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マンホールからベンガルトラまで その8

新しい計画


翌日、ホテルを出てすぐに旅行会社を探した。

他の場所に移るためではない。
今日でホテルが予定していたアクティビティーは終了してしまったんだけど、一番の目的である動物写真が実はあまり撮れていなかったのだ。

もっと何か撮る方法を探さなくてはネパールまで来た意味がない。

まだ日本へ帰るまでには時間があるし。
せっかくここまで来ているのだからその為には多少のお金を払っても良いと思っている。
 
村を歩いている時にガイドをやっているという男に二、三度話しかけられた。
彼が言うにはジープサファリをやってないならやったほうがいいということだった。

そこでホテルのオーナーにジープサファリをやりたいと言うと、今は雨季で地面のコンディションが悪いからジープサファリはやってないという話しだった。

しかし、オーナー1人に止められたからといって諦めきれない。
とまあそういうわけで旅行会社にて他の人の話しも聞いてみようとなって、探していたのだった。
 
気にかけてみるとアクティビティーツアーを扱っているお店は至る所にある。
ホテルからすぐのところにも看板を見つけた。
こんな近くにもあったのかと入ってみる。
しかし誰もいない。

その隣りのレストランから一人の男が「ナマステ」と顔を出す。

レストランと旅行会社を兼業してるのかな。

店の男はパンフレットを見せながら今できるアクティビティーについて丁寧に話してくれた。

彼が言うには、この時期のジープサファリはやっぱり雨季なので難しいという。
やってはいるけど、狭い範囲のエリアしか回れないということだった。

なるほどー、うーむ。狭い範囲だとしてもジープサファリをやるべきか、やらざるべきか。

と私が考え込んでいると、私のカメラを見て、写真を撮りたいんですか?と聞いてきた。

「イエス‼︎ 」と答えると「それならジャングルウォークがいいですよ!」と勧められた。
 
ホテルの周りの森を2時間ほど歩くのは体験していたが、彼がいうのは一日間から七日間まで選んで国立公園内の森の中を歩くものらしい。

おすすめは二日間で、動物を観察できる物見櫓のような所を経由して宿泊施設があるところまで歩くというプラン。

歩きながら動物を探すのと、物見櫓から接近してきた動物を観察するという二つの方法が試せる。

「グレイト!」

これこそが私の探し求めていたプランに違いない。
即決でジャングルウォークの二日間をやることに決めた。

料金は二日分の入域料(国立公園に入るための料金)と二人分のガイド料と全員の宿泊料。
それに七回分の食事がついて全て込みで13,000ネパールルピー。約一万三千円である。

ガイドが二人ついて宿泊してこんなに安くていいのだろうか。

というか、巨大なサイとか野生の象とかいる森を身体ひとつで歩いて大丈夫なのだろうか?

説明を受けながら新しい目標ができた喜びと同時に、小さな命の危険を感じていた。

早まったかな。ドキドキ。

でも、ガイドさんは二人いるし、ガイド料金は二日間で一人2,500ルピーだ。
その金額で命の危険になるようなことはやらないだろう。

今までたくさんの人がやってるアクティビティーみたいだし。
うん、大丈夫‼︎
 
説明をしてくれている彼がガイドの一人も務めてくれるらしい。
彼の名前はラージエンドラ。
すごい名前だ。よくわからないが凄そう。なんかネパールの王様みたいな感じがする名前。
 
準備をする注意点としては赤、白、黄色の服は着ないように言われた。動物に攻撃されやすい色なのだろうか。

それから今履いているサンダルはやっぱりダメらしい。
せめて靴下を履いてくれとのこと。

そしてレインコートは必須だ。雨が降ったら困るもんね。
流石に本格的だ。

決行の日は二日後に決まった。
 

天気も良く気持ちのいい朝。今日も暑くなりそうだ。

ジャングルウォーク準備のためのお買い物に出かける。
まずは見つけるのが難しそうな靴を探す。

観光地なのでお土産物やレストランは多いが、日用品を売ってる店が少ない。

サイクリングの時に通った、自転車で三十分ほどかかる隣り街まで行けばなんでもありそうだけど、できればこの街で見つけたい。

トレッキングシューズがベストだが、なければ普通の靴でもいい。サンダルよりはマシだ。
ヘビ対策にしっかりした感じのものが欲しい。

目星はつけてあった。
日本食レストラン、「桃太郎」の下には大きめの服屋さんが入ってた記憶がある。
まずはそこに行って話しを聞いてみよう。
 
ホテルから十分ほど歩いたところにその店はある。
大量の服が置いてありおばちゃんが一人で切り盛りしている。女性用のものが多いようだ。
しばらく物色したが残念ながら靴は置いてなかった。

