ヤンキー捕鯨でマッコウクジラの捕獲率が下がったのは、クジラが仲間同士で対処方法を学んだため?

Whitehead H, Smith TD, Rendell L. 2021. Adaptation of sperm whales to open-boat whalers: rapid social learning on a large scale? Biology Letters 17: 20210030.

18、19世紀に行われた、ヤンキー捕鯨でのマッコウクジラ捕獲の銛打ち成功率から、マッコウが捕鯨船の脅威を避ける行動が社会学習によって広まった可能性を検証。

これまでに歴史家は、マッコウクジラの商業的な捕獲が始まると数年で捕獲率が減少していることを示唆してきた。この原因について、クジラの防御行動が社会学習によって広まったものか、初期の捕鯨者の方が腕が良かったのか、特に脅威に対抗できないクジラが最初に捕獲されたためか、クジラが各々の経験から逃避方法を学んだのかという仮説を比較した。

捕獲した個体数をマッコウクジラを見た航海日数で割ったstrike rateのその海域で最初にクジラを見てからの時間による変化に対して、それぞれの仮説を説明するようなモデルを当てはめた。その結果、社会集団であるunitの個体が学習した逃避行動が、unitが集合して形成されるgroupの個体に学習によって広まるというモデルがもっともよく当てはまった。

行動はどのように変わったのだろうか。捕鯨者は、クジラが社会的集団内で危険について情報を伝えている、特に風上に逃げる、反撃するなどの防御行動を記述している。おそらくそれまでもっとも重要な捕食者であったシャチに対する、集合してゆっくり動き反撃するという行動は、捕鯨者を利するだけだなので、それがなくなったというのがもっとも単純な変化だろう。

その他の変化ははっきりとはしていない。捕鯨に対抗して、大きな群れを作るという証拠があるが、これはstrike rateを上昇させたはず。発見される前に捕鯨船を発見して避けるということもあるかもしれないが、これは(遠くの個体が発見できなくなり)発見距離を減少させるので、strike rateは上がる。クジラが長い距離を逃げ、噴気が濃くなり、体が水面により見えるようになると、発見数が上がるので、これはstrike rateを下げる可能性がある。

いずれ、社会的な学習により、捕鯨を経験していない個体も防御方法を学習したと考えられる。捕鯨は数時間続くので、この間にエコロケーションやコミュニケーションシステムにより、数キロメートルの範囲でそれを感じて、行動を協調させることができるだろう。

そのほかに、捕鯨の経験後にグループがunit間や内で分裂して、別のユニットに経験者が合流することがあると、ナイーブな個体が捕鯨船に遭遇した時、経験者と一緒にいる可能性も多くなるだろう。

この社会学習の能力は、新規な脅威の個体群への影響の大きさに関係するので、その評価時にもその能力を考慮しないといけないだろう。

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ヤンキー捕鯨は世界中で、マッコウクジラをはじめとするクジラ類の資源に大きな影響を与えたのだが、捕獲に関する記録が詳細に残されていたために、最近になってそれがクジラの生態の解明に大きな役割を果たす例が出てきた。これもその一つ。もちろん過去の乱獲が肯定されることはないが、記録を残すことがいかに大事かということ。これができたのは、欧米人の性格のせいなのかもしれない。我が国では、さまざま場面で記録を取ることも残すことも、蔑ろにされているように感じるから。

古い記録から、最新の考えを検証しようとする研究はとても面白い。結果はシンプルでとても納得のいくものだけど、データのばらつきはかなり大きいし、他のモデルとの当てはまりの差はそれほど大きくない。間違ってはいないけど、少し割り引いて見ないといけないようにも思う。


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