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暗中模索力講座の報告

2023年5月6日、7日に大学セミナーハウス(八王子)の蜃気楼専門学校において、最初の「暗中模索力講座」を実施した。

すでに定まっている枠組みの中で前例を踏襲する仕事がAIなどによって代替されていく時代状況の中、身体を動かしながら、何かを感じ取り、次の一歩を見出していくことが大事になってくるのではないかと思って、暗中模索力講座を手探りで行った。

暗中模索力講座の背景

ChatGPTが登場して、毎日のようにFacebookに「ChatGPTを活用した業務改善」を訴える広告が流れてくる。これは、自然な展開だと思うが、その後に構造転換を引き起こす劇薬でもある。テクノロジーによって旧来の仕事を代替していくDX(Digital Transformation)を破壊的DX、テクノロジーによって前人未踏領域に新しい仕事を生み出すことを創造的DXと呼ぶことにする。

破壊的DXと創造的DX

暗中模索力講座とは、創造的DXに向かう手がかりを探求する講座である。

AIやロボットで代替できる仕事とは何か?それは、「困難系」に分類される、過去のデータをもとにアルゴリズム化することができる仕事である。AIの登場により、込み入った総合的な仕事も、AIで情報処理し、ロボットの作業に落とし込むことが可能になってきた。

これまで、学校教育も、企業の人材育成の多くも、「困難系」をゴールにしてきた。そのゴールを達成するために、様々な制度が作られ、工夫がなされ、効率化がなされてきた。

その成果として、AIやロボットが開発され、そこが人間のゴールではなくなった。いつの時代でも、システムの崩壊は、そのシステムが生まれた理由によっておこるものだ。

2017年 ダボス会議での話

この話は、最近の話ではなく、2017年に行われたダボス会議では、すでに「世界中で10億人の仕事がなくなる」という話が出ていて、各国が、それに対応するための様々な取り組みを始めている。10億人の失業者が出たら、治安も悪化するし、人々の幸福度が大幅に下がるだろう。そのために、新しい仕事に転職できるようにアップスキリングやリスキリングの必要性が言われるようになっているのだ。2022年の岸田首相の所信表明演説で「リスキリングに5年で1兆円」という話が出た背景は、このようなことがあるのだ。

リスキリングの3つの領域

AIやロボットによる自動化によって以下のような領域に、新しく生まれる仕事が出てくるだろう。
①創造的仕事におけるAIやロボット活用
②専門的仕事におけるAIやロボット活用
③単純な仕事におけるAIやロボット活用

この中で、最も有望なのが①であろう。今回のワークショップでは、①に必要な力を「暗中模索力」と定義し、その力をどのように使うのかを実験した。

ChatGPTを活用したブレストセッション

アイディア創発プロセスを以下の4ステップに分けた。
Step 1 ブレスト
Step 2 構造化
Step 3 創発
Step 4 構築
今回のワークショップでは、Step1と4でChatGPTを活用し、それ以外は、できるだけ身体性を活用するようにした。

ChatGPTのような大規模言語モデルは、確率に基づいて「それっぽいこと」を言ってくることが特徴だ。普通に問いかけると、「最も、それっぽいこと」を言ってくる。これを、どのようにブレストに活用するとよいのだろうか?

確率分布と創発の関係

1つの考え方としては、ChatGPTにそれっぽいことを網羅的に出してもらい、それを足場にして人間が新奇的なアイディアを出すということであろう。

もう1つの考え方としては、プロンプトエンジニアリングを工夫して、ChatGPTに新奇的なことを言わせるというものだ。これは、いくつかの方法を、ワークショップの中で試してみた。課題はあるが、試行錯誤の方向性は見えてきた。

Miroを活用した構造化

人間とAIとが協力して出した大量の付箋から、どのようにしてアイディアを創発させたらよいのだろうか?

ブレストの問いは、「AIによって各分野はどのように変化するだろうか?」というものだった。

まずは、それらの付箋を相互に関係づけて整理することにした。
整理の仕方は、いくつかの方針を例示したうえで、参加者が自分で選択した。新たな整理の仕方を自分たちで検討したグループもあった。

グループの1つが整理した図

実際にAIを活用する経験と、付箋を整理して見えてきたものなどが、だんだんと体の中に入り込んでいることを実感しながら、言葉にならないもやもやを抱えたまま就寝し、翌日を迎えた。

身体性を通した気づき

2日目は、Two Loops Modelを使ったワークを行った。Two Loops Modelとは、NewStoriesが提唱している変化の理論だ。

Two Loops

床にテープを貼ってTwo Loopsのカタチを作り、左下の起点から始めて、テープの上を歩きながら、一人ずつストーリーテリングをしていった。

Two Loops の上を歩く

歩きながらストーリーテリングすることで、それぞれの状況で何を考えていたのかが引き出されてきた。さらに、7人がストーリーテリングすることで、時代の動きが見えてきた。

次に、それぞれが好きな場所に立って、そのロールから言いたくなってくることを発現して、相互に対話した。さらに、普段は立たない場所に立ってみて、その場所に立って感じることを話した。

それぞれの位置からの声を出し合うワーク

大学セミナーハウスでのワークショップは、ロール対話までで終わった。

創発の図式化とアウトプット

その後、ロール対話を通して気づいたことを、ワークショップが終わってから1枚の絵にまとめたのが次の図である。

Two Loopsモデルに気づきを書き込む

この図を書くプロセスの中で、様々なアイディアがひらめいた。それを、企画書の形式にまとめる作業を、推論マシンであるChatGPTが支援してくれる。そのステップは以下のようになるだろう。

1)ひらめいたアイディアをエッセーにする。(これを、「エッセンス作文」と呼ぶことにする。」
2)ChatGPTを活用して、「エッセンス作文」を必要なアウトプット形式へ展開するたたき台を作る。
3)ChatGPTと対話しながら、アウトプットをアップデートしていく。

実際に私は、上記のステップでChatGPTをフル活用し、「ChatGPTを活用したデジタルファシリテーション手法の開発」というテーマで助成金を申請するための企画書を作成した。たたき台を作成する労力が大幅に下がり、かなりの時間短縮になった。

今回はやらなかったが、複数の「エッセンス作文」をChatGPTが統合してたたき台を作るというのも、面白そうだ。

2)と3)のプロンプトエンジニアリングのノウハウの蓄積によって、アウトプットのスピードと質が、さらに高まっていくだろう。

まとめ

暗中模索力講座自体が、まだまだ暗中模索中であるが、一度やったことによって、全体像を把握することができた。

ChatGPTと身体という質の違うものをどのように組み合わせたら、相互補完的にアイディア創発ができるのだろうか?という問いに対する具体的な実感を持つことができた。

AIと人間とが相互補完的に共生する未来への体感を育むワークショップとしても有効だと感じた。

このワークショップは、変化に直面している企業、学校、コミュニティ、地域社会などでやると、その場のシステムの深層を体感でつかむことができ、さらに、その気づきをアウトプットまで繋げることができるので、面白いことになりそうだ。

やってみたいという団体は、ぜひ、田原までお声がけください。

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金額は、交通費、宿泊費などの諸経費+応相談で。
プロトタイプの段階なので、実践機会を増やすことを優先しています。



 


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