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ZFCで遊ぼう No.1

小学四年生のときの先生・・・今でも尊敬している先生です。

その先生にとっては私たちは初めての生徒でした。

教えた経験のない先生、いつでも生徒たちに全力で向き合っていました。その先生の思い出の中でも特に印象に残っているのは、

「1+1=2を本当に厳密に計算するととっても難しいんだよ」

という言葉でした。生徒たちもこれには「???」でしたが、小学校で手に入れる膨大な知識の前にも1+1=2を厳密には計算できない、という先生の言葉が妙に魅力的でした。

さて、この意味に初めて接近したのは大学一年生の時に友達に教えてもらったペアノ算術に触れたときでした。

ペアノ算術では、足し算は簡単に定義できるため、それほど難しい計算ではありませんが、たしかに1+1=2になる!これは厳密な証明だ!と納得のいくものでした。

しかし、ペアノ算術では現代数学の問題を表現するのに十分な力を持っていません。そして、標準的に数学に用いられているZFCというものを知りました。

ZFCに至るまでの歴史はとても楽しいもので、とてもドラマチックなものですが、それはおいておき、ZFCそのものを楽しんでみましょう。

もちろん私は数学の専門家ではないので、間違ったことをいうかもしれませんが、その時は指摘して下さると嬉しいです。

ZFCは集合論を公理化したもので、集合という数学の概念を「きっちりと」述べたものになります。いくつかの記号(文字)と記号の書き方(文法)を与えて、論理式を作ります。論理式から別の論理式を作る規則を述語論理の公理として定めます。

ここまでで、文字と文法を作ったので、言語のようなものができました。使う文字は次のようなものです。
( 開き括弧
) 閉じ括弧
¬ 否定 ¬(文) という文法
∨ または (文1)∨(文2) という文法
∀ 全ての ∀変数(文) という文法
∊ 属する 変数1∊変数2 という文法
= イコール 変数1=変数2 という文法
a 変数
b 変数
... 以下無数に別の記号として使える変数

つまり、7つの記号と無数の変数記号ということですね。

また、次の記号を略記として導入します。

∧ かつ
(A)∧(B) は ¬((¬(A))∨(¬(B))) の略記(上の記号だけで作られていることに注意)

∃ 存在する
∃x(A) は ¬(∀x(¬(A))) の略記

⇒ ならば
(A)⇒(B) は (¬(A))∨(B) の略記

⇔ 同値
(A)⇔(B) は ((A)⇒(B))∧((B)⇒(A)) の略記

⇔は略記の略記なので、これをすべて省略しないで書き下すとこうです。
(¬(((¬(A))∨(B))))∨(¬(((¬(B))∨(A))))
もはや人間に読める代物ではありませんね。

そして、これでは括弧が多すぎるので、¬( )の( )や、( )∨( )等の( )は省略して書くこともOKにします。

さて、ここからが楽しいZFCの世界。創世記のように宇宙を創っていくのです。

はじめに神は天と地とを創造された。

さて、天(記号と述語論理の公理)があるので、地を作りましょう。集合論の土台となる大切な公理です。

ZFC公理1「外延性の公理」
∀A∀B(∀x(x∊A ∧ x∊B)⇒(A=B))

これは( )が省略されているので、省略して書かなければこうです。
∀A(∀B((∀x((x∊A)⇔(x∊B))⇒(A=B))))
これでも省略記号を用いているので、省略されてるじゃん、って思うかもしれませんが、本気で省略しなければこうなります。
∀A(∀B((∀x(¬((¬(((¬(x∊A))∨(x∊B))))∨(¬(((¬(x∊B))∨(x∊A)))))))∨(A=B))))
これは見にくいので、上のように書いています。というかこんなの読める人間いないですよね・・・。でも7つの基本記号と3種類の変数記号だけで書けていて文法もしっかり守っているという確認は大事ですね。

外延性の公理の主張することはこうです。

∀A∀B( 「どんな集合Aと集合Bに対しても」
∀x( 「全ての要素候補xに対して」
(x∊A) ⇔ (x∊B) 「xがAに属すならxがBにも属し、逆も成り立つ」
)⇒ 「という条件を満たすとき」
(A=B) 「AとBは等しい」
) 「という」

たとえば、集合Aを{2,3,3}、集合Bを{2,3}とします。
このとき、要素候補は無数にあります。0,1,2,...,{2},{{3}},...☆,♡,♦,日本,カナダ,アメリカ,...,4fgs,320fss,...,私,あなた,...
なにがあるかわかりません。しかし、それらすべてを考えます。例えば2を考えましょう。

2はAに属しています。(2∊{2,3,3})
Bにも属しています。(2∊{2,3})

3を考えてみましょう。
3はAに属しています。
Bにも属しています。

Aに属しているものは2と3ですべてです。これらはすべてBに属していました。またBに属しているものも2と3で全てです。これらはすべてAに属しています。1などを考えると、AにもBにも属していません。♡も同じです。

こういう条件が成り立ったとき、A=Bと言える、ということですね。

AとBは{2,3,3}と{2,3}と書き方が違いますが、=という記号で結べる強い関係がある、というように思いましょう。

これは=と∊を結びつける公理でした。これで、天と地の出来上がりです。

地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。

しかし、まだそれらが揺蕩っているだけで、何もありません。

神は「光あれ」と言われた。すると光があった。

さて、ここに一つ、集合を作りましょう。何もない世界に、光を作ったように。

続く

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