店屋のおばちゃんに相談したけどこの辺では靴を売ってる店の心当たりはないとのこと。

しかしそれ以外の欲しかった物はその店でほとんど買うことができた。
バックパックも覆える黒いレインコート、靴下、カーキ色のカーゴパンツ。
よし、金額も高くなかったし、いい買い物が出来たぞ。
靴はどうしようかなー。
 
近くの小店でバナナを買い食いしながらとりあえずブラブラ散歩する。

こちらではバナナは小分けされてなくて木になってるような状態でぶら下がってる。
それを自分が欲しい分だけ取って量り売りしてくれるのだ。
バナナは安いし美味いし栄養満点で小腹が空いたお散歩時には最高の食べ物。
小さいバナナを8本買って30ルピーくらい。
ネパール料理の味が苦手な私はネパールティーとバナナに何度救われたことか。
 
カヌーツアーをやった川の方に行ってみよう。
動物もいるかもしれないしね。

しかし今日は特に暑い。
太陽の直射が頭をジリジリと照らす。
水を帽子にかけてるけどすぐ干上がってしまう。

こんな時にはこれ、
「日傘にもなる折り畳み傘〜‼︎」

ドラえもん風にバッグから傘を取り出す。
黒い傘を片手に散歩すれば影が出来て快適快適。
 
景色のいい川沿いの土手には数人の観光客がた
むろしていた。みんな川の方を向いてる。
何を見てるのかなと近くまで行ってみると象だっ
た。

川の中にある小島みたいなところを野生の象が歩
いている。
こんな人間のいる近くにも出てくるんだな。

その向こう側を人間の乗った象が通っていくと、野生の象は挨拶するみたいに鼻を持ち上げている。

あは、かわいい。
面白いシーンに出くわした。
もちろん写真に撮る。

野生象はその後、川に入って身体に鼻のシャワーをかけたりしながらやがて森の方へ歩いて去って行った。

暑くなってきたから象も水浴びに来たのかな。気持ち良さそうだった。

水着も持ってきたらよかったな。私も川で泳げばさぞ気持ちいいだろう。

あ、いや待て。ワニがいるんだった。誰も泳いでる人なんかいない。

高級な川沿いのホテルにはプールがついてるみたいだけど、余裕のない貧乏旅行には関係のない話しだ。
 

野生の象と人を乗せた象とのコミュニケーション お互いをどう思ってるんだろう


やっぱ暑い日は水浴びだよね


象の水浴びを眺める男女


再び散歩をしながら靴を売ってる店を探したが見つからなかった。

もう靴はいいか。サンダルでいいか。ラージエンドラも靴下履けばいいって言ってたし。と諦めかけて投げやりになっていた。

帰りにさっきレインコートとかを買った服屋さんの前を通りかかると、中のおばちゃんが私を見つけて声を掛けてくれた。

「暑いでしょ、ちょっと休憩していきなさいよ。」

中に入るとお茶まで出してくれた。
私の好物ネパールミルクティーだ、わーい。
 
おばちゃんとお互い片言の英語で暑いですねえとか写真撮れたの?とか他愛のない話しをしてたら、急に何か思い出したようで。

「そういえば店の奥を探したらあったんだよ。」

と言って持ってきてくれたのは靴だった。
メンズの黒い靴で、サイズも私の足にぴったり。ただ、森の中を歩くような靴ではなさそう。どっちかというと正装に合いそうな革靴だった。

でもそんな贅沢は言ってられないか。
せっかくおばちゃんが店の奥から引っ張り出してきてくれたんだ。

おばちゃんに感謝して靴の料金を払った後に五円玉を渡した。

これは私の国のお金で感謝の気持ちです。と言うと喜んで受け取ってくれた。
気さくにお茶を出してくれた事へのお礼の気持ちも入っている。

「ちょっと待ってて。」

おばちゃんは店の奥に行って帰って来ると1ルピー硬貨と2分の1ルピー硬貨をくれた。
1ルピーはいつも使ってるけど、見たことのないデザイン。前に流通してたお金なのかな。

それぞれの国のお金の交換。それは小さい額のお金だし価値のある物ではなかったけれど、おばちゃんの気持ちが特別嬉しかった。
気持ちを形として持って帰れるのはそうそうあることではない。

私は大事に硬貨を財布にしまった。

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