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エリックサティ文集

たしか高校の図書館に入っていてそれで見つけた本だったと思います。白水社出版、エリック・サティ文集というものがあります。

これは衝撃的な本で、音楽家になりたいと思い始めていた僕にとって強い影響を受けたことは間違いないと思います。

エリックサティは音楽界の異端児と異名を持つ一風変わった作曲家で膨大なピアノ小品を残していますが、舞台音楽や歌曲も数多く残しています。

1866年生まれで、1874年から音楽教育を受けはじめ、1888年にはピアノ曲でも最大の知名度を誇る「ジムノペディ」を作曲しています。

七の和音を基調とした単純な伴奏の上に、これまた究極の単純さを見せる旋律が流れるだけの音楽ですが、これこそサティの音楽観にとっても音楽技術にとっても代表に値する価値があります。この曲の分析はまたいずれの記事でしてみたいところです。

サティはドビュッシーを敬愛し、またフランス6人組に強い影響を与え、19世紀後期~20世紀前半のパリを不思議な形で牽引する芸術家であったようです。

サティは音楽以外にも多彩でインテリジェンスな人でした。サティが残した文章やデッサンなども多くあります。そこで、真筆かどうかわからない文章でさえ文章であればどのようなものもすべてまとめて出版した、という本がこの「エリック・サティ文集」なんですね。

そのなからから、僕に大きな影響を与えた一節を紹介します。

56

子供の音楽家たち
     メダム、……
      メドモワゼル、……
        メッシュー、……
 ……昨年……私は、……まさにこの場所におきまして……「音楽と動物たち」と題するお話をする……栄誉に恵まれました…… それ以前に私は「動物たちにおける知性と音楽性」に関する論考を書き、S・I・Mに発表いたしました……
 ……本日は、……「子供の音楽家たち」についてお話したいと存じます…… この題がいささか大きすぎる、……広すぎる……ことは私自身承知しております……
 ……それはむしろ、……私の若い&魅力的な聴衆のみなさんへの……忠告であり……助言なのであります……
……
 大人の方々には、こうしてお話を小さくするのを許していただきたく存じます…… もっともその調子が、……友情にあふれ、……&気取りや思い上がりがいっさいないことに変わりはないのですが……
     ……
     ……
       ……
……私が長いあいだ……動物たちと暮らしたとすれば、……私はまた……大いに……子供たちともつきあいました……

(中略)

 子供たちについて申し上げれば、……彼らの音楽へのあこがれは……次のように境界が定められます――……つまり音楽を愛する子供たちと……音楽にあまり退屈しない子供たちと……はっきりと……癒しようもなく……狂暴なほど……音楽にはうんざりする子供たち……です……

……
 最後にあげた子供たちにも……私は別に反感を覚えません……
……とどのつまり、……それは充分彼らの権利にふくまれることなのですから……
 …… そういうわけで、……今みなさんにお話しているこの私は、仔牛が好きではありません……
 ………真夏の、……暑さがひどいときでも、……冷たすぎると思うのです……
 ……それは、私の気に入らない……ごくまれな動物のひとつです…… ただし頭は別、……オイルでいためるとたいへんおいしい……
 ……
  ひとそれぞれに好みがあり、……でしょう?……
 ……私の言うことは正しいと私は考えます、……
    まったく正しい、……
      完全に正しい、……
       正しいところじゃない……
         ……
  自分にずけずけそう言うのではありません……
  ……ただ自分でそう思うのです……
    ……
    ……
  そもそも、……私の言うことはいつでも正しいのです……
  ……
   ……
    ……
 ……
 ……人はどうやって音楽家になるのでしょうか?……
きわめて簡単です……
    ……先生につくのです――
 ――できるだけ、……音楽の……
 ……
 入念に、……
注意深く、……
        きびしく……
      ……
       先生を選びます……
   ……
      謝礼の額を決めます……
   ……
   ……
   その点について、……私としてはこう言っておくほうがいいと思います……逆上してはいけない、と……
……一時間……なんてすぐにたってしまいます……
 ……そう……謝礼の額を決めるのです、……しかし自分にとって……有利な額にします――
 ――あまり高くなく……そうです……
……
 私の言うことがよくわかっていただけるかどうか……私にはよくわかりませんが
      ……
      ……
 ……
     メトロノームの購入は絶対に必要です……
熟れすぎていてはいけません、……とりわけ……
 ……
          ……実がたっぷりしていて……
……
 すこしあぶらがのっていて……
    ……
      ……
……よく動くのでなければなりません……というのも……まるで気狂いのように……めちゃくちゃな動きを見せるメトロノームもあるからです……
 ……全然動かないものさえあります……
      ……そういうのはよいメトロノームではありません……

 (後略)

 原文にはあたっていませんから、この雰囲気や言葉がそのままフランス語で書かれているのかはわかりませんが、それは大した問題ではありません。 サティが書き、Ornella Volta氏がまとめ、岩崎力氏の訳があって、白水社がこのように校訂と構成をしたという一連の流れが合って、私のもとにたどり着きそれに感動した、ということですから、すべての方々の天才的な才能や努力があってのことだと捉えています。一方で、もちろんサティの原文にはあたってみたいものですね。好きなものの原典というものはやはりいつでも神聖な感じがします。

 特に好きなのは、このメトロノームの熟れすぎず、あぶらがのって、身がたっぷり詰まった、というくだりであって、メトロノームにこのような表現ができる感性が非常にうらやましいです。常にこうでありたいと思います。

 なんだかこの文章を読むと、ものすごくメトロノームに対して愛着が湧いてきて、ああ、いいメトロノームが欲しいな、と思うようになってきますね。

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