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#62 『人生のスコアボード』に「勝敗」はあるのか? 

1.会社と自分の関係を”ベン図”で表わす。

毎月1回、講師仲間で行っている『研究会』で、「会社」と「自分」の関係を表わす”ベン図”が話題になりました。
そもそも、「キャリアにこの考え方を導入したのは誰か?」

インターネットには、多種多彩なベン図が公開されています。
余りにポピュラーな考え方のため、特に意識したことはなかったのですが、オリジナルは金井壽宏先生ではないか、との話になり、改めて金井先生の著作を読み直してみました。

組織変革のビジョン」(金井壽宏著:2004年光文社)では、企業の若手向けの研修で行ったワークが紹介されています。
ワークは、臨床心理学者の倉光修さん(当時、大阪大学教授)の考案によるものでした。
あなたと会社の関係を円であらわしてください」とのワークで、会社で10年を過ごした受講者の描いた円は、図1が一般的だったとのこと。

その円を見た倉光氏は、困ったような顔をされた。大学の講義で、自分と会社の関係を二つの円で描いてもらうと、図2のようになり、図1とほぼ逆になるそうだ。

「組織変革のビジョン」(金井壽宏:光文社新書P16-17)
「組織変革のビジョン」(金井壽宏:光文社新書P16-18 )をもとに筆者作成

私も企業研修で同じワークをやることがあります。若手が図1とすれば、ミドル(マネージャークラス)になるに従って図3が多くなり、逆に、シニア(例えば、役職定年者)研修では、図4が多くなります。

人生後半戦のキャリアをデザインする際には、「会社」を中心にした考え方、 ”会社の中の「自分」を大小”で捉える見方を、手放して行く必要があります。

2.1枚の領収書(レシート)からよみがえった20年前の記憶

今回、改めて、金井壽宏先生の著作を読み直し、20年前に、CDA養成講座でキャリアカウンセリングを学び始めたころに、思いを馳せました。

2002年9月から始まった3か月養成講座の担当のY先生には、今でも、人生の師としてご指導いただいていますが、Y先生から薦められた本の一つが、金井先生の「働くひとのためのキャリアデザイン」(PHP 新書、2002年10月、第一版第三刷)でした。

恐らく10年以上ぶりに、同著を手に取ってみると、2003年3月14日(金)のスターバックスコーヒー西武高田馬場駅前店の領収書(レシート)が挟まれていました。時間は午後8時45分、300円のショートモカを注文しています。(当時の消費税は5%)。

仕事帰りに、乗換駅である高田馬場駅で、1時間余り勉強していたのだと思います。20年近く経った今、同著を読み直してみると、当時は気が付かなかったことも見えて来て、改めて、時を置いて再読する意味を感じました。

左はスターバックス・コーヒー(西武高田馬場駅前店)の領収書(2003年3月14日(金))

3.『人生のスコアボード』(カール・ワイク)

金井先生の著書は、以後10冊ほど立て続けに読みましたが、今回改めて読み直したのが、「中年力マネジメント」(1999年 創元社)です。
同著でも「あなたと会社の関係」ワークの結果が紹介されています。

同著の中で、私が興味を持ったのが、「人生のスコアボード」でした。
ミシガン大学の組織論教授カール・ワイクが、「組織化の心理学」の中で引用したとされるイギリスの作家ロバート・グレーヴス の詩(”In Broken Images”/ 「壊れたイメージの中で」)が紹介されています。

金井先生は、「その詩を座右の銘にしてもらうように、大学院生や社会人によく紹介して来た。」由。「座右の銘」とおっしゃる位ですので、この機に、備忘録として、記しておきます。
(難解な詩であり、味わって読むには、時間がかかりそうです)

Robert Graves"In Broken Images"

グレーヴスの詩の「彼」を、できるつもりの優等生、「私」を、新しい視点を組織にもたらすいたずらもの(トリックスター)と読み直してもよい。
(中略)
さて、器用にそのときどきの仕事をそつなく果たすひとの、長期的なスコアはいったいどのようになるのだろうか。同じくミシガン大学のワイクの紹介する、理想主義者(idealists)と現実主義者(realists)の人生を野球に見立てた、奇妙なスコアボード(得点表)をどんなふうにご覧になるか。
(以下略)

金井壽宏「中年力マネジメント」 P140
カール・ワイク「人生のスコアボード」(金井壽宏「中年力マネジメント」 P140)

このワイクの組織(化)理論の基本命題の一つは、セクション2でも紹介したように、「適応が適応力を阻害する」(Adaptation precludes adaptability)
である。この命題で彼は、その都度うまく器用に適応することばかり繰り返していくと、思わぬ事態にも対応できるような、長期的でもっと図太い適応力が台無しにされていくというパラドクス(逆説)を示そうとした。

金井壽宏「中年力マネジメント」(理想主義者、現実主義者のスコアボード) P141

「人生のスコアボード」は、短期的適応を重視するあまり、長期的適応を犠牲にしてしまうという、いわば、過剰適応への警鐘です。

昨年のノーベル物理学賞受賞者である真鍋淑郎氏の会見全文が朝日新聞GLOBEに掲載されていますが、過剰適応を求める日本への警鐘とも言えるのではないでしょうか?

余韻を残して、本日の投稿を終わります。

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