住民一律10万円の支給は朗報だが、これからの準備が大変

先週後半に入って収入急減世帯に30万円を支給という話が、住民全員に10万を支給となって、まずは非常に良かったと思います。

そもそもフリーランスなり個人事業主なんかは月給取りと違って毎月似たような金額を受け取る訳じゃないですし、入金の期ずれもあれば、実際に収入が減るタイミングは後からになる。しかし早く配ろうとしたならば、せいぜい2月から5、6月までの収入で比較せざるを得ない。誰が実際に支給の対象になるのか、自治体には問い合わせが押し寄せていたようです。

それに世帯という概念も困ったもので、戸籍における法的身分関係と住民票の居住関係、税法における生計を一にする者、生活保護における扶養義務で、それぞれ異なっており、全て台帳管理している訳ではなく、申請を受けてから台帳と突き合わせる訳です。

仮に30万の支給が実施された場合、住民基本台帳に基づいて審査することになったはずですが、世の中には生活保護や児童手当を受け取るために離婚を繰り返したり、世帯を分けている家もありますし、単身赴任の夫が赴任先に住民票を移すか、東京の大学に出た息子の住民票を移すかも運用は本人の裁量が認められていて厳格に管理されていないので、給付の基準としてはその公平性に課題が少なからずあります。

例えば住民票を実家に置いて父親の収入が減ってない場合は、アルバイトが減った苦学生であっても給付の対象にならないけれども、住民票を分けて独り暮らしの家に置いていれば、バイトのシフトが減って収入が急減した学生は給付の対象になったと考えられます。こんな不公平なままで実施した日には、基礎自治体の窓口は問い合わせ対応に大混乱して濃厚接触待ったなしとなったでしょう。

とりあえず1人10万となったことで、対象の審査はシンプルになったのですが、対象が約1000万世帯から約6000万世帯に増えるので、その給付事務は重いものとなります。中には世帯主が総取りする力関係となっている家や、DV別居となっている家もあるでしょうから、世帯ではなく個人単位で支給して欲しいとする声もSNS上では散見されます。事務量や口振手数料といった経費、未成年の扱いなどを考えると、原則としてリーマンショック後の定額給付金と同様に、世帯単位で給付せざるを得ないところですが、DV別居などのケースは個別の対応が必要でしょう。

自治体にしてみれば相次ぐ問い合わせに対応し、給付金の準備していた最中に梯子を外されて、窓口ではなく郵送やネットで申込を受け付けるといった細部が前のめりに報じられる中で、市区町村を介さず事務が行われるのではないかといった誤解が見受けられます。しかしながら役場の窓口で申請を受け付けるかどうかは別として、受給資格の確認や消し込みなどの事務は、世帯の情報にアクセスできる基礎自治体にしか不可能です。ましてやDV別居などの対応は、国が一律にできることではありません。

世論として30万から10万にしたことで、給付に要する時間が短縮されるのではないかとする期待があります。確かに審査に要する手間や問い合わせ対応は減るでしょうが、件数そのものは数倍に増える訳で、これを捌くのは簡単なことではありません。決まればパッと準備できる話でもなく、これから補正予算が予定通り審議されたとして、予算を執行できるようになるのは早くて連休明けです。予算執行を要さない準備は今のうちから進めるにしても、業務フローを組み立てて、システムを整備し、実際の給付業務が回るようにするためには、それなりに時間を要するところです。

家でテレビを流していて、分かったような顔をした政治評論家が、あたかも予算執行が可能となった直後から給付が始まるような憶測を垂れ流しているのをみるとヤキモキします。きっと自治体の方々も同じような気分で、給付の準備なんて何もできてないけど、住民から文句を言われたとき国は責任を取ってくれるんだろうなと思っていらっしゃるのかも知れません。しかし置かれている立場は霞ヶ関も同じです。この木金に突然「全員給付にしますよ」と報道で知ってアタフタしている訳です。結果としては良かったと思いますが、どうやるのかを考えるのはこれからです。

自治体はじめ関係者の皆様は、これからドタバタと準備が始まりますが、給付金をできるだけ早く住民の皆様に支給できるように頑張りましょう。新型コロナの感染が収まらず、官民ともに在宅勤務を増やしている中で、感染を広げることなく全住民に新たな給付を行うこと自体が、前例がない難易度の高い施策です。そして今回のことを教訓に、今後もこういった危機が起こることを前提に、次こそは「こんなこともあろうかと」と打ち手を示せるように、しっかりとした給付基盤を構築したいところです。

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