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父の帰宅 31

年が明けてみんなでお節料理を食べるときになって、例によって父は起きてこなくて母親と喧嘩になりました。長女は黙って席を離れて自分の部屋に行きました。そしてそれから家族とまったく話をしなくなりました。お金が必要なとき以外まったく話さなくなりました。食事も自分の部屋でとり、必要最低限しか家族と接しなくなりました。そのことで母も頭を痛めていたようです。

そしてまた母のよく使う「お父さんに怒ってもらう」でその件が起こりました。父は姉をリビングに呼び出して顔を平手で殴り続けました。正確な時間を覚えていませんがかなり長時間続いたと思います。姉は何度も床に這いつくばって、そして無言のまま立ち上がり殴られ続けました。

姉は顔を腫らして唇を切って血を流していました。それでも姉はまったく表情を変えず、ひたすら殴られ続けました。そのときは分かりませんでしたが姉が心を閉ざしてしまったのは、ほかでもなく両親が原因であり、父親が主因であるにもかかわらず姉はその父に殴られ続けました。

僕は昔の優しい姉が大好きでした。でも姉は明らかに以前とは違ってしまいました。そのことを考えると両親に対する強い怒りの感情が湧いてきます。西尾先生は親に対して強い憎悪の念を持ち過ぎず許すようにしましょうといわれていますが、この文章を書くことによって激情はどんどん強くなっています。

その後姉は誰にも相談せずに東京に就職を決めて家を出て行きました。僕が大学受験の失敗や失恋で死にそうなほど落ち込んでいるとき、長女と電話で話したことを憶えています。そのとき長女は僕とだけ会話をするようになっていました。長女はそのとき電話でこんなことをいっていました。

「お父さんはすごい人だったよね、頭も良かったし、スタイルも良かったし」。このとき僕自身もそうとう歪んでいたので普通に長女の話を聞いていましたが今考えるとぞっとします。そして長女は母を今でも恨んでいます。家庭がこうなったのはすべて母のせいだと思っています。姉は現在結婚して旦那さんと二人で東京で暮らしています。

現在泣きながらレジュメを書いています。以前橋本先生に子どもの頃の苦しみは一〇の内どのくらいかと聞かれて僕は二と答えましたが現在いくつかはっきり答えられませんが明らかに二より上ということは確かです。

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