COURTのはじまり③
COURTのはじまり③
COURTの第一弾シリーズ「フィッシャーマンズ 」がデビューするのは2016年2月。今回は、ブランドのトーン&マナーとものづくりの方向性がやっと見えてから、デビューの日を迎えるまでのおよそ1年間のことをお話したいと思います。
目指したのはフィッシャーマンズセーターの「奥行き」
池田さんと「目指すべきはニットだ!」とものづくりの方向性を確認してから、すぐに試作に入りました。イメージしたのはフィッシャーマンズセーターのようなざっくりとした風合い。ところがなかなか理想の仕上がりに近づきません。編み地のような奥行きが出ないのです。実はこの行き詰まりが、このあと第二弾、第三弾と続く商品政策の、エンジンとなっていきました。
通常、カーペットを新たに開発するときには大きく2つの選択肢があります。ひとつは自社で持っている糸を使い、織り方や柄の出し方を工夫して新作を仕立てる方法。もうひとつは、つくりたい色柄に合わせて糸から開発する方法です。COURTの試作は前者、既存の糸で行っていました。
試作が難航する中、今までにない風合いを出すにはやはり糸から開発するしかないことが見えてきました。中でもそのとき解決策として僕の頭に浮かんでいたのが、「綿(わた)染め」という手法です。
在庫リスクを取る覚悟
カーペットの糸づくりは、一般的には糸をつくってから染色する「糸染め」という手法を用います。では「綿染め」はというと、糸になる前、ウールの綿(わた)の状態で染色してから糸にしていく手法です。
・糸染め:綿→糸→染色
・綿染め:綿→染色→糸
僕がこのとき思いついたのが、白いウールの綿を別々に10色くらいに染めて、それらを撚り合わせて1本の糸にするというもの。こうすることで1本の糸の中に様々な色が混ざり、生地感に奥行きが生まれるはずと考えました。
より詳しい糸づくりの話
なぜはじめからそうしなかったかと言えば、前回も少し書いた在庫リスクが理由です。ただでさえ糸も生地も動かす量の大きいウィルトン織りカーペット。中でも綿染めから行うアイテム開発は、圧倒的に在庫リスクが大きいのです。
既存の糸を買い足すのと違って、ひとつのアイテムの糸をつくるのに必要な綿の量は、およそ1トンにも及びます。しかも、シリーズとして6色展開を考えていたので、トータルで6トンもの在庫を自社で抱えなければなりません。
「もし、ブランドが失敗したら目も当てられない」
まさにそういう状況になります。しかし、つくれば必ず他にない、いいものになる。そもそも扱いに高度な技術を要するウィルトン織りのカーペットで、これほど大きな在庫リスクも覚悟で乗り込んでくる競合もまず現れないでしょう。
「これで失敗したら、ブランディングを掲げるのはやめよう」
そんな覚悟を持って、「綿染めで糸から生地をつくる」方へ、舵を切って行きました。そうして誕生したのが、“TAILOR MADE CARPET”をコンセプトにしたCOURTのデビュー作、フィッシャーマンズシリーズです。
綿染めが功を奏し、まさにフィッシャーマンズセーターのようにざっくりと、それでいて奥行きのある6種のラグが誕生しました。
デビュー時に決めていた3つのこと
「今度オープンする新店のオープニングパーティーで、COURTをお披露目してみないか?」
そう声をかけてくれたのは、ブランディングの師匠である中川政七商店13代の中川淳さんです。願ってもない提案に即決でお返事し、COURTのお披露目の時期と場所が決まりました。
2016年2月、新たにオープンした中川政七商店の東京表参道店(現在は閉店)で、COURTはデビューの日を迎えることができました。
評判は上々で、ありがたいことにデビュー早々にマガジンハウスの『& Premium』で8ページにわたる特集が掲載。取扱店舗も順調に伸ばし、初年度目標だった500万の売り上げは、のちに半年ほどで達成することになります。
ブランドとして、とても良いスタートを切れたCOURTですが、このデビューの時点で僕が決めていたことが3つありました。
1)第二弾をハンドタフテッド工法でつくること
2)第三弾に既存のカーペット生地を生かすこと
3)第一弾で開発した糸を横展開すること
カーペットやラグは、1年にそう何度も購入するアイテムではありません。新商品を投入するサイクルは、年に1回、もしくは2年に1回と事前に池田さんと打合せていました。一方で、ブランド認知を広げていくには1シリーズだけだと弱い。展示会に出展するにも、アイテムの幅があった方が出展しやすいと考えました。
そこでデビューの時点で第二弾、第三弾の商品政策を決めておき、機を逃さずに次のシリーズを出せるように準備をしておきました。このとき大事にしたのが、織物らしさ、ニットらしさを目指して大きな在庫リスクを取った第一弾のフィッシャーマンズと、ビジネス的にどうバランスをとるかという視点です。
やりたいことを、ビジネスとして成立させるために
1)第二弾をハンドタフテッド工法でつくる
長くラグブランドを続けていくなら、どこかで在庫リスクの少ないハンドタフテッドのシリーズを入れておくことは絶対に必要でした。そこで、第二弾の「ローカルウールン」で早速、ハンドタフテッドの生地を採用。その一方でこのシリーズで大事にしたのが素材の良さです。色も羊の原毛そのままの無染色。「ローカル」の名の通り、羊の種類による毛の手ざわりや特長の違いを楽しめるシリーズとして展開しました。
2)第三弾に既存のカーペット生地を生かす
第三弾「カレッジ」は、1960年代に流行したプレッピー(伝統的で上質な服を着くずすコーディネート)の要素を取り入れたシリーズです。
あらゆる織物は、ほつれないように端の処理が必要です。あえてそこにツイードやネクタイ生地などアクセントになる素材でパイピングを施すことで、自社の端処理の技術を生かしながら、ほどよく品と遊び心のあるシリーズを目指しました。
ここでのポイントは、本体には自社で手掛けている既存の敷き込みカーペット生地を活用したこと。それにより新たな生地在庫を抱えずに、新シリーズを生み出すことができました。
こうして第二弾、第三弾とアイテムが増え、点から面の展開が可能になってきた中で、2017年6月には狙っていたインテリアライフスタイル展に無事出展を果たします。
秋に家具、春にはインテリアプロダクトが主に集まる同展で、あえて春に出展する事で競合を減らし、アトリウムという注目ブランドが集まるブースへの出展にも成功。一度の出展で新規が10件決まりました。その後も3年連続でアトリウムに出させてもらう中で、インテリアショップへの認知が獲得できたのは大きな財産です。
3)第一弾で開発した糸の横展開
「在庫リスクを抱えてでも、やりたいこと」を貫いた第一弾。しかし気持ちだけではビジネスは立ち行きません。第二弾、第三弾はその大きな在庫リスクをこれ以上増やさず、いかに新たなアイテムを生み出すかという発想のもと、すんなりと「どうあるべきか」が決まってゆきました。
同時に、フィッシャーマンズで開発した糸を自社の敷き込みカーペットに採用。ラグの生産だけでは消化し切れない糸や綿の在庫を生かす道を、別で確保しておきました。
こうして、自社が持っている資産や外部リソースを使い合わせることで第三弾までトントン拍子で進んできたCOURTのブランディング。しかし、次の第四弾の開発で、なかなか大きな困難に遭遇することになります。その話は、また次回。
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