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少年たちと、ショートショートの書き方講座

本日は久しぶりに法務省へ。日頃の少年院での活動の報告や、今後の取り組みについて、いろいろとお話しをさせていただきました。またやっていかねばと!

そして、以下、前に矯正協会発行の「刑政 2021年6月号」に寄稿したエッセイを転載させていただきます。(ご厚意で転載許諾をいただいています。)

なぜこの活動をはじめたのか、なぜ続けているのか、実際の様子はどうなのかなどを、詳しく書かせていただきました。

広く知っていただきたい思いです。長いですが、ぜひ!

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「少年たちと、ショートショートの書き方講座」 田丸雅智

 ショートショートという形式の小説を専門に書く「ショートショート作家」を名乗って活動している。ショートショートとは簡単に言うと「短くて不思議な物語」のこと。もっというと「アイデアがあり、それを活かした印象的な結末のある物語」のことだ。
 そんなショートショートを広めるために、自身の執筆活動と並行して力を入れている活動がある。それが、全国各地で開催しているショートショートの書き方講座だ。90分ほどの時間内でアイデア出しから作品完成、発表までを行うというものなのだが、メソッドに従って進めていけば誰でもショートショートが書けるようになっている。参加者はのべ2万人以上で、下は小学一年生くらいから、上はシニアの方まで、企業などでも開催していたりする。
 誰でも書けるなんて、本当に?
 多くの方がそう思うのではないかと思うのだけれど、作文が苦手であろうとなかろうと、創作経験があろうとなかろうと、参加者のみなさんは実際に作品を完成させてくれている。どの作品もおもしろく、ぼく自身もたくさんの刺激をもらっている。
 その講座を少年院で開催させていただくようになったのは、2017年の2月から。ご縁で声をかけてもらい、群馬の赤城少年院で開催させてもらったのが最初だった。2020年度の活動は残念ながら新型コロナウィルスの影響ですべてが延期になってしまったものの、その赤城での講座を皮切りに2020年の2月までに関東を中心に17回、単純計算でおよそ2か月に1度のペースで活動してきた。
 しかし、初めて少年院での講座を打診していただいたときは、正直なところためらう気持ちのほうが強かった。それは少年院に対する印象ゆえで、ぼくは勝手に怖いところだというイメージを持っていた。
 背景には、おそらく自分が通っていた小学校のエリアに少年院があったことが関係している。大人たちからは悪いことをしたら入るところなのだと聞かされていて、建物のたたずまいからもなんとなく近づきがたいものを感じていた。
 そんな少年院で、果たして無事に講座が開催できるのか……。
 もうひとつ、別の不安もあった。
 誰でもショートショートを書くことができる。
 ふだんの講座ではそう謳っていて、実際にみなさんが書けている。
 だが、少年院の少年たちにも、同じことは言えるのだろうか……。
 そんなぼくの考えは、まったくの杞憂に終わる。
 最初に訂正することになったのが、少年たちへの印象だ。
 たしかに、少年たちは重大な罪を犯してしまった。それは事実で、消せない過去だ。が、実際に会った彼らは抱いていたイメージとはむしろ逆で、礼儀正しく純朴そうな印象を受けた。もちろんその裏には教官の方々をはじめとした関係者、そして本人の努力があることだろうが、それにしてもイメージとは全然違った彼らの姿に、ぼくは自分の思い込みと偏見を深く恥じることになった。
 さらに、だ。
 肝心の中身についても、ほかの場所で開催している講座と同じように、少年たちは立派な作品を次々と生みだしてくれたのだ!
 その詳細を記す前に、ここで、ぼくがふだん行っている講座の内容を簡単にご紹介したいと思う。いつもはワークシートを使って行っているのだが、紙とペン、あるいはスマホやパソコンなどがあればどなたでもできるものなので、ぜひお手元で挑戦してみていただきたい。
 最初にするのは、「言葉(厳密には名詞)」を4つほど書きだすことだ。たとえば「薬」「クッション」「ホース」「スマホ」などという感じで、何でもOK。
 次に、その中から1つを選んで、その言葉から「思いつく言葉」を3つほど書く。たとえば「スマホ」を選んだとすると、「充電が必要」「アプリ」「電話ができる」など。ここでは名詞も含めた動詞や形容詞や副詞など、より何でもOKだ。
 そして今度は、出した順番とは逆にして、「思いつく言葉+選ばなかった残りの言葉」をあべこべに組み合わせ、ふつうは聞かない「不思議な言葉」を作ってみる。たとえば「充電が必要な薬」「アプリのホース」「電話ができるクッション」という具合。
 次にその中から1つを選び、それがどんなものかを空想したり、メリットやデメリットを考えてみる。「電話ができるクッション」なら、たとえばその名の通り「電話の機能が搭載されているクッション」で、「手を使わずに寝ながら電話をかけられるのがいいところ」「コーヒーをこぼしてシミができたりすると、通話にノイズが入るようになるのがデメリット」という感じ。あとはこれらを肉付けしながらつなげるだけで、短くて不思議なショートショートの完成というわけだ。
 小説を書くとなると、多くの方が「何か難しい決まり事があるんじゃないか」「書くべきことや書いてはいけないことがあるんじゃないか」「誤字脱字をしたらどうしよう」などの様々な不安に駆られるのではないかと思う。が、少なくともぼくの講座の中では、それらを気にする必要は一切ない。
 何を書いても自由。ワークシートという一応のガイドはあるものの、こうすべきという絶対のルールなどは存在せず、言葉が少々間違っていようが漢字が書けまいが、オールオッケー。
 唯一の決まりごとは、楽しむ、ということだけ。
 あとはすべてが自由である。
 ただ、みなさんにはそうお伝えしているものの、ふだんの講座の中でも不安の声はよくあがる。
 言葉が何も思いつかない。不思議な言葉がうまくできない。アイデアがうまく広がらない……。
 そういった方にぼくが最初にお伝えするのは、大丈夫なのでどうか安心してください、ということだ。その上で、その方の中から言葉やアイデアを引き出すための質問をする。すると、たとえ初めはピンと来ていなくとも、やがて決まって「そういうことか!」と目を見開く瞬間が訪れる。そうなると筆は一気に進み、言葉はどんどんあふれだし、気がつけば作品が目の前にできあがっているということになる。中には自分が小説を書けたというその事実がすぐには認識できなくて、呆然とされるような方もいる。みなさんの様々な表情に、ぼくもうれしくて思わずニヤニヤしてしまう。
 それとまったく同じ光景が、少年院での講座においても毎回見られる。少年たちも筆を走らせ、自分だけの物語をしっかり紡ぎだしてくれているのだ。
 その一方で、少年院の場合には、ほかとは少し異なっているところがある。特にワークの初期段階で、取り組む前から「分かりません」「できません」という少年がとても多いということだ。
 が、そんな中でも、ぼくがやることは変わらない。大丈夫だと声をかけ、彼らの中に眠る言葉を引き出すための質問をする。少年たちは、初めは「えっ?」と困惑したような顔になる。「こんなのでいいんですか……?」と不安そうな顔をする。ぼくがOKだと伝えると、少年たちは「ほんとですか……?」と戸惑いながらも書いていく。その繰り返しで、いつしか彼らは自分の力で進みはじめる。できないとこぼしていた少年も、まるで人が変わったように筆を動かし、ついには作品ができあがる。達成感に包まれた素敵な表情を見せてくれる。
 そんな少年たちを目の当たりにすると、ぼくはこんなことをいつも思う。
罪を犯してしまったのは、ほんの少し、どこかで何かがズレてしまったから、だけなのではないか、と。
 もちろん、ズレという一言で片づけられるほど、この問題は簡単ではなく、被害に遭われた方のことを想像するだけでも気持ちは沈み、胸も痛い。
それでも、少年たちと接していると、罪を犯した人とそうでない人とのあいだには、じつは紙一重ほどの差しかないのではないかと思わずにはいられない。
 だからこそ、だ。
 自分もこの問題に当事者意識を持って向き合っていかねばならない。少年たちのこれからのことも、しっかりと考えていかねばならない。
 そんな思いが、この活動をはじめてからいっそう強くなっている。

