(13)パリの妖精(あとがき)

最後の最後で「彼女への愛」に気づいた自分が許せない。

恥ずかしい話だが、私が彼女と出会い、心が引かれていっているのは、自分でも明らかに分かっていた。
また彼女も私に好意を抱き、二人が日に日に強く結ばれていくことも自然の流れだと思っていた。

しかし、彼女と一緒のときは何も気にしなかったのに、別れたあと、どうしても彼女の障害のことを考えてしまう。
そこには一歩引き下がった卑怯な自分がいる。
『どこまで進んでいいのだろうか?』と打算的な考えも浮かぶ。
表面的には彼女に『偏見なんてないよ』と善人ぶって付き合っていた自分が、うす汚くある意味で罪人のようにも感じる。
それは『無意識の意識だ』と、自分をなんとか慰めるが・・・。

パリの空港で彼女を強く抱きしめたときは、本当に何も考えなかった。
偏見もなく打算もなく、純粋で無心の行動だった。
『私には彼女しかいない。彼女のいない日々はない』と。

機中で、
日本に着いたら休暇を取り、もう一度パリに戻り、結婚を申し込もうと思った。
フランス語も猛勉強しようと思った。
筆談でいいから、いろいろ話したいと思った。
日本に住むのは彼女にとって負担が大き過ぎる。
だから、パリに住もうと思った。
いろいろ思った。

空港の別れが永遠のものだったなんて、その時は夢にも考えなかった。
ふたりは運命的な出会いをしたのだから、きっとまた必ず会えると確信していた。

なぜ彼女は蚤の市で私に興味を抱いたのだろうか。
彼女の悲惨な過去を知ったことで、かってに思いを巡らした。
『きっと彼女は、同じ顔立ちの人間が怖かったのだ。昔の犯人像につながるので、あえて東洋人の私に安堵感を見いだしたのだ』と。
いや、違う。
本当は神様のいたずらだったのかもしれない。
私がいかに取るに足らない人間かと思い知らせるためなのか。
神様にお願いしたい。
「もう一度だけ特別な能力をください。」


古びかけた彼女の「スナップ写真」と「妖精のピンバッジ」は今も、書斎の机の前のボードに貼ってある。

(完)

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