2022年ベスト・ドラマ20

  今年は韓国ドラマが飛びぬけていました。これまでは多国籍なリストになっていたと思うのですが、質を優先するとどうしても韓国の作品が多くなってしまいました。さまざまな視点から風刺や社会性を込めるクリエイターの才能には感謝しかありません。筆者の人生を鮮やかに彩り、視点や価値観を拡張してくれたのですから。



『ジャングル ~絶望の街~』のポスター

20
『ジャングル ~絶望の街~』

 UKドリルやグライムがモチーフのクライムドラマ。映画『ブルー・ストーリー』(2019)を想起させる演出と詩的なセリフの多用が目立つ内容は実験的。その実験が上滑りしている瞬間もなくはないが、挑戦心は買いたい。



『サンドマン』のポスター

19
『サンドマン』

 ニール・ゲイマンの大人気漫画をドラマ化。幻想的映像を纏いながら語られるストーリーは、“夢”と“死”について深く考えたビターな質感が際立っていた。



『模範家族』のポスター

18
『模範家族』

 いつも詰めが甘く、何もかもうまくいかない物語はサフディ兄弟の映画を見ているようだった。理想と現実のギャップに苦しむ姿はとても生々しかった。



『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のポスター

17
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』

 終盤の展開に疑問符がつくこともあったが、ナチスへの言及もある脚本は障がい者へのステレオタイプを解きほぐそうとする意欲が顕著だった。キスシーンにおける照明の演出など、細かいところでメッセージ性を出す映像も優れていた。



『グリッチ -青い閃光の記憶-』のポスター

16
『グリッチ -青い閃光の記憶-』

 チョン・ヨビンのコメディエンヌなセンスが全開のドラマ。ところどころで風刺を描きつつ、ほろ苦い友情関係というエッセンスを上手く活かした脚本に拍手。



『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』のポスター

15
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』

 お金をたっぷりかけた『世にも奇妙な物語』と言えるだろうか。さまざまなホラーを詰めこんだオムニバスドラマは、現代への警句も滲ませていた。



『シュルプ』のポスター

14
『シュルプ』

 韓国の時代劇ドラマは、シスターフッドを巧みに織りまぜた物語で楽しませてくれた。重厚感溢れるキム・ヘスの演技は流石の一言。



『還魂』のポスター

13
『還魂』

 韓国ドラマに十八番であるベタなメロドラマをやりつつ、外見が変わっても愛せるか?という批評性を打ちだした物語はよく出来ていた。無敵になったウクの扱いに困っているように見えたパート2の脚本は粗雑さも目立ったが、全体的には良作と言っていい。



『ウェンズデー』のポスター

12
『ウェンズデー』

 『アダムス・ファミリー』のウェンズデーが主役の素晴らしいドラマ。自分を貫きながら、性格が異なる友を作り問題に立ち向かっていく物語は、孤独という名の靴を履きこなした先の輝かしい光景でいっぱいだ。へつらわないウェンズデーのセリフは現代の病巣を鋭く突くものが多かった。



『ハーフ・バッド: ネイサンと悪の血脈』 のポスター

11
『ハーフ・バッド: ネイサンと悪の血脈』

 『Giri / Haji』(2019)のジョー・バートンによるイギリス産ドラマ。家父長制がもたらしがちな葛藤を描いた物語と、ダークな色彩感覚が映える映像は魅力的だ。レッツ・イート・グランマが手がけた音楽もグッド。



『シスターズ』のポスター

10
『シスターズ』

 文字通り女性のドラマだ。イネの描き方が最後まで雑なのは引っかかったが、“階級”の苛烈さなど秀逸な社会批評が光る物語には魅せられた。



『ファースト・キル』のポスター

9
『ファースト・キル』

 レズビアンのヴァンパイアもの。セクシュアル・マイノリティーの視点ヴァンパイア作品を拡張した物語はもっと高く評価されていい。



『私の解放日誌』のポスター

8
『私の解放日誌』

 傷ついた登場人物たちは完全に救われるわけではない。それでも、ほんの少し目の前の風景が良いほうに変わり、生きるための呼吸ができる空間を得る物語は、一筋の希望を見せてくれる。生きづらさを感じているすべての人たちに捧げる暖かい処方箋のようなドラマ。



 『産婦人科医アダムの赤裸々日記』のポスター

7
『産婦人科医アダムの赤裸々日記』

 ベン・ウィショー主演の医療ドラマ。偏見を助長するという批判もあったが、イギリス政府の緊縮政策によって苦境を味わう医療現場のリアルが描かれた内容は一見の価値ありだ。



『39歳』のポスター

6
『39歳』

 40代目前の女性3人を軸にした韓国ドラマ。人生を重ねることの喜怒哀楽が丁寧に描かれた良作だ。



『未成年裁判』のポスター

5
『未成年裁判』

 信念を持って未成年の犯罪者と向き合うキム・ヘス演じる判事の姿だけでも必見レヴェル。娯楽性あふれるエンタメの中に骨太な社会批評を込められる韓国ドラマの真骨頂が味わえる。



『ペーパーガールズ』のポスター

4
『ペーパーガールズ』

 最も過小評価されているドラマのひとつだ。人種や環境といった異なる背景を持つ少女たちが少しずつ連帯していく物語には、半歩先の感性と価値観が刻まれている。



『トップボーイ』のポスター

3
『トップボーイ』シーズン4

 イギリスから生まれた大人気ドラマの最新シーズン。さまざまな社会問題を絡めながら、感情の機微を描く上手さは匠の域。



『刑事シンクレア シャーウッドの事件』のポスター

2
『刑事シンクレア シャーウッドの事件』

 実際の事件をもとに制作された社会派ミステリー。サッチャリズムや炭鉱労働者のストライキなど、イギリスの歴史を反映した物語は痛烈な社会批評が際立つ。適材適所のキャスティングもハイスコア。



1  『アンナ』ディレクターズカット版のポスター

1 
『アンナ』ディレクターズカット版

 映像が凄まじい。ヴァレスカ・グリーゼバッハやアンゲラ・シャーネレクといったベルリン派を彷彿させる写実的シーンの数々は無駄がない。このストイックさはカメラワーク、脚本、音楽、演出などさまざまなところに及んでいる。田舎の貧しい家庭に育った劣等感を隠すため、いくつもの嘘を重ねていった末にどうなるのか?と視聴者が見入ってしまう物語の展開はスリル満点。
 古典映画からの引用がちらつく社会批評も必見。“女性”や“階級”といった問題の本質を鮮やかに突いており、努力できる性格と才能を備えていても、文化資本の有無が人生の大半を決めてしまう現実を容赦なく示す。この示す役割を担った主演のスジは、彼女のキャリア史上最高の演技で視聴者を驚かせ、楽しませてくれる。あらゆる点がハイスコアを叩きだす芸術的傑作だ。

サポートよろしくお願いいたします。