沢井ヨウカン

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  • 異成人計画

    22歳(日本人・男性)がちょっとずつ社会に帰化していく様を不定期で書きます

最近の記事

親父と息子は似ていた

8月30日。毎年巡り来るこの日は、いつも明るい気持ちにさせてくれる。 なぜかといえば、あれより悲しくて悔しいことはもう人生で起こらないからだ。 誰よりも優しく、誰よりも正しく、誰よりも素敵な親父が呆気なく亡くなってしまうのなら、世の中に神や仏はいないし、ドラマチックな奇跡を信じるだけ無駄だ。ここにあるのは偶然だけで、理由を求めちゃいけないんだなと、19歳になって1週間も経たない僕は思った。 一種の諦観と、そこから湧き出てくる現実はまさに「背水」で、前にしか道はないという

    • ほうれん草のバター炒めとして

      三連休の中日、オフィスカジュアルに身を包み、僕はいつも通勤に使う電車に乗っていた。ただし、向かう先はいつもと逆方向。気持ちはいつもより幾分か晴れやかだ。 高校生たちと「キャリア」について話し合うワークショップの会場に向かっていた。社会人になって初めてのボランティア活動だ。 詳細を書くことはできないが、様々な事情で進学に悩みを抱えている生徒が全国から集まり、第一線で活躍する大人たちと交流しようという趣旨のイベントだった。 「働き始めて少ししか経っていない僕にキャリアのこと

      • 積極的大人論(仮)

        自分の人生のなかでも、一番と言って差し支えがないほどの「落ち込み」を経験した。 情けないことに、まったく食事が喉を通らなかった。スーパーのお惣菜を見るだけで吐き気がして、店舗から逃げるように飛び出したこともあった。眠ることは難しくなかったが、起きるたびに感じたことがない重力に押しつぶされては、今日が始まることをひどく疎ましく思った。人生の根底を揺さぶるようなアッパーをモロに受け、かろうじて息をしていたような日々だったと思う。 父親が亡くなったときでさえ、「ああ、こんなに素

        • スズメ_日記(2024/06/27)

          公園の近くを歩いていたら、スズメが肩に乗ってきた。 「アニメみたいなこと起こるんだな。」 そう思うより前に、まず「汚なっ」と口にしていた。あと「臭っ」と顔を顰めた。 次にようやく冷静になって「アニメみたいなこと本当に起こるんだな」と思ったし、さらに冷静になって「肩に鳥が乗るアニメって何かあったっけ」とか思った。

        親父と息子は似ていた

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        • 異成人計画
          2本

        記事

          研究の目的と背景ー椎名林檎の都市観・東京観(1)

          学士の卒業論文『椎名林檎の東京観・都市観の考察――1998年から2003年を中心に』(2024)を一部改変・抜粋して掲載している。 第1章 研究の背景と目的「音楽」を通して「都市」を体験する現代人 人間の五感による情報判断は、味覚1.0%、触覚 1.5%、臭覚 3.5%、聴覚 11.0%、視覚 83.0%の順で行われると言われている(教育機器編集委員会 1972: 4)。都市に目をむけると、空を埋め尽くす摩天楼やSNS映えを意識した食事やファッション、空白を塗りつぶす広告

          研究の目的と背景ー椎名林檎の都市観・東京観(1)

          そうしたいから、そうする。そう思いたいから、そう思う。

          アルバイト中、ふと映画が観たいと思った。 なぜか分からないが、突如浮かび上がってきた気持ちだ。それはまるで、小泉進次郎が二酸化炭素の削減目標を着想したときのようにおぼろげなものだった。 ひとまず、池袋にあるグランドシネマサンシャインの上映スケジュールを開いた。映画を観るときはここと決めている。アクセスが良いわけでも、縁故があるわけでもないが、なんとなく好感をもっているからそうしている。 合間で予約サイトをスクロールしているうちに、山崎貴『ゴジラ -1.0』(2023)を

          そうしたいから、そうする。そう思いたいから、そう思う。

          「ハムスターに目的はあるか?」

           一昨年の年末、僕はサッカーW杯に熱狂していた。  2022年カタール大会、日本代表は強豪集うグループステージを劇的な試合展開で突破し、史上初のベスト8を賭けたクロアチア戦に敗北した。世界という「壁」の厚さをまじまじと見せつけられたあの夜、あまりに悔しくて、僕はオンオンと泣いた。無自覚なナショナリズムを抱いていたのかもしれないし、抱いていなかったのかもしれない。  そこから、サッカーがさらに好きになった。ひたむきに何かに取り組んでいる選手たちを理屈抜きで格好良いと思った。

          「ハムスターに目的はあるか?」

          2024年は毎月更新するぞ〜!

           お久しぶりです。沢井です。  前回、メイドカフェに行って、雷に打たれたような衝撃を受けた話から、はや1年が経ちました。  丸々1年更新していないとは……。というか、1年経つの早すぎるな……。  忘れっぽい僕の備忘録として、来年社会人になる僕のセーブデータとして、来年は少なくとも毎月1本ずつ更新していこうと思います。  何卒、ご贔屓に。  

          2024年は毎月更新するぞ〜!

