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苦益列車

僕は苦しいんだ
僕は悩んでいるんだ

頭を抱えながら
何もない貨物車両の片隅で
塞ぎ込む

それでも列車は
何処かへ僕を運んでいく

ガタンゴトン
ゴトンゴトン

壁に空いた穴から
光が差し込む

外は深い夜で
雲ひとつない空に
星の明滅がよく見える

広い平野に
ところどころ木々

みぞおちが痛いほど
外の世界は広い
太陽が昇るとさらに
絶望的に広いのだ

だから闇よ
明けないでくれ
苦しくて辛かったとしても
心の安寧はまだここだと
天の使いが吐息を放つ

掻きむしった髪の毛が
もうこれ以上無くなる頃
停車駅へ
スピードを落とす

無人の駅
一人だけ乗って
僕と対角線上の隅に
腰をおろす

そこは雨漏りがするよと
親切な気持ちも
届く声の大きさも
僕は持っていない

ガタンゴトン
ゴトンゴトン

列車が動き始めると
彼も頭を掻きむしり始めた

僕にはもう髪の毛がないので
落ちた髪の毛を
エチケット袋にしまうほか
することがない

彼が苦しみもがく音
それが僕に比べて
大きいように聞こえた

ああ
理由は分からないけど
とても獄な思いをしたんだろう

次の停車駅は
今回も告げられない
もうすぐ止まりそうだと
速度が落ちて
初めて分かる

深く問答している時は
それすら分からないこともある

でも今の僕には
停車駅がそんなに遠くないことが
なんとなく分かる

次の停車駅が近づいたら
彼の隣に座ってみようか

そんな勇気が
まだ僕にもあったなら
髪なきことにも
意味はあったと
ほくそ笑む

今宵はガタン
今宵もゴトン

あえての闇に
ひた走る車輪の和音

今のところサポートは考えていませんが、もしあった場合は、次の出版等、創作資金といったところでしょうか、、、