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アフターコロナに対面とリアルを組み合わせて組織生態系を作ってイノベーションを起こす3つのアイディア

コロナの終結がそろそろ見えてきましたね。私の住んでいるマレーシアでは、5/1から屋外でマスクを着用しなくてもよくなり、国境を超えても自宅隔離がなくなりました。だいぶ日常モードに戻ってきました。

対面での活動を制限されると、あらゆる活動をオンライン化することになります。実は、それは、私がマレーシアに11年前に移住してからやってきたことであり、コロナ状況の中で、「私はロックダウン11年目です」と言ってきました(笑)。

オンライン化は、次の3つのステップで進みます。

Step1 対面を単純にオンラインに置き換える。

対面でやってきたことを基準にして、同じことをオンラインでやれないかと模索するのが、多くの人が最初にやっていることです。

このような捉え方の場合、オンラインは対面の劣化版にしか見えないので、「やっぱりオンラインじゃ無理だ。早く対面に戻らないかなぁー」と嘆いたりします。

オンラインは対面の劣化版?

Step2 オンラインだからこそできる可能性を模索する。

しばらくオンラインに取り組んでいると、その環境になじんできて、新しい工夫を始める人が出てきます。

例えば、オンラインだと簡単に録画ができるので、ミーティングの録画を議事録代わりに共有したりします。

それが発展して、グループに分かれて行う議論を相互共有して、倍速再生で視聴しながら、他のグループの内容も相互に理解し合うなんてこともやったりします。

対面じゃないとできないこともあるけれど、オンラインじゃないとできないこともあるという認識が生まれてきます。コロナ状況の中で、多くの人が、このような認識を得ているのではないでしょうか。

オンラインだからこそできること

Step3 対面とオンラインとの最適な組み合わせを模索する

コロナが集結し、対面での活動を再開し始めると、せっかくオンラインでやれたことを生かして、対面と組み合わせたいという気持ちが生まれてくると思います。

Step1の状態に戻るのではなく、Step1とStep2を統合したStep3へ進みたい!ということです。これが、アフターコロナのテーマになるのではないかと思います。

拡張コミュニケーション空間

私は、対面とオンラインとを融合した拡張コミュニケーション空間における集団活動を「21世紀型コミュニティ」と名づけています。21世紀型コミュニティをどのようにデザインして意味のある活動を生み出していくかが、アフターコロナの組織&コミュニティのテーマになってくるでしょう。

それは、21世紀型コミュニティを対象としたファシリテーションである「デジタルファシリテーション」の方法論を整理することへと繋がっていきます。

組織とコミュニティ

集団活動には、組織的な活動とコミュニティ的な活動とがあります。

組織的な活動の特徴は、活動目的が明確であり、それを達成するために計画を立て、役割分担をし、マネジメントしながら実現していくことです。企業組織の場合は、実現した成果によって得た利益を組織のメンバーに報酬として支払いますが、それと引き換えに、メンバーは決められた役割を果たすことが求められます。そのため、メンバーには、「決められたことをやり、報酬を受け取る」という受け身のマインドが育ちやすくなります。組織の求心力は、報酬であり、企業組織は、組織として継続するために人件費を必要とします。

一方で、コミュニティ的な活動の特徴は、活動目的よりも関係性が重視されることです。明確な活動内容を定義されていないオープンスペースで、関係性から偶発的、即興的に活動が生まれ、それがコミュニティの歴史として語り継がれていき、共通の物語になっていきます。自分自身がコミュニティに語り継がれている物語の一部となっていることが、メンバーに生きがいを与えます。コミュニティの求心力は物語です。物語性が豊かな場所は、物語磁場を持ち、人を引き付けるのです。

多くの集団活動は、組織的な側面とコミュニティ的な側面とが混じり合っています。同じ集団でも、やるべきことが明確なときは組織的になり、明確でないときはコミュニティ的になるでしょう。戦後の焼け野原の中でゼロからスタートしたときは、人と人とが偶発的に出会って想いを語りながら関係性を育て、コミュニティ的に活動を始めたのではないかと思います。町工場が大規模な工場になり、多くの人が働くようになってくると組織的な活動になっていき、無駄をなくして効率を高めていきました。しかし、社会にモノがあふれ、目的を達成してしまった今、やるべきことが不明確になってきています。コロナ・パンデミックという世界的なカオスを経て、私たちは、再び人と人とが偶発的に出会って想いを語りながら関係性を育て、拡張コミュニケーション空間において、21世紀型のコミュニティ活動を始める時期が来ているのではないでしょうか。

