長けりゃ長いほどいい?
Graham, Z. A., E. Garde, M. P. Heide-Jørgensen and A. V. Palaoro. 2020. The longer the better: evidence that narwhal tusks are sexually selected. Biology Letters 16:20190950–5.
イッカクの牙の役目がなんであるのかについては、いまだによく分かっていない。ひとえに極海に棲んでいるので行動についての情報が少ないことによる。基本的にオスにしか長い牙は生えないので、性選択に関係するだろうとは考えられてきたが、一方で、感覚器であるという説もある。
性選択を受けているならば、他の動物の同様の選択を受ける器官と同じように、体の大きさよりも急激に大きくなることと、個体変異が大きいという特徴が見られるはずである。これを調査した。
オスの成熟個体の牙の長さ、尾びれの幅と体長との関係と変異を調査したところ、尾びれの幅は体長が大きくなるにつれ比例的に大きくなったのに対し、牙の長さは体長の上に凸の2次式で表された。また変異は牙の長さの方がはるかに大きかった。
これらの結果は、牙が性選択を受けていることを示唆している。また極限の長さがありそうなので、長くするコストもあるらしい。
tuskingという牙を見せ合う行動が知られてきたが、これはおそらく長さを誇示し合うディスプレイと考えられる。またオスは頭に傷が増えるので、実際に牙を利用して戦うこともあるのだろう。この場合、牙は垂直方向の力にはかなり弱いので、刺すのではなく、横方向に叩きつけるものと考えられる。
牙の長さはオスの状態を示す正直な信号として機能するだろうから、 メスによる配偶者選択に関係していることも考えらえる。
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イッカクの牙は非常に奇妙なので、人々の興味をひいてきた。それが性選択に関わるものだろうというのは、誰もが思っていたこと。その可能性をとても単純な方法で示したもの。ただこれだけでは本当に性選択が働いていることの証明にはもちろんならないが、これまでこんなことを誰もやっていないのは、ちょっと驚きだった。
不思議なのは、なぜハクジラの中でイッカクだけがこのような牙を持つに至ったのかということ。アカボウクジラの仲間の歯も同じ選択で進化したものだろうが、大きさという面では全く異なる。大きな歯を持つコストがイッカクでは圧倒的に少ないはずなのだ。棲んでいる環境も氷や海底などの障害物の多いところで、牙はすごく邪魔になり、かつ折れる危険性も大きそうなのに。
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