2022年ベスト映画20
女性の映画監督による作品と出逢う機会に恵まれました。国も視点も多彩で、勉強になることも多かったです。アジア圏に良作が目立ったのも2022年の特徴ですかね。
20
『スピリットウォーカー』
韓国産SF映画。ハリウッド映画も顔を真っ青にして逃げだすであろう小細工なしの王道エンタメ作品。やはり韓国映画は奥が深くおもしろい。
19
『彼女たちの話』
男女対立の構造に疑問を抱いた少女の物語。いまだ男性優位な日本で作る映画としては甘さも感じられるが、対立構造を乗り越えようとする視座とそのためのアイディアには光るものもあった。
18
『戦争と女の顔』
スベトラーナ・アレクシエービッチによるノンフィクション『戦争は女の顔をしていない』が原案の映画。必死に生活を取り戻そうとする元女性兵士の姿は、“女性”と言う存在について考えさせてくれる。
17
『呪詛』
ホラー映画の様式を破る演出が印象的な台湾映画。ファウンド・フッテージを上手く取りいれた手腕もグッド。
16
『話したりない夜の果て』
演劇映像創作団体「88生まれの女たち」の初長編映画。深い内省を描いた素朴な映像に惹かれた。
15
『哭悲 THE SADNESS』
劇中での性暴力の扱い方には監督の鈍感さがうかがえる。とはいえ、ディストピアホラーとして洗練されているのも事実で、この点は魅力と言っていい。
14
『サイバー地獄: n番部屋 ネット犯罪を暴く』
韓国史上最悪のデジタル性犯罪として知られるn番部屋事件に迫ったドキュメンタリー。事件の凄惨さはもちろん、背景にある女性蔑視も見逃してはいけないポイントだ。
13
『グロリアス 世界を動かした女たち』
女性解放運動を牽引したグロリア・スタイネムと仲間たちの物語。ラディカル・フェミニズムの革新性を記録した内容は一見の価値あり。
12
『マイスモールランド』
川和田恵真監督の商業映画デビュー作。17歳の在日クルド人・サーリャの視点を通して、居場所だと信じていたところから排除される痛みを描いている。その痛みが残る傷を無自覚に踏みつける周囲の日本人という光景に、鋭い批評眼を感じた。
11
『林檎とポラロイド』
ギリシャのクリストス・ニク監督による映画。寓話的ストーリーは人という生き物の機微を見事に描ききっている。
10
『ソフィアの願い』
このモロッコ映画は、アラブの女性を描くうえで付きまといがちな“家父長制とミソジニーの犠牲者”というステレオタイプに抵抗する。とはいえ、その抵抗が“金の力”によって表現されるところに、監督の複雑なアイロニーを感じた。
9
『白い牛のバラッド』
イラン・フランスの合作映画である本作は、シングルマザーの視点から社会の不条理を描いている。イランの法制度を背景にした物語は“闇”を突きつける。
8
『エル・プラネタ』
芸術家のアマリア・ウルマンが監督・脚本・主演を務めた作品。SNSなど多くの虚構で彩られた現在の現実を描いた物語は辛辣なアイロニーが光る。
7
『平和の木々』
4人の女性を通してルワンダ虐殺を描いた良作。監督を務めたアラナ・ブラウンの長編デビュー作で、女性の視点を忘れない誠実さが光る。
6
『小さなからだ』
ラウラ・サマーニ監督によるイタリア映画。20世紀初頭のイタリア北東部を舞台にした物語は、現在にも通じる抑圧と困難を見せてくれる。
5
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
チャドウィック・ボーズマンに対する深い哀悼の意を感じる物語にやられた。植民地主義への批判的眼差しなど、切実なメッセージ性は気高さで溢れていた。“破壊”が求められがちな現在に向けた祈りのような映画。
細部にまでこだわった映像も魅力だ。丁寧に色を使い分けるだけでなく、その色を際立たせるコントラストも巧み。強いて難を言うなら、植民地主義批判を描くうえでアメリカ映画の限界?と思わせる描写やキャラクター設定が見受けられるところだろうか。
4
『NOPE/ノープ』
大好きな映画。考察家が食いつくエサをあえてばら撒くところもあったジョーダン・ピールは、本作で衒いを取り払っている。アメリカ史、黒人差別史、ハリウッド史を行き来しながら、“目を背けず問題に立ち向かおう”というまっすぐな想いを表現した物語。
3
『女神の継承』
タイ・韓国の合作ホラー。タイの文化に詳しくないと理解しきれないところもあるが、“信仰”がもたらす厄災の怖さは多くの人を震えあがらせるはずだ。
2
『声もなく』
静謐な映像が際立つ韓国のクライム映画。青年と少女の交流を描いた物語はブラック・ユーモアを見せつつ、真摯な社会批評もうかがえる。
1
『TITANE/チタン』
『RAW 少女のめざめ』(2016)に続くジュリア・デュクルノー監督の映画は、いわゆるボディーホラーだ。男性性に対する信奉、女性の体に生まれたがゆえの苦悶など、多くのテーマを乱雑に接続している。こうした作品を表層的と評するのは簡単だが、そもそも男性性を崇めたり、妊娠・出産のプロセスをただ尊いものとして押しつけたりする現代社会がさまざまな上辺によって息苦しいものとなってしまっているのではないか?このような視座を持った作品として筆者は理解した。
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