制度と活動

集団活動を捉えるときに、組織ーコミュニティという軸の他に、制度ー中身という軸を考えると分かりやすいです。

組織的な活動では、先に制度を決めて、それに合わせてメンバーが活動していく場合が多くなります。メンバーには、「制度に従う」という意識が芽生えやすいです。組織の目的に応じて効率的に人が動くように管理マニュアルができ、トラブルが生じるたびに、管理マニュアルが強化されていく傾向があります。

一方、コミュニティ的な活動では、一人ひとりの多様な想いから活動が自己組織化し、それが「制度化」していきます。自己組織化が起こるような環境として、オープンスペースが維持されるようにグランドルールを設定し、「効率化」によってオープンスペースが埋まらないように保護します。

エリノア・オストロムは、長期間うまくいっているコモンズ事例を研究し、それが成立する条件として、次の設計原理があることをゲーム理論をもとに提唱し、2009年にノーベル経済学賞を受賞しました。これは、共有資源をコミュニティで管理するときの設計原理の参考になるものです。

オストロムの8つの原理

  1. 境界:共有資源から資源を引き出す個人もしくはその家計と共有資源の境界が明確である。

  2. 地域的条件との調和:専有ルールが供給ルールと調和している。

  3. 集合的選択の取り決め:運用ルールの影響を受ける個人の大多数は、運用ルールの修正に参加できる。

  4. 監視:共有資源条件と専有者を検査する監視者は、専有者に対して責任がある。

  5. 段階的制裁:運用ルールを侵害する専有者は制裁を受ける。

  6. 紛争解決:専有者間もしくは専有者と当局者の紛争を解決するために、安価な費用の地方領域に接する。

  7. 組織化する権利の承認:制度を構築する専有者の権利は、外部の政府当局によって異議を申し立てられない。

  8. 組み込まれた事業:より大きな体系の一部である共有資源に関しては、専有、供給、監視、強制、紛争解決ルールは多層の事業で組織化される。

失われた30年の次のステップへ進むためには?

1945年からの戦後のカオスの中でのコミュニティ的な活動からイノベーションが起こり、様々な町工場が生まれ、そこから大規模な工場が建設されて組織的な活動へと展開していったプロセスは、バブルが崩壊した1990年頃で1サイクルしました。

その後、コンピューターやインターネットが登場しましたが、それは、次の2つの流れを生み出しました。

1)組織的な活動を効率化するためにデジタル化する。
2)インターネットを活用したコミュニティ活動が生まれる。

国外では、シリコンバレーや深センなどに象徴されるような活性化したコミュニティ活動からイノベーションが起こっていったのに対して、日本では、組織的な活動を効率化する方向へ向かい、国全体が「大企業病」のようになっていきました。「失われた30年」とは、短期的な利益を追求した結果、組織内部にあったコミュニティ機能を「無駄なもの」として切り捨てて効率化し、イノベーションが起こる土壌が失われていった時代だったのではないでしょうか。しかし、それも、必要なプロセスだったのでしょう。私たちが、この次の時代へ進むためには、どこに突破口があるのでしょうか?

拡張コミュニケーション空間を活用してイノベーションを起こす3つのアイディア

失われた30年がコロナ・パンデミックで終わり、そこから次の時代が始まるのだとすれば、どこにその兆しがあるのでしょうか?

コロナ状況の中では、リモートワークやオンライン会議が常識になりました。オフィスに通うことが制限される中で、「オフィスに通わなくても仕事ができる」ということに、多くの人が気づいたのです。

一方で、「上司が目を光らせて部下を管理する」というマネジメント手法はうまくいかず、一人ひとりの主体性にゆだねるような関わりだとうまくいくといった、コミュニケーション空間による違いのようなことも発見されたのではないでしょうか。オンライン空間は、組織的な活動には向かず、コミュニティ的な活動に向いているのです。

私は、「失われた30年」とは、企業組織が、効率化を重視してコミュニティ機能を失った結果、イノベーションが起こりにくい状況にはまり込んでいったことが原因だと思っているので、コロナ下で、組織的な活動が難しくなり、強制的にコミュニティ的にならざるを得ない状況になったことをチャンスだと感じました。

活動がオンライン化すると、物理的な距離が関係なくなるので、自分が問題意識を持っている様々なプロジェクトに関わることができるようになります。一人が複数の組織に所属したり、複数のプロジェクトに参画したりしやすくなるのです。実際、10年前に完全オンライン化した私は、約30個のプロジェクトに関わっています。

一人ひとりが、複数の21世紀型コミュニティに所属することが、失われた30年を終結させ、次の時代へ突入する突破口なのではないかと思います。以下で具体的に3つのアイディアを紹介します。

アイディア1 本社と子会社のパラレルワーク

大企業の中には、イノベーションを起こすために子会社を作り、子会社で実験的な取り組みをしているところがあります。私は、そのような子会社を21世紀型コミュニティにして、本社や、他の子会社の社員をパラレルワークで参加させるとよいのではないかと考えています。

