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自社の資源,分析してみませんか?

 こんにちは。正岡法律事務所のアシスタント,水谷です。
 この記事では,自社の経営資源を分析し,活用するためのフレームワークであるVRIO分析をご紹介したいと思います。

⒈ 自社の経営資源を分析する必要性


 なぜ,自社の経営資源を分析する必要があるのでしょうか。
それは,ビジネスで競争優位を築けるか,その優位性を保てるかは,会社の保有する経営資源とその資源を活用する力にかかっていると考えられるためです。この考え方を,リソース・ベースト・バリュー(RBV)といいます。
つまり,自社が保有する独自の資源を活用することで,自社の独自の地位を築くことができ,ビジネスを優位に進めていくことができるということです。
 VRIO分析とは,このRBVの考え方をもとに,自社の経営資源は何か,その経営資源をどのように活かしていけばよいのか,活用のために工夫・改善できることはないか,といったことを考えて,自社の方向付けをし,今後の戦略に生かしていくためのフレームワークです。

⒉ VRIO分析


 それでは,VRIO分析の具体的な中身についてご説明していきます。
 VRIO分析は,①Value(経済価値),②Rarity(希少性),③Inimitability(模倣困難性),④Organization(組織(組織能力))の4つの要素に基づく分析です。
 ① Value(経済価値)は,分析対象である経営資源の経済価値は高いのか
 ② Rarity(希少性)は,分析対象である経営資源の希少性は高いか,つまり,分析対象である資源を保有している会社は少ないか
 ③ Inimitability(模倣困難性)は,他社がその資源を容易にまねできるか,他社がその資源を獲得しようとするために莫大なコストを要するか
 ④ Organization(組織(組織能力))は,経営資源を有効に活用できる能力を有しているか
 といったことを,対象の資源ごとに分析していきます。
 ①経済価値・②希少性が高く,③模倣が困難な経営資源を,④有効に活用できる組織能力を有していれば,自社の大きな強みとなり,競争優位性を高めることができます。
このうち,③模倣困難性と④組織は少し分かりにくいので,補足します。
③模倣困難性
簡単に模倣出来てしまうものでは,他社にすぐに取り入れられてしまって競争優位を保つことができません。そのため,他の会社が同様の資源を獲得するハードルが高い程,競争優位性を築くために有効な経営資源であるとされます。
(金額にもよりますが)金銭的なコストがかかるというハードルよりも,偶然の出来事によって得た資源や長年培ってきた歴史的な資源を獲得するハードルの方が高いといえます。
 ④組織(組織能力)
社内の資源を活用して高い成果を上げるためには,会社組織全体で資源を活用する体制が必要です。しかし,そのような体制を実際に運用していくのは難しく,形だけまねてみても,なかなか上手く機能してくれません。
また,社内の人間の価値観・考え方は,長年その会社の内部で培われ,受け継がれてきたものなので,言語化したり可視化したりすることが難しく,まねようとしてまねできるものではありません。

⒊ VRIO分析の例


それでは,実際にVRIO分析を行ってみましょう。ここでは,富士フィルム株式会社について分析していきたいと思います。富士フィルムは,写真感光材料に関する研究を原点として,長年にわたる独自の研究開発により,高度な専門知識や研究技術を積み重ねてきています。今回は,富士フィルムの「高度な研究開発力」を分析対象の資源とします。
①V(経済価値):
富士フィルムの高度な研究開発力によって,インスタントカメラやX線フィルム等の写真事業製品が生み出されただけではなく,それらの技術を応用した記録メディアや美容商品,サプリメント等の新製品の開発が可能となっており,非常に経済価値の高い資源であるといえます。
②R(希少性):
富士フィルムの高度な研究開発力は,競合他社が保有しない希少性の高いものと思われます。
③I(模倣困難性):
富士フィルムの高度な研究開発力は,同社の優秀な研究員による長年の研究の集積であり,模倣困難性は高いと考えられます。
④O(組織(組織能力)):
富士フィルムは,統括本部が一元管理する先進研究所の中に事業部直下のラボを設けているそうです。この事業部直下のラボでは,ビジネスに直結する技術研究が行われており,研究の成果を迅速に収益につなげるためのスピーディーな商品化が実現されています。
富士フィルムでは,全社的に研究を行い,その研究成果を迅速に商品化し,収益につなげていくという組織体制が構築されています。

⒋ VRIO分析を行うにあたって


⑴ 経営資源の芽を育てる
VRIO分析を通じて考えていただきたいのは,「現在ある経営資源をどのように強化していくか」ということと,「まだ経営資源とまではいえない経営資源の芽を成長させるために何をすべきか」ということです。
特に,今後経営資源にしていきたいものや,より強化していきたいものについて分析を行うのは有意義であると思います。
たとえば,「○○を主力製品として,その販売に注力していく」という経営判断をする際,「〇〇を,①経済価値の高い,②希少で,③模倣困難な経営資源として,④組織的に製造・販売していくために何をすべきか」という視点から,経済価値を高めるためにアンケートに基づく製品改良をしたり,模倣困難性を高めるために商標出願をしたり,製品の大量生産を可能にするために製造部門を組織化したりするという対策をとるなどが考えられます。
⑵ 眠っている経営資源
これまでは自社の経営資源と評価(認識)していなかったものが,実は貴重な経営資源だったという場合もありえます。VRIO分析をきっかかに,自社に眠っている経営資源がないか,その資源を有効活用できないか考えてみるのも面白いかもしれません。
NTT東日本等が2020年1月に設立した新会社である株式会社NTTe-Sportsの代表取締役副社長に就任された影澤潤一さんのような人的資源の例もあります。
影澤さんは,会社の人達に隠していましたが,実はゲーム界ではかなりの有名人でした。学生の頃から,様々なゲームイベントを開催されていたそうです。そのことが会社の知るところとなり,会社はe-スポーツの新会社を設立し,影澤さんを同社の代表取締役副社長に選任しました。影澤さんは,これまでの経験を活かし,e-スポーツイベントの開催やゲーマーの育成等に尽力されています。

⒌ 最後に


 ①経済価値が高く,②希少で,③模倣が困難な経営資源を,④有効に活用する組織能力を有する程,ビジネスの競争優位性は高まります。
しかし,このような経営資源は,一朝一夕で獲得できるものではありません。
 結局は,会社(経営者)の考え方や日々の姿勢が,社員に影響したり,組織体制化されたりして,独自の企業文化として醸成され,経営資源になっていくのだと思います。
 VRIO分析によって,自社の経営資源(あるいは経営資源の芽)に気付いたら,長期的視点で育てていくことが必要です。
 
 最後に,この記事でお伝えしたいことをまとめますと,
社内の強みを発見し,伸ばしていくためのツールとして,VRIO分析が活用できる
⑵分析の際は,「現在ある経営資源をどのように強化していくか」ということにあわせ,「まだ経営資源とまではいえない経営資源の芽を成長させるために何をすべきか」ということも考えてみる
⑶経営資源は,経営者の考え方や日々の姿勢を元に,日々の積み重ねによって獲得される
ということになります。
是非,社内でVRIO分析会を実施して,自社の競争優位性を高めていってください。
この記事が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。

参考:NTTe-sportsホームページ(https://www.ntte-sports.co.jp/)
  :ひとまち結び(株式会社日経BP)特集
   Eスポーツ×まちづくり eスポーツにかけるNTTの本気度 新会社の影澤副社長に聞く(https://project.nikkeibp.co.jp/hitomachi/atcl/feature/00015/)
  :富士フィルム株式会社ホームページ(https://www.fujifilm.com/jp/ja)

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