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小説『愛子の日常』 序章 Ⅰ.



ハピバースデートゥーユー 
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彼の名はルーカス・セント・トーマス

緑豊かなロンドンの郊外に堂々とたたずむトーマス邸の主となったジョージが、スコットランドから嫁に来た一つ年下の妻オリヴィアとの間に授かった元気な男の子だ。


トーマスという苗字は、新約聖書からきている。つまりは、イエス・キリストの十二使徒の一人であるトマスに由来する苗字だとされている。

名前から分かるとおり、トーマス一家は由緒正しいクリスチャンの家系だ。

トーマス一家の長男として産まれたルーカスは、父と母から溺愛されていた。


ルーカスは、産まれて3ヶ月と半分の時に洗礼を受けたが、セントというミドルネームはその時にもらったものだった。

その際行われた洗礼式というのも、とても厳粛なもので、
(イギリスでの洗礼式といえば、通常赤ちゃんのおでこに水をかける類の事なのだが)この教会では、牧師が子供の鼻をふさぎ、水が溜まった桶の中に子供を潜らせるというものだった。

その儀式の後、洗礼を受けた子供に牧師が名前を授けるのだが、ルーカスの時は一般的な名前のつけ方とは違った。

洗礼名は、ペテロやマリヤといった聖人や天使の名をとるのが一般的であるが、「トーマス一家には、トーマスという立派な聖人の名が入っている」と牧師がふと思ったことがきっかけである。


ルーカスに与えられたセントという洗礼名は、
(カトリックの歴史上、稀に見る異端とも思える名前だが)牧師のかってなひらめきから来たものだった。


しかし、ルーカスの母はこのセントという名をやけに気に入っていた。

なんでも、ルーカスが洗礼を受ける日の朝、夢で不思議な啓示を受けたという。

この子は神の働き手に違いないと、その日から牧師がつけたミドルネームでルーカスのことを呼ぶのであった。

さらに、母の興奮はそれだけではおさまらず、「この子は神が遣うことは間違いない」と言って、その日から年号まで数えはじめた。
(つまり、ルーカスが洗礼を受けた年をルーカスの洗礼名からとって、セント1年と呼び、その次の年をセント2年、、、と数えていった。)

その日とは、AD2018年10月1日。ルーカス・トーマスが洗礼を受け、牧師のかってなひらめきから、セントというミドルネームを与えられた日だ。

これがルーカス・セント・トーマスの誕生秘話である。

セント6年(AD2023年)10月1日、この日も母はセントの誕生日・・・いや、洗礼された日を誕生日として祝って、ハピバースデーを歌ったのだった。

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