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AI翻訳ツールを活用した多言語国際ワークショップの実践!「タネが生み出す地域の未来(Seeds For Local Futre)」(その1)

特定非営利活動法人ホールアース研究所が主催するワークショップ「タネが生み出す地域の未来(Seeds For Local Futre)」は、中国、韓国、日本、台湾の4地域の在来種のタネを守る活動家が集い、タネの未来について共に考える試みだ。この試みを、デジタルファシリテーションの観点から紹介したいと思う。

第1回が、2019年に富士山麓で実施された。第2回が台湾で実施されるはずだったが、コロナ・パンデミックにより中止になり、「オンラインで何とかできないか?」ということで、私のところに相談が来た。

対面で実施していた4泊5日のイベントを、そのままオンラインに置き換えるのではなく、オンラインの特性を生かして、オンラインの強みを生かした取り組みにしましょうと伝えた。

対面のメリットは体験や交流の強度が強く、関係性が一気に深まりやすいということだ。一方で、デメリットは、移動費が高いため、最大でも年に1度程度しか集まれないということ、言語の壁を超えるためのテクノロジーの活用がしにくいことだ。

それに比べて、オンラインのデメリットは、対面のメリットの裏返しで、体験や交流の強度が弱く、関係性の構築に時間と工夫が必要になるということ。だから、オンラインのメリットである「回数を増やして、交流頻度を高めることができる」を最大限活用することになる。また、DeepL翻訳や、Papago翻訳などのAI翻訳ツールを使えば、文字情報を中国語(簡体/繁体)、韓国語、日本語の4言語に翻訳して共有することができる。

・対面はイベント型、オンラインはプロセス型が特徴

・言語の壁をテクノロジー活用でできるだけ超えていく

の2つを合言葉にして、4言語を活用した連続ワークショップを実施することになった。

在来種というテーマに関心があり、オンラインの場づくりに慣れているメンバーでチームを組んだ。農に関わっている活動家の平方亜弥子さん、姜 咲知子 (イェジン)さん、かつてオーガニックショップを経営していた杉山仁美さんに声かけをした。大まかな内容が固まり、実施フェーズに入るときに、『Miro革命』を執筆中でITツールに強い玄道優子さん、グラフィックレコーディングの関美穂子さんが加わり、6名のファシリテーターチームを結成した。

ホールアースの松尾章史さんが事務局となり、在来種のタネを守る活動家の鈴木一正さんから学びながら、8名での前人未到の多言語国際ワークショップへの試行錯誤が始まった。

中国はネット制限があるので、4地域で共通して活用できるプラットフォームやツールの選定に苦労したが、ビデオミーティングツールとしてZoom、プラットフォームとしてSlack(参加者の交流用)とMiro(ワークショッププロセスの可視化)に使い、DeepL、Papago(韓国語、中国語・繁体が使用可能)、Microsoft Translator(音声を翻訳可能)を翻訳ツールとして活用することにした。

翻訳ツールを活用したワークショップのテストも兼ねて、2021年8月に「言語ビッグバン入門講座」を開き、約30名で、各種翻訳ツールを使ったコミュニケーションの実践を行った。そこでの知見を取り込んだうえで、2021年11月4日から本番がスタートした。全8回のスケジュールは、以下のとおりである。

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(「タネが生み出す地域の未来」のMiroはこちら

最初に、参加者に自己紹介動画と、簡単な自己紹介の文章を送ってもらい、動画をSlackで相互試聴できるようにした。簡単な自己紹介は、4言語にAI翻訳を書けて読めるようにした。

使用するツールが多いため、ツールの使い方の説明をしていると、本題の時間が短くなってしまう。そこで、使い方の説明を4言語で書いてMiroに貼り付け、できるだけ直観的に理解できるように工夫した。

Zoomを使ったセッションでは、日ー中、日ー韓、中ー韓の3人の通訳が入り、Zoomの通訳チャンネルによって、登壇者の発表や、参加者の質問を通訳した。発表内容は、スライドを4言語に翻訳してMiroに展開し、後から読めるようにした。

最初の2回は、関係性づくりと位置づけ、地域を超えたグループで、Microsoft Translatorを活用した交流の時間を取った。

実際にやってみるとアプリの使い方に戸惑って交流が進まなかったり、慣れないツールの活用でストレスを感じたりしてしまい、思うように進まなかった。参加率が悪くなっていき、運用方法の見直しを迫られた。3回目の時に韓国からの参加者がゼロになり、危機感が大きく膨らんだ。

運営チームで議論し、意図の置き直しを行った。一人ひとりがキャッチしている感覚を出し合った。ツールを使用するストレスを抱えてでも、参加者が話したいことは何かを、もう一度考えた。追い詰められたときは、本質へ立ち返ることが大事だ。Microsoft Translatorの使用はあきらめ、グループでの対話は2言語にして、通訳を入れるように変更した。参加者から出てきたキーワードを付箋に貼り、全体として何が話されてきたのかを構造化した。

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構造化された付箋を眺めているうちに、いろいろなものが見えてきた。在来種のタネが、なぜ育てられなくなっているかというと、大量生産、大量消費の工業社会のパラダイムの中で、化学肥料を投入して収量を増やす工業的な農業が登場し、収量が多くなるように品種改良されたF1のタネが使われるようになったからだ。さらには、バイオテクノロジーの技術を活用した遺伝子組み換え作物も登場し、交雑の問題が出てきたり、タネをDNA解析して特許で独占する動きも出てきている。タネの問題は、私たちの社会のパラダイムと大きく関連しているのだ。

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時代の流れの中で、在来種のタネは追いやられてきた。では、私たちは、次の社会で、どのような新しい農業文化を作っていきたいのか?

それが、私たちがこのワークショップで話すべき話題なのではないか?

田原が文脈を作り、在来種を守る活動をしているシードバンクの鈴木一正さんが、魂を込めて呼びかけた。それで、参加者の心に火が付いた。放課後の飲み会に、たくさんの人が残ってくれて、夜遅くまで熱い議論が続いた。

鈴木さんと私は、みんなが帰った後も二人で残って、夜中の1時まで話し続けた。間一髪で崩壊の危機を乗り越えて、場が転換し、前半を折り返すことができた。

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