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NPO法人が自分の名前に「○○大学」とつけること

以前,「研修機関やカルチャーセンターに「大学」という名称を付けることはできるか?」という記事を書きました。

別のSNSで,似たようなやり取りがあったので,私の考えを述べます。

特定非営利活動法人 京都カラスマ大学という法人が活動しています。

京都の街をキャンパス(学びの場)に見立て、広く一般市民に対して、京都文化に関する講演会やイベント、また社会教育に関する講演会やイベント、小中学校の総合的な学習への授業カリキュラムの提案等の非営利の教育事業を行う法人で,幅広い世代交流の場を提供することで、人々が生涯にわたって学び続け、いきいきとした生活が送れる社会の実現を目的としているそうです。

なかなかに興味深く面白い取り組みではあるのですが,法人名を「京都カラスマ大学」としていることについて,実際の(学校教育法上の)大学の職員と思われるアカウントから,「これ,大丈夫?」という声が上がっているわけです。

前掲の私の記事の記述を再び記すことになりますが,学校教育法には次のような規定があるのです。

第135条 専修学校、各種学校その他第一条に掲げるもの以外の教育施設は、同条に掲げる学校の名称又は大学院の名称を用いてはならない。
② 省略
第146条 第百三十五条の規定に違反した者は、十万円以下の罰金に処する。

学校教育法

「金融大学」というサイトもありました。こちらは,ブログ上で金融に関する資料や動画コンテンツを配信するもののようです。

さてこれらの「大学」は,一見,学校教育法第135条に違反しているように見えます。しかし実際にはそう簡単に結論付けられないのではないか…というのが私見です。

私たちには「結社の自由」「経済活動の自由」が憲法によって保障されています。したがって,自分が経営・運営する組織・会社にどのような名称をつけるのか,これについても基本的には自由である…。これが議論の出発点になるはずです。

しかし,例えばよく知られている企業の名前を使い,その企業にきわめてよく似た事業を展開すると,消費者が混乱し,本来その事業を営んできた「よく知られている企業」と誤認してその商品を購入してしまうかもしれません。その結果,粗悪品を購入して消費者が不利益をこうむったり,もともとの企業のブランドが棄損されたり……と経済的な損害が発生してしまうことがあります。こういうことを防ぐために「商標法」のような法令でもって,ある程度その経済活動の自由に制約を加えることにより,消費者や企業を守っています。

さて学校教育法の第135条です。

学校教育法に定める学校(「一条校」と呼ばれています。)は,法令その他によってその教育の質が担保されています。(初等中等教育なら「学習指導要領」,高等教育なら例えば「大学設置基準」など。)

大学設置基準を全く満たさない「大学」が設立され,例えばカルチャーセンターで勉強したことなども含めて「学修」したとみなされ,「学位」を付与するようなことがあれば,その「学位」の価値は大いに棄損されます。(これがいわゆる「ディプロマ・ミル」の問題。)

「大学」に通えば高等教育が受けられ,「大卒=学士」としての身分が手に入ると思ってその「大学」に入ったのに,その「学位」の価値が全くないもの(大卒とみなされないもの)だったとすれば,その教育施設に通った「学生」の不利益も甚大です。高等教育を受けたいという人や本来の一条校である大学を守るために,いわゆる「一条校」でなければ「大学」と名乗るべからず…というのが,学校教育法第135条の本来の趣旨でしょう。

もし「学校教育法第135条」を本当に適用するとすれば,人の持つ「経済活動の自由」「結社の自由」と,その企業・組織が「大学」を名乗ることによる不利益とを比較衡量して,その不利益が「経済活動の自由」や「結社の自由」がもたらすメリットを上回る場合に,初めて罰則の可否が論じられることになるのではと思います。(いわゆる「可罰的違法性」の問題かな…専門家ではないので何とも言えませんが。)

「京都カラスマ大学」も「金融大学」も,これを「一条校」の大学であると誤認して学ぶ人はほぼいないと思います。これらの「大学」が出す「修了証明」は,本来の「大学の単位修得」とならないことは承知の上で,これらで学んでいる限りにおいては,目くじらを立てるほどのことではない…ということになりそうです。

と・は・い・え。

大学に属する人間が,「○○大学」という「一条校ではない教育・研修施設」を見つけて,もやもやっとする気持ちが湧き上がるのもむべなるかな,と思います。正直に言うと,私もそうです。ですが「京都カラスマ大学」や「金融大学」の取組みはこれはこれで興味深く,社会にお役にも立っているので,応援したいというのも,これまた正直な私の気持ちです。

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