亡くなった父との最後の会話があまりにアホすぎだった話
父は2年前に間質性肺炎という病気で亡くなりました。
美空ひばりさんと同じ病気で、肺の組織が徐々に固くなって機能しなくなっていき、呼吸ができなくなっていくという、とても苦しい難病です。
父が亡くなる数日前のこと。
その頃は、病院の食事もほとんど食べられず、かろうじて、スイカだけは食べられていたので、毎回、スイカを小さく切って持って行っていました。それでも、そのスイカのかけらを3つか4つぐらい。
その日は、とても呼吸が苦しそうで、しゃべるのも難しそう。持ってきたスイカも一口も食べず、
「スイカ……いらん……飽きた」
と、言い、
「は…は○△※◇※、たべたい…」
と、小さな声で言うのですが、うまく聞き取れなくて、何と言ってるのかよくわかりません。
「え? は? は……何?」
「は…は○△※◇※ちょ……」
「は……? なに? は……ちょ? えーーと…はなぽんちょ?」
「…ち、…ちがう…」
だよね。はなぽんちょはコレです↓(妖怪ウォッチシャドウサイドより)コレのわけがない。
父が再度、がんばって訴えてきます。
「は…は○△※◇※ちょ」
「ええーーーーっと…はなぽんちょ?」(←だから、違うって)
父は「なんで分からんのか! このバカが!」という苦い顔をして、首を振っています。
なんだろう?? なんだろう…??
私の生きてきた記憶を辿ってみても、
"は……ちょ"みたいな食べ物が全く思いつきません。
多分、果物なんだと思うのですが……。
ううーーーああーーー、もう、わからん、わからん、わからんよーー!
父にこれ以上しゃべらせるのは大変なので、紙に文字を書いてどれが合ってるのか、合ってないのか一文字ずつ確認。その結果、
「最初の"は"は合っている」
ということは判明しました。
…でも、その後がわかりません。
一体なんなんだ!?
自分の意図が全く通じない娘(しかも、はなぽんちょ、はなぽんちょを連呼)にイライラする父は、ほんとに最後の力を振り絞って、
「…ちょ、じゃねぇ!! きょ!じゃ! きょっ!!」
「きょ!?」
・・・・・。
さー、問題です。最初が「は」最後が「きょ」の果物はなんでしょー?
…このシチュエーションで、一体なんのクイズやってんだよ、これ。
その日はたまたま長男アキラ(高2)も一緒にいまして、ポケモンゴー用にスマホを持ってました。当時、私はスマホを持っていなかったので、
「アキラ! ちょっとスマホで検索してみて! "きょ、果物"!!」
そんなキーワードでヒットするとは思えなかったけど、私としてはワラをもすがる思いで検索してみたら、なんと! なんとーーー! 出てきたのです!
「はったんきょ!(巴旦杏)」
スモモの一種みたいです。
インターネットすごい!! ほんとすごい! そしてありがとう!
まさか、ほんとに分かると思わなかったーーー!
それにしても!! ちょっと!お父さんっっ!!
私、40年以上生きてきて、はったんきょなんて今日初めて知ったんですけど!!
なんでこんな状況で、こんな難易度高い問題だすんじゃーー!
わかるわけないやろーー!!
そんなわけで、父が欲していたのは、"はなぽんちょ"じゃなくて"はったんきょ"ということが判明しました。疲れ果てている父に、はったんきょの画像を見せながら、
「お父さん、これが食べたいんやな? はったんきょ、やな?」
と、確認させると、父は満足そうに大きく頷きました。そして、
「…さんそ、さんそ…ふやして…」
アホな娘とのやりとりにムダに労力を使ってしまった父は、ゼエゼエハアハアすっかり息が苦しくなってしまい、酸素吸入の酸素をあげてくれ、と言って、ゆっくり目を閉じました。
「今度来る時にトキハ(大分のデパート)で買ってくるけんな!」
父は小さく頷きました。
ただ、その時はまだプラムにはちょっと時期が早かったのです。
でも、トキハならあるんじゃないか? デパートだし。
アホな会話をした翌々日、私は一縷の望みを持ってトキハ地下の果物売り場へ行ってみました。
はったんきょはなくても、プラム系の何かがあれば…と思って探しましたが
残念ながら見つかりません。
あーあ。やっぱりちょっとまだ時期が早いのかなぁ。
トキハになかったらどこにあるだろうか…。
と、思いながら、ふと贈答用コーナーの方を見ると、
「あ!! あった! プラムあった!」
はったんきょではないけど“楊貴妃プラム”と書かれています。
よかった! 微妙に違うけど、まあいいやろ(・∀・)
これ買って持って行こう!
と、思って値段を見ると、
2ヶ入りで1980円!!!
せ、せ、せんきゅうひゃくはちじゅううえんんーーーー。
…1コ、1000円!? 1コ、せ、せんえんんーー!?
高っっ!!!!
くそー。トキハめー。人の足下をみやがって。
(…というわけでもないと思いますけど)
一瞬、予想以上の値段にひるんだものの、父との約束を思い出し、
「いやいや、これはお金の問題じゃない」
と、思い直し、レジに並びながらも、
「…でもなー、2つもいらんのやけどなー。
お父さん、たくさん食べれないから1つでいいんだけど…」
ギリギリまでセコいこと考えてる私…。
そして、1ヶ1000円というお高いはったんきょ(楊貴妃プラム)を買って、急いで病院へ行ったのですが、その日の父は、小さく息をしながらずーっと寝ていました。そして、そのまま翌日亡くなるまで、もう目を覚ますことはありませんでした。
残念ながら、父が食べたいと言っていた“はったんきょ”を食べさせてあげることができませんでした。
意識のない父の手に、
「ほら、はったんきょ、買ってきたよ」
「トキハで買ってきたんで!」
「これ、1コ1000円もするんで!! ほら、見てよ!」←恩着せがましい…(・∀・)
と、握らせてみたけど…どうだったかな。わかってくれたかな。
父とのはなぽんちょ論争の日、
「…まさか…とは思うけど、このアホな会話が父との最後の会話になったりしないよな…」
と、一瞬イヤな予感がしましたが、ほんとにそうなってしまったのでした。
あまりにアホすぎて色んな意味の涙が混ざって出てきます。
…でも、いかにも父と私らしい…最後の会話だったかもしれません。
はったんきょを持って行った日の夜。
あんなに欲しがってたのに食べさせてあげられなかった、というのが自分でも気がかりだったのか、なんと!夢に父が出てきたのです。
そして、夢の中の父は、病室のベッドで起き上がっていて、満足そうにはったんきょを食べていたのです!
「今日はなんか調子がいいんや。元気になってきたわ」
「はったんきょ、ありがとうな」
と、すごくニコニコしていて、あー、良かった、はったんきょ食べられたんだね…というあたりでハッと目が覚めたのです。
…ん? いや、待てよ。
はったんきょ?
今の“はったんきょ”だったっけ??
で、冷静に夢をプレイバックして、ディテールを思い返してみると…父が食べていたのは、はったんきょではなくてネーブルでした。
それ、はったんきょじゃねーし!!!!
どこまでも、アホすぎる親子なのです。
ちなみに、お葬式の後、棺の中に1ヶ1000円の楊貴妃プラム≒はったんきょも入れました。
今度こそお空で食べられたと思います。
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