          はじめてのメイドカフェで、脳天が揺さぶられた話

          【1】  秋葉原に向かう僕は、考え事をしていた。  普段は即断即行を心がけている。しかしながら、こればかりは竜王戦ばりの長考が必要だった。 「メイドさんからどのように呼ばれたいか?」  無難な姓名か、はたまた萌えの溢れるニックネームか。その電車のなかで、僕はきっと誰よりも“真摯”だっただろう。  決めきれないまま日本一の電気街に到着していた。  これから私は、生まれてはじめてメイドカフェに赴く。 【2】  遡ること2週間ほど前。  メイドカフェに行ってみたい旨

          はじめてのメイドカフェで、脳天が揺さぶられた話

          スキマがあればこそ(20200816)

           小中高がどれも家からそこそこ遠い場所にありました。校内で統計を取り、登下校時間を0〜9の十段階で表すならばたぶん8くらいにはなります。そのため、下校するにしても遊びに行くにしても、帰路では最終的にひとりな時間が多かったように感じます。  特に小中はスマホなんてものを持っていなかったので、何をするでもなくただただ歩いていました。考えることといえば「今日は楽しかったなあ」くらいなもので、タカトやオトハ、ヨウセイたちのハイライトを頭に浮かべながら、なぜかちょっとだけ寂しくなって

          スキマがあればこそ(20200816)

          社会と白髪たち(20200719)

           僕の頭には白髪が生えています。それもかなりの量が。  パッと見ではあまり気付か(れ)ないのですが、暑くなったり集中が切れたりして中村アンよろしく髪をかき上げると、そこには一面の銀世界が広がっています(特に後頭部)。喩えるならブラックジャック、とまではいかないけれど、たまに来る部活の副顧問くらいです。  両親曰く、遡ると生まれて数ヶ月の時点から数本の白髪が見られたそうです。最初は心配したものの両親も白髪が多いのであまり気に留めていなかったようで、僕も大して意識していません

          社会と白髪たち(20200719)

          沢井少年の初エッセイ[’16]

           年越しそばというものがある。  詳しいことは知らないが「来る年を、細く長く生きられますように」という想いが込められているのだと言う。なんて日本人らしいのか。  しかし僕は思う。年越しうどんの方が良くね、と。  考えてみて欲しい。希望溢れる来る年の目標を「ひょろひょろと細長く生きること」にする必要はないのではないか。  むしろ目標は大きく掲げて「太く長く生きたい!」と胸を張ったらいいのではないか。  欲深いことを恥じるのが国民性だが、辛いことは少ない方が良いし、色々と図太け

          沢井少年の初エッセイ[’16]

          何でこんなこと覚えているんだろう?

           「何でこんなこと覚えているんだろう?」と思うような些細な記憶が、やけに鮮明なことはありませんか。  僕はいくつかあります。時々思い出しては、なぜなのか分からなくてモヤモヤします。今日はそのうちのひとつを紹介します。  幼い頃、休日の夜。親父とスーパー銭湯によく行きました。  スーパー銭湯というのは胸くらいの高さの肌色のロッカーがずらっと並び、富士山の絵柄の壁が奥にそびえていて、おじさんが乾布摩擦をしている、というステレオタイプなところではなく、ジェットバスや電気風呂、

          何でこんなこと覚えているんだろう?

          結論は急がずとも(20200530)

           上手い書き出しが思い浮かばなくてなかなか投稿出来なかったのだけれど、よく考えてみれば上手いことを言ってるわけではないのだから、別にどうでもいいなと気付いて、そのまま書き出しました。一文が長いひとは自分に自信がないひとだと思います。5月末日、いかがお過ごしでしょうか。  大学もはじまり新生活に胸を膨らませたい一方で、新しい社会へ大きく舵を取る転換点に立っている不安も一入ですね。ああ何だか昼のラジオみたいな切り出し方がクサくて鼻につくので、ここらでやめます。  最近は本当に

          結論は急がずとも(20200530)

          黒と白とそれから(20201020)

           ほんの少し前まで、渋谷や新宿あたりをうろついているチャラついた男たちの象徴だった。街で見かけたら目を引き、怖がられたり避けられたりしていた。バンドを組んでいた頃も楽屋でこれを付けている人が少なからず居て、話しかけづらかったことを思い出す。黒色のマスクの話だ。  マスクといえば白、みたいな風潮があった。給食当番用に配布されたものも病院の待合室の風景も花粉症の薬の広告も白いマスクだったように思う。実際、私の高校では白以外は禁止とされていた。  しかし、いまや街を歩けば、黒マ

          黒と白とそれから(20201020)

          可能性の「か」の字(20200419)

           午前7時50分過ぎ。  母に叩き起こされて目が覚めた。  「いますぐリビングに降りてきて」と指示を受ける。その只事ではない剣幕に驚き、目覚めの良し悪しなど関係なく反射的に飛び起き母に続いて、眼鏡もかけずに(なぜか照明のリモコンを持って)階段を降りた。  リビングのドアを開ける。父が椅子に座っていた。  「意識がないの。支えてて」  駆け寄ると、父は背もたれのない椅子で母に支えられながら座っている。  一緒に背中を支える。汗と熱を帯びて、身体が悲鳴を上げていること

          可能性の「か」の字(20200419)