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切なくて優しい中華料理屋のカツ丼の味「ふくろく(東高円寺)」

西荻窪から少し離れますが番外編として。

丸の内線東高円寺駅と新中野駅のちょうど中間の青梅街道沿いに、行きつけのいわゆる「町中華」があります。地域の方が主な客。カウンターのみのこのお店には必ず一人くらいは昼からビールを飲んでいるオヤジさんがいます。

このお店のある青梅街道のちょうど両側に剣道の指導をしている新渡戸文化学園と小学生の指導と自分の稽古をさせて頂いている興武館(指導は2018年まで)があるからしばしば食べに来ます。

外観は暖簾がまずいい。綺麗にしていて朱色のような赤が眩しい。どんなに古びたお店でも暖簾が綺麗だとかなり期待が高まるものです。黄色い看板も味わいがあるし、(御満足いただける味)といううたい文句が書いてありますが、実際この店の料理は本当に満足できます。特にチャーハン、カツ丼、ワンタン。カレーライスやタンメン、つけ麺も捨てがたいですが。

ここのラーメンやワンタンはスープが味わい深い。当たり前の普通の味なのですが、かすかに鶏ガラの香りが立っていていかにも心身の疲れが癒されます。麺は柔らかめに茹でられるタイプ。硬めが好みではあるのですがこのお店のスープにはこれが合うんです。よくどこにも茹で加減が指示できるとは書いていないのに初見で「硬めで」とかいう客がいて、あれは情緒を解さない人のやることですね。指定しなくていい店なら身を委ねるのが筋です。私は好みを聞かれたら家系ラーメンなら硬め、博多ラーメンなら粉落としを超えて「生(一呼吸くらいお湯を潜らせる)」と迷わず言いますが、お店によっては硬めが必ずしも正解ではないのです。

ラーメン、ワンタン共にトッピングはのり、メンマ、チャーシューに赤いカニカマが入る。ラーメンはトッピングが大切ですが、赤いカニカマ、小さな一切れの海苔が食欲を増進させます。チャーハンは香ばしい町中華らしいオーソドックスなチャーハン。カツ丼は薄手の肉はよく叩いてあり柔らかく、注文を受けてから揚げるのが嬉しいですよね。卵でとじられても衣のカリカリの部分が残り美味い。私は衣が全て煮込まれてしまっていないカツ丼が好きなのですが、これがなかなか出会えないんです。タレも甘辛いのが好みだし、卵も完全には火が通らない半熟なのが素晴らしい。西荻窪なら坂本屋が完璧なのですが。ふくろくの割り下はなんと醤油ダレをラーメン用のガラスープで割っています。カリカリ感と甘辛醤油味、半熟卵のとろりとしたコク、豚の濃厚な脂身が全て同時に楽しめる好み通りのカツ丼。

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10年ほど前から二人で厨房に立たれていた奥さんを見かけなくなりました。奥さんが作るチャーハンは家庭風の柔らかい味になり、昔は二枚目だったであろうご主人が鍋を振ると油っこいカラッとしたお焦げの効いたよく炒めた濃い味になります。私は後者が好きで。しかし最近はご主人一人になり、どことなく以前よりは奥さんが作る優しい味わいに近くなって来た気もします。

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ご主人とは最近お話しをさせていただける関係になり、奥さまはやはり他界されたそうです。ご主人自身も一度身体を壊され療養をされていた時期があるそうで、今は昼ごろに開けて夕方頃には閉めてしまう。なんと90歳になるご母堂が健在ながら脚が悪く介護されているとのこと。

土曜日はたまに混雑することがあり、身体を壊されて以降動きが鈍ってしまったご主人はある日なかなか次の注文がとれずにいたりしました。すると若い女性客が憤慨した様子で席を立つ。事情を知っているだけに辛かったが、ご主人はそのお客さんの後ろから「ごめんなさいね」と言いました。食べ終えた食器も片付け切らずにいる様子を見て察しはつくと私は思います。

町中華ブームが来て古い中華料理屋に若い人が訪れるのは良いことですが、長い歴史ある枯れた町中華の味わいの奥には深いドラマもあるだろうことを想像して、あまり時間に囚われず気長にやって来るのがいいのでしょう。そしてそのお店の欠点でさえ楽しみに来る余裕がほしい。こんなことを書いていたら、また明日食べに行くしかないですが。もう口の中であのカツ丼のイメージが出来上がってしまって。今すぐに食べたいと行ってみたら閉店。というスリリングさも古いいぶし銀たる町中華であり、それもまた一興。くれぐれも食◯ログで調べたりしないで行くのがおすすめです。評価はほとんど無いに等しく、それでも絶品メニューが隠された穴場名店はあまたあります。

ここだけの話ですが、ここのかた焼きそばはお酢が入っていて酸っぱい。それを酢抜きにしてもらうとすこぶる美味いです。組み合わせもタンメンに半チャーハンとか、メニューに無いリクエストも対応してくれます。老店主の体力がいつまで持つか。やめてしまうと身体が力尽きてしまいそう、と今日も開けているはず。11時頃〜15時頃まで大体毎日やっています。

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