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コミュニケーション空間の重心移動

コロナ状況の中で、対面での活動に制約がかかり、世界中のコミュニケーションがオンライン化した。

ここで言うオンライン化というのは、単に会議室でやっていたことをZoomで代替するということに限らない。より大きな変化は、SlackやKintoneなどのグループウェアにコミュニケーションの重心が移動しつつあるということだ。

コミュニケーション空間を、同期ー非同期、対面ーオンラインという2軸でまとめると次図のようになる。

デジタルコミュニケーション空間

対面では、ほとんど活用されていない「非同期コミュニケーション」が、オンラインでは中心になる。この変化が大きいのだ。

ちなみに、同期というのは、同じ時間を共有してコミュニケーションすること。会って話すとか、電話で話すとか、Zoomで話すとかが、「同期コミュニケーション」である。

一方、非同期というのは、時間を共有しないでコミュニケーションをすること。メールでやりとりするとか、LINEなどのメッセンジャーツールでやりとりする、Slackなどのグループウェアでやりとりするということが、ここに含まれる。動画や音声を「後で見ておいて(聞いておいて)」と共有するのも非同期コミュニケーションである。

ファシリテーター概念の拡張

コミュニケーションを促進して、集団の創造的な活動がうまくいくようにかじ取りするのがファシリテーターの役割だが、コミュニケーション空間が拡張したことで、ファシリテーターの役割も拡張している。

拡張されたコミュニケーション空間におけるファシリテーターを、デジタルファシリテーターと呼ぶ動きが広がっている。

Howspaceは、デジタルファシリテーションを次の3つに分類している。

1)対面ファシリテーション

対面でのコミュニケーションをファシリテートする。

2)バーチャルファシリテーション(オンラインファシリテーション)

ZoomなどのWeb会議室でのコミュニケーションをファシリテートする。

3)非同期ファシリテーション

グループウェア、メッセンジャー、動画、音声などを使った非同期コミュニケーションをファシリテートする。

これらをまとめると次の図になる。

日常と非日常

これらの3つのファシリテーションは、単独で行われることもあるが、多くの場合は組み合わせて行われる。

どのように組み合わせるのかによって、それぞれの強みと弱みを補い合い、新しいコミュニケーションの価値が生まれる。そのようなコミュニケーションデザインを行うことは、デジタルファシリテーターの価値創造の1つである。

デジタルファシリテーションの例

1)反転授業

反転授業とは、伝統的な授業において教室で行われていた講義を、非同期オンラインに移す一方で、旧来は自宅学習で行われていた知識習得を、同期ー対面の教室で行うようにコミュニケーションデザインを変更し、学びを最適化したものである。

反転授業

Learning Management System(LMS)に授業動画をアップし、フォーラムに課題を提出し、相互コメントを行うようにすると、協働的な学びが「非同期オンライン」で起こるようになる。それを促進するのが、非同期ファシリテーションである。

「同期ー対面」である教室では、「非同期オンライン」での協働の学びの振り返りをしたり、対面だからこそできるグループワークをしたりする。その活動を促進するのが、対面ファシリテーションである。

反転授業では、どの活動を、非同期オンラインと同期ー対面のどちらで行うのかを考えて最適化し、それぞれの活動を意図に沿って促進する。

2)オンライン反転授業

反転授業の教室をZoomなどのWeb会議室に置き換えたのが、オンライン反転授業である。この置き換えは、単なる代替以上の意味を持つ。

オンライン反転授業では、参加者の住んでいる地域に制限がかからないので、国内外の多様な地域からの参加が可能になる。そのため、コンテンツからの学びだけでなく、相互の違いからの学びを、より効果的にデザインすることが可能になる。

また、Zoomのブレークアウト機能を使ったグループワークでは、それぞれのワークを録画することができる。そのため、他のグループの活動を後から録画視聴して、自分のグループの活動との違いから学ぶことができるのである。これは、対面では困難なことである。

また、社会人の学びでは、仕事の関係などで遅刻や欠席を余儀なくされることがある。オンラインの場合は、録画が簡単なので、参加度のばらつきを吸収して学びの場を維持することがやりやすくなる。

オンラインで育まれた関係性をもとに、対面で会うイベントを行うことも効果的である。日常で継続的にオンラインで繋がっているからこそ、非日常での対面での交流が大きな意味を持つのだ。

3)多言語ワークショップ

AI翻訳ツールの進歩により、テキストベースでのやり取りであれば、多言語コミュニケーションの精度が高まってきた。

国境を超えられるというオンラインの特性を生かし、非同期オンラインと同期オンラインとを組み合わせて、多言語環境で関係性を作りながら、意味のある活動を生み出す試みを行っている。

同期オンラインでは、通訳によるコミュニケーション支援や、Microsoft Translatorを使ったコミュニケーションなどを行い、非同期オンラインでは、Slackに各自が母語で書き込みを行い、相互にDeepLなどのAI翻訳ツールで翻訳して理解するというやり取りを行う。

ゲストスピーカーの話を聞くなどの一方的コミュニケーションには通訳を入れることができるが、双方向コミュニケーションには通訳を入れられないので、Microsoft Translatorによる精度が落ちる同期コミュニケーション(しかし、非言語的な交流はできる)と、それよりは精度が高いAI翻訳ツールを使ったテキストベースによるコミュニケーションとを組み合わせて行う。

これらのコミュニケーションデザインの組み合わせも、日進月歩のAI翻訳ツールの進歩によって、日々、変わってくる。

また、動画による共有も、例えば中国の参加者がいる場合、様々な制限があり、その制限をどうやって超えて共有するかの方法の試行錯誤が必要になる。

このような様々なテクノロジー状況を踏まえ、最適なコミュニケーション配合を見出し、意味のある場を創っていくのがデジタルファシリテーターの仕事である。

コミュニケーション空間の重心移動

コミュニケーションデザインは、参加者のオーナーシップと密接に結びついている。

参加者の自由度が高い順に並べると、

非同期オンライン(時間も場所も不一致)

同期オンライン(場所が不一致、時間は一致)

同期ー対面(場所も時間も一致)

となる。

社員や学生(生徒)を管理しやすいのは、「同期ー対面」であるが、社員や学生(生徒)が、マイペースで活動しやすいのは「非同期オンライン」である。

コロナ状況で起こったのは、「同期ー対面」をベースにして管理中心のマネジメントを行っていた組織や学校が、強制的に「非同期/同期オンライン」へ移行せざるを得なくなり、それまでの管理体制が機能不全になったということではないだろうか。

もともと社員や学生(生徒)にオーナーシップを与え、セルフマネジメントを中心にして経営していた組織や学校であれば、社員や学生(生徒)は、より自由な時間が増え、その時間を有効活用して成果に繋げたであろう。

コロナ状況で、コミュニケーション空間における重心が、「同期ー対面」から「非同期オンライン」へ移行し、トップダウンマネジメントが機能不全化し、セルフマネジメントが重要になってきている。私たちは、その状況にどのように対応していけばよいのか?

私は、新しい状況に即した、新しいマネジメントの方法論や、組織経営の方法論が発見されてくることに期待している。そして、そのカギを握るのが、拡張されたコミュニケーション空間において、それぞれの強みと弱みとを理解した上で最適に組み合わせるコミュニケーションデザインであり、それらのコミュニケーションを促進するデジタルファシリテーションなのではないかと考えている。

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