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クリント・イーストウッド『夕陽のガンマン』

 クリント・イーストウッドといえば、御年91歳の2021年に監督・主演した『クライ・マッチョ』を手掛け、2023年5月に93歳になるが新作を準備しているというニュースが流れるなど、精力的に映画に取り組んでいる。そんな彼がテレビシリーズ『ローハイド』で注目された後、イタリアに渡ってセルジオ・レオーネ監督と組んだのが1964年の『荒野の用心棒』。その続編として企画されたのが1965年の『夕陽のガンマン』だ。イーストウッド演じるモンコ(名前のない男という意味)のライバルとなる大佐役は当初、ヘンリー・フォンダにオファーされたが断られ(フォンダは後に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト(邦題・ウエスタン)』に悪役で出演する)、レオーネがリー・ヴァン・クリーフを連れてきたという。その起用が当たり、ヴァン・クリーフは後に数々のマカロニウエスタンに出演し、人気を獲得していく。片やイーストウッドもレオーネと組んだ『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』までの“ドル三部作”が大ヒットし、アメリカに凱旋することになる。
 筆者が『夕陽~』を初めて観たのはテレビ放送のカット版。確か、何度目かの放送となるテレビ東京『木曜洋画劇場』だったと記憶している。テレビ初放送は1973年4月のNET(現・テレビ朝日)『日曜洋画劇場』(本編正味120分)で、イーストウッド=山田康雄さん、ヴァン・クリーフ=納谷悟朗さん、ジャン・マリア・ボロンテ=小林清志さんというキャストが共演している。後にDVD化されるとき、イーストウッド=山路和弘さん、ヴァン・クリーフ=有川博さん、ボロンテ=谷口節さんで再録音され、山田さんたちの吹替版のカットされた部分を追加録音した完声版では山田さんの部分をテアトルエコーの後輩である多田野曜平さんが山田さんの声質に近い形で演じ、納谷さん、小林さんはそのまま登板というキャスティングだった。
 物語はイーストウッド演じる賞金稼ぎ・モンコと、ヴァン・クリーフ演じる大佐と呼ばれる賞金稼ぎが、ボロンテ演じる賞金首のかかった盗賊のインディオの一味を追うというのが流れだ。モンコと大佐は当初は互いにライバル視するが、インディオを追うという目的が同じことから共闘していくというのがひとつの流れ。一方、インディオは留置所から脱獄し、仲間を集めてエル・パソの銀行を襲い、仲間内で思惑と裏切りが繰り広げられていくというのがもうひとつの流れ。このふたつの流れが互いに交錯しながら物語が進んでいく。実は大佐はある目的のためにインディオに近づいていくが、それが徐々に浮かび上がる効果として使われるのが大佐とインディオが持つ懐中時計。その時計を開いたときに流れるオルゴールの音色が印象的で、クライマックスの戦いの中でも実に効果的に使われる。これはあくまでも結果論だが、大佐の目的が分かった時点で人間的な魅力が増したことにより、イーストウッドよりもヴァン・クリーフの方が役得だったと思うだろう。だが、ヴァン・クリーフのキャラクターが際立ったことで、イーストウッドのキャラクターも浮かび上がるという相乗効果を生んでいることも間違いない。エンニオ・モリコーネの音楽、レオーネ監督の独特の演出、重層的に描かれていく物語が相まって、132分という長さを全く感じさせない面白さだった。
 この『夕陽のガンマン』、テレビ放送やソフトではよく観られるものの、劇場で上映される機会がほとんどない。昨今の4Kデジタルリマスター版上映や『午前十時の映画祭』での上映を期待しているのだが……。何か上映できない大人の事情でもあるのだろうか。やはり、セルジオ・レオーネ作品は劇場の大きなスクリーンといい音響で観てこそ、その面白さが味わえるのだと思う。同じくなかなか上映機会のない『夕陽のギャングたち』と併せて、どこかの配給会社さんが権利を買って上映してもらえないだろうか。そう思っているのは筆者だけではないはずだ。

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