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セルジオ・レオーネ監督『夕陽のギャングたち』

 セルジオ・レオーネ監督といえばイタリア映画界を代表する巨匠のひとり。本格的な映画監督デビューは1961年の『ロード島の要塞』(1960年の『ポンペイ最後の日』は当初、脚本のみだったが、途中降板した監督の代わりに担当)で、1964年の『荒野の用心棒』が世界的大ヒットしたことをきっかけに、1965年『夕陽のガンマン』、1966年『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』という“ドル三部作”を監督。1968年『ウエスタン(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト)』の後、1971年に監督したのがジェームズ・コバーンとロッド・スタイガー共演の『夕陽のギャングたち』だ。だが、公開当時は興行的に振るわず、レオーネは1984年の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』まで監督ができなかった(それまでは自らのプロダクションで『ミスター・ノーボディ』などを製作)。ちなみに『夕陽のギャングたち』は後年、じわじわと人気を高め、DVD発売をきっかけにさらに高く評価されるようになったという。
『夕陽のギャングたち』のテレビ初放送は1977年10月のTBS『月曜ロードショー』で、コバーン=小林清志さん、スタイガー=富田耕生、ロモロ・ヴァリ=大木民夫さん、アントワーヌ・ドミンゴ=若本規夫さんというキャスティングで、放送を重ねるうち、約70分に短縮(上映時間の半分以下)されたバージョンしか残っていなかった。DVDの発売時にメインの4人を起用した新たな吹替版が製作され、ブルーレイにも収録され、ようやく完全な形の吹替版が観られるようになった。
 舞台は革命の混乱期にあるメキシコ。かつてIRAの闘士だったコバーン演じるジョンが、家族で盗賊をするスタイガー演じるファンと出会う。ファンは爆破のプロであるジョンを引き込み、メサ・ヴェルデにある銀行を襲うという計画を立てる。そして、計画を実行されるが、銀行はすでにメキシコシティに移転し、そこは政治犯の収容所になっていた。多くの政治犯を救ったファンは革命の英雄となり、ジョンと共に革命の渦に巻き込まれていくというのが物語の流れだ。映画の前半はファンとジョンの狐と狸の化かし合いといえるような意地の張り合いというコメディータッチで展開し、中盤のある出来事をきっかけにシリアスモードに変化し、ジョンとファンの友情と復しゅうの物語が描かれる。ファンは『続・夕陽の~』におけるイーライ・ウォラックを思い出させるような明るく豪快なキャラクターで、ジョンは冷静沈着、頭脳明晰なクールなキャラクター。スタイガーとコバーンの絶妙な掛け合いで笑わせ、終盤の思わぬ展開に驚かされ、物語が進むにつれて次第に芽生えていく男の友情にもグッとくる。そして、レオーネ作品に欠かせないのがエンニオ・モリコーネの音楽。全体はモリコーネ節になっているものの、どこかバート・バカラックを彷彿とさせるような曲があったりするなど、印象的なフレーズが耳に残る。さらに、レオーネといえば爆破シーンも派手で、ジョンが少量のニトログリセリンや爆薬を使って爆破させるシーンは、映画館のいい音響で観てみたいという気分にさせる。
 1989年に心臓発作で死去するまで7本の長編作品を残したレオーネといえば長尺なのが特徴。『荒野の~』の100分以外は2時間超えがほとんどで、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』に至っては、劇場公開版(アメリカ以外、日本やヨーロッパの一部など)は3時間25分、後にレオーネ自身が完成させた完全版は3時間49分、2012年にマーティン・スコセッシが創設したフィルム・ファンデーションが修復・復元したエクステンデット版が4時間11分、さらに、最初のオリジナル版は4時間29分だったという。それだけの長い時間を使って描かれる物語はレオーネならではのこだわりが感じられ、飽きさせない魅力に満ちている。『夕陽のギャングたち』も上映時間は2時間36分。昨今、新作映画でも長尺のものが多くなっているが、日本でも大ヒットしている約3時間のインド映画『RRR』のように手を変え品を変えて楽しませてくれるなら、映画館の暗闇の中で長時間観るのも楽しいものだ。できれば、この『夕陽のギャングたち』、一度は映画館の大きなスクリーンで体験してみたい。
 

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