 さて、講座では、いったいどんな作品が生まれているのか。
 せっかくなので、その中身についてもご紹介したい。
 生まれる作品は、同じ「不思議な物語」でも、じつにバラエティに富んでいる。
 たとえば、雑草を食べて身体の色が緑になってしまった犬の話。泳いですっきりすると通信速度があがるという、海水浴が好きな、意思を持ったパソコンの話。話し相手になってくれるという木の話。新しく開発されたスリッパ型のシューズで、バスケットボールをする話……。
 そんな中、特に印象が残っている一作がある。「背中」というタイトルの作品で、あらすじを簡単にまとめると、こんな感じだ。
 ──主人公である青年は、あるとき家にあった「礼儀正しくしないと、きれいに締まらないネクタイ」を身に着ける。が、彼は素行がよくないためにネクタイも勝手に暴れだし、まったくきれいに締まってくれない。と、彼があきらめてネクタイを投げだした、そのとき。父親が現れ、そのネクタイを手に取って何事もなく身に着ける。ネクタイはその後も暴れることなく、父親はそのまま会社に向かう。その父親の「背中」が、いつもとは違って見えた──。
 内容も、そして「背中」というタイトルも、なんと素晴らしいことだろう。講座では毎回最後に何名かに作品の朗読発表をしてもらうのだが、この一作が披露されたとき、教官の方々も、ほかの少年たちも、もちろんぼくも、大いにうなった。割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
 もしかすると、いまこの一作に触れた方の中には、こう思う方もいるかもしれない。
 いかにも矯正されて書いた感じの、大人ウケを意識した模範的な「いい話」だな、と。
 あるいは、そうなのかもしれない。この少年はぼくたちに読まれることを意識して、優等生的な答えを目指して書いたのかもしれない。
 が、少なくともぼくやその場に居合わせた方々は、決してそうは感じなかった。顔を火照らせながらはにかんでいた作者の姿は、いまでも脳裏に焼きついている。

