大胆なイルカは社交的

López BD. 2020. When personality matters: personality and social structure in wild bottlenose dolphins, Tursiops truncatus. Animal Behaviour 163: 73–84.

イタリアの沿岸に生息するハンドウイルカで個性と社会性の関係を調べた。
個性を評価するために、ビンガーと遊泳者への接近をもって、新規なあるいは威嚇刺激への個体の反応を調べた。どちらの刺激に対しても個体の反応は似ており、双方を合わせた主成分分析でそれぞれの個体が大胆か臆病かという個性のスコアを作成。この個性のスコアは性別、年齢、魚の養殖場の利用、個体のコアエリアとは関係がなかった。
個体識別したイルカの個体間関係のデータからネットワーク分析を行った。ネットワークの中心には大胆な個体、辺縁にある個体は臆病な個体が多かった。個性のスコアはネットワーク強度と負の優位な相関があった。大胆だとネットワーク強度が大きい。これは他の個体との付き合いの程度が大きい(集群性が大きい)ということ。つまり大胆な個体ほど多くの個体と付き合う傾向があった。
このような傾向は、これまでに魚類、鳥類、霊長類でも知られてきたが、鯨類でも初めて確認された。大胆な個体は、危険に接近するというコストがあるが、社会の中心にいることで、高い社会的地位、新しい採餌戦術、繁殖成功を得るという利益も得ているのだろう。

=====

動物に個性があることは、動物の行動を観察している人だけでなく、ペットを飼っている人でもよくわかっていることだろう。そしてその個性は他の個体との付き合い方にもとてもよく現れるということもわかっているだろう。
実は動物の行動や生態の研究で個性が大事だとの主張があったのは随分昔からだ。私が大学院生だった1991年に、ちょうど上の階の生態学の研究室におられた片野修さんが出された「個性の生態学」という本を読みとても納得し感動したことを覚えている。その本には個性の重要性はさらに20年も前に主張されていたということも書かれていた。
ところが個性は客観的に数値化するのが難しい形質である。これが個性を考慮した研究があまり進んでいない理由だろう。われわれも、個体はすぐにランダム効果にぶち込んで、この種はこういう行動をするのだという話ばかりしてきた。
この研究の重要な点はなにも野生のイルカに個性があることを見出したところにあるわけではなく、比較的簡単な方法でそれを測って見せたこと、さらにみんな思っていたように、そして他の何種かの動物で知られているように、それが個体間関係に結びついていることを明らかにしたところである。
ただ、大胆な個体がより社交的なのはなぜのかということを考えると、それはそう簡単ではなさそうだ。また大胆さみたいなものは、普通は性別や年齢と強く結びついているのが普通なのに、今回の研究では、それらとは無関係だったと述べられている。それだけ本当かなとちょっと疑問に思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?