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【私はマドモアゼル】BUNBUNパーラー

 いわゆるマッスルシティと呼ばれる、軍の駐屯地だナンだカンだがあるこの街から、少し北へ外れたところに、なんともジャパニーズKAWAiiなガラス張りのお店。退役軍人や、徴兵終わりのバーンアウトな青年達が働き、次の人生に向けた踊り場として、場当たり的な職と言わざるを得ないテイストで始まったケーキ屋なのだが、しかるに、あれよあれよという間に人気店となり、今では1,000マイル離れた、ダイエットシティことガーリースクエアからも人が集まる過熱ぶり。
 マドモアゼルとパートナーも、この度のビッグムーンを見たがゆえに、店長おすすめ「月見二度見プリン」を食べたくなり、旅先の予定を変更してまでパーラーを訪れた。当然、安易に予約を取れる店ではないのだが、優待券を持つマッスルシティの市長(4期目)がマドモアゼルの元カレで、職権(食券)濫用はなはだしいことは、特にパートナーには内緒である。

「相変わらず、スゴい混みようね。クーラーもキンキンだし。ねぇ、ミスター・マッスル?風の当たらない席にしてくださる?」
「あいよー!!」

威勢のいい声に、少々目をしばたいたマドモアゼル。パートナーはというと、そもそも人混みに入る前にはいつも、ノイズキャンセリング耳栓を着用するから大丈夫。2人は風のほぼ当たらない店の中央、ゴールデンパフェのシャンデリア真下の席に通された。
 周囲を見渡すと、カラフルレインボー菓子がダイヤモンドアイスやシルキーホイップ等とともに、次々に口に運ばれていく。ホールにもキッチンにも、マドモアゼルの腰回り3倍はあろうかと見紛う上腕二頭筋がパンパンなのだが、そこからは想像もつかないほど繊細な逸品ばかりだ。

「うわぁ、迷っちゃう。でも私、実は決めてるのよ。さっき店のインスタキログラム見た時にピンときたのよ。この、『積乱雲』にね!」

おいおい、プリンはどこいった、とお思いだろうが、誰しもが日常的に遭遇するアルアルであることには違いない。一方のパートナーは律儀にプリンを(ダブルで)頼み、地元の茶葉を蒸したお紅茶のセットを注文した。そして間髪を入れず運ばれてくる逸品。そのスピードの裏には、きっとバックヤードでガチに角の生えた鬼軍曹がいるに違いないことを想像させる。

「あ、うめぇ、コレ。汗腺が16ビートでパクパクするほど、ビックリ激うまだわ。」

マドモアゼルが注文した『積乱雲』。徴兵を2日で脱走した18歳が、そのストレスから即時逃避するため、天空のお城をイメージして考案したという、フワッフワの巨大生クリームケーキ。かき分けると、中には体温で瞬間とろけるマンゴーが丸ごと入っている。

「おかわり!」
「あいあいよー!」

マドモアゼルがペロリと食べたお皿は直径3フィート。その10分の1にも満たない器でチビチビとプリンを愉しむパートナー。でもマドモアゼルにとっては、味覚から内臓で感じる幸せより何より、その姿を見ることが幸せだった。キョショクだとか、カショクだとか、いろいろ世話を焼かせるパートナーが、それを無視できる数少ない場所。マドモアゼルがその有り余るエネルギーを使って世界中を旅する理由に、解を与えてくれるそんな場所は指折り数えるほどしかない。マッスルが好きなのよね、とか、冗談かどうかよく分からないことを言う時は少しイラッとするけど(私へのアテツケって思う)、そんなのは結局、2の次or3の次。笑顔が見れたら、それでイイヤと思う。

「おかわり!!」
「あいあい、あいよー!!」

外は急な雨だけど、店の行列には、それを凌ぐ庇が伸びている。そんなところも、パートナーを安心させるところなんだろうなと、嫉妬とリスペクトが混じるマドモアゼル。明日は旅先へ戻って、成層圏へ届かんばかりの山登り。準備は怠りないが不安は超新星爆発。

「おかわり!!」
「あいよ!あいあいあいよー!!」

マッスルボーイの汗が飛んで、ちょっとだけ引いた。

今のところサポートは考えていませんが、もしあった場合は、次の出版等、創作資金といったところでしょうか、、、