不妊治療を中断した親友が、寝る前に奥さんにかかさず「今日もありがとう」と告げるワケ
「(不妊治療を)ついに辞めることにした。今まで500万円くらいを“溶かしちまった”んだけどね。……ははっ(笑)」
11月。赤羽の飲み屋。
親友の彼が自虐めいたような言い方で、僕にそう告げた。でも、やっぱりどこか寂しそうに見える。
“だから”ってわけじゃないけど、彼がその後に語った、
「毎日奥さんには、寝る前にかかさず“今日もありがとう”って言うようにしている」
この言葉がなんだか胸に刺さった。
その理由を想像すると少し切ないし、同時に彼が奥さんに向けている、“絶対的な愛情”を感じることができたからだ。
ひとまわり年上の嫁さん
彼との付き合いは古く、高校時代からの友人である。
3人兄弟の長男で包容力に長けた彼と、めいわくな末っ子気質の自分。
客観的にみても相性が良いのか、33になる現在まで、15年の付き合いになる。今でも時間をみつけて、たまーに食事にいったり、銭湯にいったり。
彼が結婚する前(20代のとき)には、「合コン」とは名ばかりの飲み会を戦い抜いてきた戦友でもあり、詳しくは話せないが、いわゆる“大人のアソビ”というものも、ともに楽しんできた仲だ。
彼女に振られたときは寄り添ってくれたし、自分もそうしてきた。
もちろん彼の女性遍歴も知っている。
そんな彼が結婚相手に選んだのは、ひとまわり年上の女性。
彼にとって嫁さんはほんとうに特別な存在で、いわく「カッコつけずにいられるし、弱いところも見せられる、この世で唯一の人間」らしい。
事実、仕事のストレスも重なったおかげか、女性関係にギラギラしていた20代のころのトゲトゲしさはまるでなくなり、仏のように穏やかな人に“戻った”。
本気で愛すべき人を見つけることができると、人は変われるもんだなぁと感心しているのである。
長く続く不妊治療
無知な自分が多くを語ることはできないので、あくまで彼から聞いた話がベースになってしまうことを、先に断っておきたい。
結婚して以来、妊活していたものの、彼らは子供に恵まれなかった。そのため、不妊治療に踏み出すことにした。
そして、この不妊治療。とにかく費用が嵩むらしい。
長い年月をかければかけるほど、トライすればするほど、それにともなって費用も膨らむ。
結婚して3年。かかった治療費は約500万円。
この3年間もたまに会えば、自分の姪っ子や甥っ子の写真を僕に見せてくれ、「かわいいだろ〜?」という。
そう話す彼が、どれだけ自分の子供を待ち望んでいることか。心情を察するたびに、こちらもなんだか胸が締め付けられる。
「友達に子供ができることを、妬むという気持ちは一切ない。素直に心からおめでとうと思う。ただニュースで、“自分の子供を殺してしまう奴ら”をみると、正直、穏やかではいられないわな」
なぜだ? 世の中はときに不条理すぎる。
期待することに疲れただけ
彼の口から出た言葉なので、できるだけそのまま書くことにする。
何度もトライし、「次こそは、次こそは」という期待。そして、「ダメだった」と絶望する。その繰り返し。
「ギャンブルで例えるのは良くないけど、ほんとうにパチンコ台に金をつっこんでいるような感覚。“きたか?きたか?”と思うけど、いつもハズレ。そうしているうちに、期待している自分達に疲れた」と話す。
先のことはわからないけど、彼らは一旦、夫婦二人で生きる未来を選ぶことにしたらしい。
僕はただ、心から「ほんとうにご苦労さま」と思う。
いや、それしか言えない。
寝る前に、奥さんに「今日もありがとう」と言ってから眠る
「テレビでヒロミがそう言っていたのを見て、いいなぁと思ったから」
(ヒロミは奥さんに毎日一回、“ありがとう”と言うようにしているらしい。会ったことないから、真相は知らんけど)
芸能人の影響だなんて、なんとも拍子抜けするような理由だ。
しかし、「毎晩寝る前に冗談ぽくても、“今日もありがとう”って言うと、その日ケンカをしていても次の日に持ち越さないし、仲よく過ごせる」
と、この心がけが実際に夫婦が円満にやっていくための、“一助”となっているようだ。
それは義務感(いや、実際には義務的にでもいいと思うが)から発せられる言葉ではなく、辛い時期をともに乗り越えた、その稀有な存在に心底感謝しているからこその発言だと感じた。
冒頭でも話したとおり、彼がこんな風に奥さんに毎晩伝える真意はわからないし、「子供がいない」こととは関係がないのかもしれない。
でも、「子供がいない」からこそ、本人達の絆がより強く試されると自分は思う。
だからこそ、お互いの存在を思いやることの重要性を深く理解しているのだろう。
彼は多くは語らなかったものの、昔から優しくて思いやりのある男だ。
長い付き合いだからこそわかる。きっとそれが本心なのだろうと。
まーしー
画像出典:pixabay
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