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#66 朝ドラ「舞いあがれ!」にみる”困難な日常を生きる力”

1.朝ドラ「舞いあがれ!」始まる

10月3日からNHK連続テレビ小説「舞いあがれ」の放映が始まり、今週は第3週目、本日第12話まで進みました。1961年に始まったNHK連続テレビ小説(以下朝ドラ)は、「舞いあがれ!」が第107作です。テレビは余り見ない私ですが、朝ドラは、2005年の「ファイト」(第72作)以来、毎日見続けています。

第1話で登場した主人公のは、小学3年生ですが、とてもひ弱で、幼く見えます。すぐに熱を出してしまう自分に自信が持てず、きちんと自分の気持ちが言えない娘(舞)と、娘を愛するが故の過度な心配から、先回りしてしまうめぐみ)の心の葛藤も交えて物語は進行し、五島列島での豊かな自然のもと、祖母祥子)や島の人たちとの生活を通じて、舞はたくましくなっていきます。

<第5話>
「私と一緒にいたら、お母ちゃん、しんどそうやから。お母ちゃん、私にここに残って欲しいと思ってる。」(舞)
「ちゃんと、自分の気持ちを言えたばい。少しずつでよか」(祥子)

<第8話>                 
「おばあちゃん、大丈夫?」(舞)
「失敗ば、してしもうた」(祥子)
「おばあちゃん・・・失敗は悪いことやないんやろ?」(舞)
「およう」(と言って、舞を抱きしめる祥子)  

「舞いあがれ!」(第5話/第8話)より

2.主人公 舞の成長とエリック・H・エリクソンの心理社会的発達理論

アメリカの発達心理学者、エリック・H・エリクソンが提唱した「心理社会的発達理論」は、人間の発達段階を8つに分けて、”人間は、心理社会的危機を乗り越えることで力(virture)を獲得できる”(下図)、としています。 

エリック・H・エリクソン(心理社会的発達理論における8つの発達段階)

前2週までの展開は、主人公の舞が、第2段階(幼児前期)、第3段階(遊技期)の危機を乗り越えるプロセスだったのではないでしょうか。発達段階の通常年齢よりも、大きく遅れはしましたが、このプロセスを乗り越えたことで、主人公の成長も加速して行くと思われます。

メインの脚本家である桑原亮子さんの「困難な日常を生きる力になりますように」との思いが伝わって来る作品です。今後の展開が楽しみです。

3.「中年危機」(河合隼雄著:朝日文庫)に観る河合隼雄氏のすごさ

朝ドラを見続けている理由の一つは、主人公の生き方を通じて、キャリア(自分らしく生きた証)を考える貴重な教材でもあるからです。あくまで、ドラマ(創作)ではありますが、そこには、生きるヒントが、随所にちりばめられています。

エリック・H・エリクソンの理論は、特にミドル・シニア(壮年期)の発達課題である”ジェネラティビティ 対 停滞”をどう乗り越えて行くかという観点で、関心を持っています。  
昨年出版された鎌田實さんの著書「ミッドライフ・クライシス」(青春出版社)でも、ジェネラティビティ(世代性/次世代育成力)という視点”の重要性が説かれました。
鎌田實さんの著書に触発されて、河合隼雄氏の「中年危機」(朝日文庫)を読んでみました。

同著には、”夏目漱石、大江健三郎、山田太一など日本文学の名作12編を読み解き、登場する中年たちの心の深層を探る”との河合俊雄氏の解説がありますが、原作である各文学作品の質の高さもさることながら、河合隼雄氏の読みの深さに驚きました。

①夏目漱石『門』②山田太一『異人たちとの夏』③広津和郎『神経病時代』④大江健三郎『人生の親戚』⑤安倍公房『砂の器』⑥円地文子『妖』⑦中村真一郎『恋の泉』⑧佐藤愛子『凪の光景』⑨谷崎潤一郎『蘆刈』⑩本間洋平『家族ゲーム』⑪志賀直哉『転生』⑫夏目漱石『道草』

「中年危機」(河合隼雄著)で取り上げられた12作品

同著の巻末に、養老孟司氏のエッセイが掲載されています。氏は、「中年危機」を読んで、”『異人たちとの夏』の解説などは、解説にあまりに感激したので、肝心の原作を読む気がなくなってしまった。”と述べています。

私も、12作品の中で読んだのは、夏目漱石、大江健三郎、安部公房くらいですが、とても河合隼雄氏のような深い洞察では、読めていません。

谷崎潤一郎『蘆刈』を題材にした河合氏の解説で、養老孟司氏が取り上げているのが、次の文章です。中年危機に対処する河合隼雄氏の考え方のエッセンスと思われ、以下引用します。

トポスを見いだし、そのトポスの関連で「私」を定位できるとき、その人の独自性は強固なものとなる。そのようなことができてこそ、人間は一回限りの人生を安心して終えることができるのではなかろうか。
老いや死を迎える前の中年の仕事として、このことがあると思われる。

河合隼雄「中年危機」148頁

改めて、河合隼雄氏のすごさ感じながら、中高年の生き方、時間の使い方や場所(トポス)についても、もう少し考えてみたいと思います。

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