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競争原理からリスキリングを捉えると不幸にしかならない(その2)

前投稿で、競争原理で考える限り、「AIやロボットとの競争に負ける」という発想になるということを書いた。

しかし、私は、「AIやロボットとの競争に負ける」のではなく、競争原理でドライブされる状況自体が終わっていくと考えている。社会がグローバル化して相互のつながりが強くなった結果、知識やスキルの意味づけが大きく変わった。AIやロボットは、その動きを加速している。

AI翻訳ツールであるDeepL翻訳を例に挙げよう。

DeepL翻訳が翻訳できる言語

知識やスキルを、私個人の身体で獲得できる範囲で捉えると、私の言語能力は、ネイティブレベルの日本語と、日常会話レベルの英語、あいさつ程度のマレー語である。

言語能力を上げるためには、日常的な訓練が必須で、使っていない言語は、だんだんと忘れていってしまう。

一方で、DeepL翻訳は、日々、選択できる言語を増やしている。ウクライナ戦争前はなかった「ウクライナ語」も、現在は実装されている。私が寝ている間も、DeepLのbotは、インターネット上の言語を集めて回り、AIがネットワーク学習をし続けている。
 
勝ち負けということで言うなら、私は、とっくの昔にDeepL翻訳に負けている。しかし、私が、DeepL翻訳と戦うのではなく、DeepL翻訳と一緒に何ができるのかを考えた瞬間、田原の身体は、「田原ーDeepLシステム」へと拡張し、このシステムでできることが、毎日、どんどん拡大していることに気付く。

2022年2月、私は、ウクライナやロシア、ヨーロッパ、中東などで、Twitterで発信される当事者の声を翻訳して読んでいた。

この当時は、DeepL翻訳にウクライナ語が実装されておらず、精度の悪いウクライナ語対応のAI翻訳ツールを使っていた。わずか1年で、DeepL翻訳はウクライナ語を習得し、言語リストに追加した。

AI翻訳ツールと自分を分離して戦うと勝ち負けになり、AI翻訳ツールと協力してできることを考えると身体拡張になる。

これは、何もAIに限ったことではない。

プログラミングが得意なAさんと、デザインが得意なBさんがいたときに、AさんがプログラミングコンテストでBさんに勝ったり、BさんがデザインコンテストでAさんに勝ったりする。しかし、勝ち負け自体には、あまり意味がない。

コンテストを通して、それぞれの特徴が可視化されたり、二人が仲良くなったりした結果、お互いが身体拡張し、「Aさん・Bさんシステム」が結成されると、二人で協力してできることへと発想が拡がっていく。Aさんがデザインを学んだり、Bさんがプログラミングを学んだりしなくても、デザインとプログラミングを組み合わせたプロジェクトが実現可能になる。

インターネットで世界中が繋がりあっていくと、次のようになる。

1)学習コンテンツへのアクセスの自由度が増し、個人が様々な知識やスキルを身に着けやすくなる。(個人の知識やスキル)

2)他者や道具(AIやロボットなど)と出会う可能性が拡がり、身体拡張することでできることが増える。(身体拡張による共創の可能性)

競争原理では、1)に重心を置いており、他者はライバルと見なす。だから、AIやロボットをライバルと見なすことになり、負ける恐怖におびえることになる。

しかし、AIやロボットによって拡大するのは2)である。それは、実際に使い、身体拡張した状況で考えないと分からない。様々な人が、その人なりのやり方で身体拡張し、新しい発想を生み出すだろう。その新しい発想によって無くなる仕事もあるだろうが、自分と他者をライバルとして切り離すのではなく、身体拡張して共創する可能性として見なすのであれば、仕事を失った人にも、新たな可能性が見出されるだろう。

DIYからDIWOへ

Makersの動きに詳しい友人が、「最近は、DIYじゃなくて、DIWOって言うんだよ」と言っていた。

DIY=Do It Yourself

である。分業化された社会では、様々なことをお金を払ってプロにお願いするようになっているが、それに対して「自分でやろう」というムーブメントが生まれた。DIYは、そのキャッチフレーズだ。

しかし、そのムーブメントが発展し、コミュニティが成熟すると、新しい考えが生まれてきたのだそうだ。

DIWO=Do It With Others

自分が何ができるかよりも、何をやりたいかが大事だ。やりたいことがあれば、それを実現するために、周りを巻き込んで一緒にやればい。無限のリソースが周りにある。テクノロジーもどんどん発展している。AIもロボットもある。AIもロボットもあなたも、「Others」の中に含まれてくる。

一緒に何かをやるなかで、友達もできる。友達が増えれば、やりたいことを実現できる可能性も増える。

そうやって、身近な課題を解決したり、誰も思いつかなかった何かを作ったりしていく中で、自然と新しいことを日々学び、自然と新しい仕事が生まれるだろう。

1)個人の知識やスキル だけに注目し、競争原理でリスキリングを捉えると不幸にしかならない。

しかし、

1)個人の知識やスキル + 2)身体拡張による共創の可能性 

の組み合わせで考えれば、AIやロボットを含むOthersの発展は、自分の可能性の発展であり、自分の発展は、誰かの可能性の発展である。

ここには、幸せな未来を作っていく希望が宿るのではないだろうか。

スクールシステムとコミュニティ・ラーニング

競争原理に基づく現状のスクールシステムには、長年の蓄積があるので、それは今後も続いていくだろう。だが、それと並行して、「身体拡張による共創の可能性」に光を当てた多世代、多分野が交じり合うコミュニティラーニングの場が必要になってくるだろう。

不登校支援、若者支援、リカレント教育・・などが、こちらに合流すればよいのではないだろうか。

ざっくりとしたイメージ図は、以下のとおりである。

コミュニティ・ラーニング

2月18日・19日に実施する「蜃気楼大学」は、新たな学びの場の構造を実験的に出現させる1日となる。

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