 何が理由で少年院での活動をつづけているのかと、尋ねられることも多くある。
 それには様々な思いがあるのだけれど、理由は大きく二つある。
 ひとつは、少年たちのために少しでも力になりたいと思っていること。先述の通り、この問題は根深く、どこまでいっても難しい。それでも、自分にできることがあるならば、行動したい。その先に、自分も含めたみんなにとっての、より良い世界が待っている。そう願いながら、ぼくは活動をつづけている。
 もうひとつの理由には、お世話になった方が深く関係している。一般社団法人チーム太陽の北村啓一さんという方だ。北村さんは少年院や刑務所を出院、出所した方々の就労支援などを長年行われていたのだが、じつはぼくの少年院での活動は、この北村さんと出会い、講座の開催を打診していただいたことがきっかけだった。そして赤城少年院での初めての講座以来、ぼくは北村さんと二人で少年院を訪問するようになった。
 そんなある日のことである。少年院からの帰り道、北村さんは車中でみずからの活動を振り返りつつ、いつものようにいかに難しい問題であるかを語ったあとで、「でも」と一言、こうおっしゃった。
「私はあきらめませんよ」
 思わず運転席に目をやると、前を見すえてニヤリと笑っている姿があった。
 なんて方なのだろう、と、ぼくはひどく胸を打たれた。そして同時に、こうも思った。自分のこの活動も、つづけなければ意味がない、と。つづけてつづけて、つづける。それしかないのだ、と。
 その北村さんが亡くなったのは、2019年の夏。奇しくも、一緒に活動ができなくなってぼくが初めて一人で少年院を訪問した、その翌日のことだった。
 意思を継ぎたいと胸を張って言えるほど、いまの自分が何かをできているとは思えない。個人でやっている活動である以上は、残念ながら限界もある。
 が、少なくとも、自分なりの形でこの活動をつづけていきたい、いかねばならないと、心の底から思っている。運転席でニヤリと笑う横顔がふとした瞬間によぎるたび、思いをいっそう強くする。

 小説、特にこのショートショートというものを書くことは、いろいろな力を磨くことにつながると、ぼくは常々言っている。文章力はさることながら、アイデアを考える発想力、それをまとめる論理的思考。作品発表なども含めれば、コミュニケーション力にもつながり得る。これらの力は生きていく上で大いに役立つものだろう。
 加えて、書くという行為は発散にもなる。空想するということは、物事を多様な視点で見つめる訓練にもなる。
 少年院での講座の最後に、ぼくは少年たちにこんなことを伝えている。
 小説を書いてみることなんかに、いったい何の意味があるのか。そう思ったかもしれないが、じつはショートショートを書くことは、生きる上で大切な様々な力を磨くことにもつながるのだ、と。
 そして、こうも伝えている。
 小説の執筆なんて、最初は無理だと思ったのではないだろうか。でも、実際にこうして作品ができた。これは執筆に限らずすべてに通じることであり、これからは何でも自分には無理だと最初から決めつけたりせず、まずは挑戦してみる心を大切にしてほしい、と。

 自分のこの活動が、少年たちの更生のためにどこまで役に立っているのか。
 それは正直、分からない。
 ぼくの講座は直接的というよりはあくまで間接的なものであるし、少年たちに本当はどう伝わっているのかを知る術もない。
 それでも、自問自答を繰り返しつつ、今後もひたすらこの活動をつづけていきたいと思っている。
 根っこの思いはシンプルだ。
「私はあきらめませんよ」
 いまのぼくも、あきらめるつもりはないのである。
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