大きな夢を抱き、多くのチャンスで溢れるロンドンにやって来る人たちの中には、成功する人もいれば失敗する人もいる。そしてロンドンは、賑やかでせわしい街なのに、孤独感や疎外感に襲われることもある。そうジョセフィーンに語らせるロンドンの環境は、2人の音楽に多大な影響をあたえている。
 この影響はまだ残っている。本作でも、2人から見た日常の風景が描かれ、そこには多くの人たちが生きていて、それぞれ何かしらの想いを抱えている。街の匂いや人の呼気など、活き活きとした街の様子が頭に浮かんでくる。ただ、前作以上に他者との繋がりを求める言葉が多い点は、見逃せない変化だろう。前作は、人として生きていくことの意味を探ったり、さまざまな人間模様を掘り下げるといった、内省的なニュアンスが強かった。しかし本作での2人は、この側面も維持しつつ、よりオープンで他者にコミットしようと試みる。


 このような本作を聴いて思い浮かんだのは、ドラマ『マスター・オブ・ゼロ』シーズン2の第5話「ディナー・パーティー」だ。多くの人が集まるパーティーを経て、主人公のデフは好意を寄せるフランチェスカとタクシーに乗るが、最後はハグをしただけで別れてしまう。そのあと、ひとりタクシーに乗るデフの様子が長回しで映し出されるが、そのときのデフが現代の孤独を象徴しているように見えて面白かった。今は、SNSや出会い系アプリの登場によって、周りに誰もいないという意味での孤独は減ったように思える。しかし、手軽に人と繋がれるようになったからこそ、心の底から繋がりたいと想う人とすれ違ってしまったときの孤独感に、多くの人は打ちのめされる。そう考えると、昔と今では、“孤独”という言葉に込められるニュアンスは変わったのかもしれない。


 本作における“繋がり”は、誰かと繋がりたいという単純なものではない。誰とでも手軽に繋がれる現在だからこそ、本当の繋がりとは?と思索した、少々複雑なものだ。そしてこの思索は、多くの人の琴線に触れながら、こう問いかける。“その繋がりに意味はあって、本当に必要なのか?”と。最近、ファッション誌などでよく見かける“インスタジェニック”なる言葉など、人にどう見られるか?を意識するよう促す価値観が蔓延る現在にお疲れのあなたにとって、本作は一服の清涼剤になるだろう。

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