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萬福飯店の親父さん

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この記事は2021年9月7日に「西荻窪おさんぽ物語〜無料公開版〜」にて無料公開いたしましたので、そちらでお読み頂けます。

萬福飯店に絵を購入頂き、1月から店内に展示されています。この絵は個展に出したものを少し修正して描き直したものです。


何年か前に隣の「イルカに乗った少年」で親父さんと出くわした時、ビールをご馳走になりながら色々な話を聞いて、息子さんの大和くんにはまだ鍋を振らせていないという話が出て、親父さんが倒れたらどうなるのだろう?と思ったということがありました。

それが現実となってしまいました。

萬福飯店の親父さんこと樋口シェフが4月に肺がんで亡くなられたそうです。確か75歳くらいでしたか。私の母と同い年です。親父さんは15歳から中華料理の道に入り、25歳で西荻窪に萬福飯店を開業しました。以来50年も鍋を振り続けました。有名人ではS海林さだおさんや、F津絵里さんも萬福飯店を愛されたそうです。以前西荻にあった実家のマンション、西荻コーポラスでは、樋口さんの上の階に住んでいて近所付き合いがあり(今は樋口さんも住んでおられません)、3歳の頃から親父さんの中華を食べて育ちました。当時は出前もされていました。

巡り合わせでしょうか、昨年は機会があり家族とも、古い友人とも親父さんの料理を食べまくった一年でした。こんなに食べに行ったことはあのマンションに住んでいた時期以来初めてです。だから悔いはありません。

この話を一番に教えてくださったのは、夢飯の小島店長です。小島店長は萬福飯店に私の絵を買うよう勧めてくれた方で、歌人枡野浩一氏、マンガ家内田かずひろ氏と西荻窪brewbooksで開催中の「一人一人一人展」に来てくださった時にこの話を伝えてくれました。

私は翌日香典を持って行きました。そこには必死で鍋を振る大和くんの姿がありました。大和くんは確か私の4歳年上なので48歳。48歳にしてデビューとなるわけです。おばちゃんから香典や挨拶などは一切断っている旨を聞きました。密葬だそうでした。今は悲しみに耐えながら走り続けることが精一杯なのでしょう。

客席を見渡せば、お客さん達はそのようなことには気づきもしないかのように美味しい美味しいと食べています。厨房を見ると小窓から見える横顔はまるで親父さんそのもののような大和くんの姿があり、胸が熱くなりました。
大和くんの料理を食べた初めてのチョイスは「木耳肉ムースーロウ」(卵と豚肉のキクラゲ炒め)でした。全く遜色がない味でした。絶品です。大和くんは親父さんの味を完璧に受け継いでいたのです。「美味しかったです」とだけ伝えて出ました。

この話は今は皆さまの胸の中にしまっておいて頂き、いつも通りに食べに行って頂きたいと思います。大勢で押しかけたり、挨拶には行かないで下さい。大和くん、奥さん、おばちゃん三人で必死に頑張っているのですから。今後は火曜、水曜がお休みになるそうです。

親父さん、安らかに。

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