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天翔ける配達人は橇とばし聖夜の静寂に鈴響かせる


「プレゼント、何がいい?」

電話ごしに恋人は私にたずねた。
私は物欲が薄いし、必要なものはいまのところ全部あるのだ。困ってしまった。

「強いていえばあなたがここにいてほしいけど」
「それは、ごめんね」
わかっているのだ。この人は今夜が一番忙しい。

「じゃあお願いをひとつ」
「わかった、何でもどうぞ」
「世界を消滅させてほしい」
「急に怖いこと言うなあ。難しいけど、ま、やってみるよ」
「・・・簡単に言うなあ。まあいいや、今夜は気をつけて行って」
「ありがとう、おやすみ」

翌朝起きてみると、外がやけに静かだった。
まさか本当に世界が・・・?と思って慌てて玄関に出てドアを開けると、顔に冷たいものが当たった。
雪だ。外は一面真っ白だった。

携帯電話には恋人からメッセージが入っていた。
「世界を消滅させるのは難しかった。音だけ消したってことで勘弁してください、ごめんね」

ばか、とつぶやいて、メッセージの表示された画面を撫でた。
こんなに雪が積もっては外に出られない。恋人の好きな煮込み料理でも作っていよう。お風呂もセットしなくちゃ。
一晩中子どもたちにプレゼントを配っていたあの人は、きっとくたくたに疲れて帰ってくるだろうから。





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タイトルの時点でネタバレしているのだがこれをどうしてもタイトルにしたかった、むしゃくしゃしてやった(供述風)

恋人はサンタクロース♪って歌のそのまんまな話です。
あとそこへ自分の詠んだ「ドアを開け手に舞い降りたひとひらに朝の静寂の正体を知る」って歌が組み合わさってお話が出来ました。

ていうか同棲してるなら一晩くらい我慢せいやという気もするが、分かってわざと甘えてるわがままということでどうかひとつ。


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