イノベーションとは、様々なアイディアが偶発的に結合することで生まれます。化学反応が起こるためには、多様なアイディアと活性化エネルギーを超える関係性の質が必要です。しかし、子会社で多くの人を雇うことは難しいため、少数のメンバーが集められて、経営者から「イノベーションを起こせ!」と命じられるわけですが、これは、イノベーションが起こりにくい構造になっています。しかし、外部にオープンにしてしまうと、イノベーションが起こったときに、それを自社の利益にすることができないという意識があって、結果的に、少数でリソースとアイディアが不足した状態で、何かをひねり出さなければならなくなるということになりがちです。

それを解決するのが、本社やグループ会社とのパラレルワークで、週に1-2回関わってくる社員を増やすということです。グループ会社全体をリソースとして使いながら、イノベーションを目指すことが可能になります。

アイディア2 会社をコミュニティカンパニー化

参宮橋にあるアトリアは、先日、株式をばらし、36%以上の株主が誰もいない状況にして、「みんなの会社」にすることを決め、キックオフイベントを行いました。アトリアとは4年ほど前から付き合いを続けていて、参宮橋のリアルの拠点と、オンラインでのつながりとをどのように融合させるのかを一緒に考えてきたので、私もイベントに参加しました。

イベントで、アトリアの井尾さわこさんが語っていたのは、偶発的、即興的なプロセスに周りが巻き込まれながら生態系が育っていったプロセスでした。どの時その時に起こることに対応しながら、ゆらぎながら、変化し続けていった結果として、今の形があるということがよく分かりました。

どの木も違う形をしているように、どのコミュニティも違う形をしているのが自然なのでしょう。参宮橋のカフェというカタチからスタートし、営利企業として持続可能な利益を上げながら、そこにパラレルワークの形で参画する人を「クルー」として巻き込み、オンラインでのネットワークも広げ、その結果として、「みんなの会社」としてコモンズ化していくというプロセスは、今後、他の場所でも起こっていく可能性があるものだと思います。

アイディア3 中小企業ネットワークのコモンズ化

モノづくり系の中小企業は、独自の技術を持っていますので、イノベーションの種になり得る可能性を持っています。しかし、その技術を、大企業の下請けとして部品を作って納品することだけに使っていると、日本経済全体が縮小している今、経営が上向くのは難しいですし、社員のやりがいも見つけにくいです。

そこで、中小企業や地銀が少しずつ出資して共同経営の会社を作り、そこをイノベーションが生まれるための生態系のハブとして育てるというアイディアです。

若手社員が、週に1-2回の頻度でパラレルワークで働けるようにして、社外との交流を活性化させれば、現状のビジネスの維持と、未来への投資とを両立させることができるでしょう。

共同経営の会社は、コモンズ的な管理をし、1)コミュニティ機能、2)研究所機能、3)スクール機能 の3つを持たせて、まずは、相互学習を促進しながら関係性の質を高めて集合知が生まれる土壌を育てていきます。

最初は、スクールとしてマネタイズを行いながら、そこに関わる多様な人たちのアイディアを結び付け、社会課題を研究し、イノベーションの可能性を探ります。

共同経営に関わる中小企業のリソースを活用した新規事業開発ができたら、中小企業は、大企業への下請けの仕事だけでなく、自分たちの新規ビジネスでも利益を上げることができるようになるでしょう。

共同経営の会社は、税理士や社労士など、中小企業のハブになっているところがリーダーシップを取って立ち上げ、徐々に「みんなの会社」になっていくプロセスを設計するとうまくいきそうです。

物語をデジタルで可視化する

先に述べたように、コミュニティ活動の求心力は、自分たちが歴史を作っているという実感、自分が関わっている物語が立ち上がることです。

デジタルファシリテーションは、コミュニティのナラティブ(物語)が立ち上がるプロセスを促進します。

それは、偶発的、即興的に起こる様々なことを記録し、可視化し、共有するという方法を用います。

私は、そのためのツールとして、Miroという巨大なオンラインホワイトボードに注目しています。そこにコミュニティやプロジェクトの歴史を刻みながら、ナラティブが自然と立ち上がることを促進するのです。

アフターコロナで活性化する拡張コミュニケーション空間。
そこに生まれる21世紀型コミュニティ。
そのプロセスを促進するデジタルファシリテーション。
ナラティブが立ち上がるカギとなるツールとしてのMiro。

だいぶやるべきことが整理されてきたように感じています。

『Miro革命~ビジュアルコミュニケーションによる新しい共創のカタチ

失われた30年を終わらせて、次の時代の扉を共に開けていきましょう。



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