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社会学者による名誉毀損裁判(その1)

社会学者として知られている開沼博氏(東京大学大学院 情報学環 准教授)が、OurPlanet-TVによる裁判報道で名誉を毀損されたとして、東京地裁に訴えを起こしている。

ある学生が開沼氏を訴えた裁判について司法記者クラブで会見を開き、OurPlanet-TVがその「提訴会見」を提訴資料と共にそのまま流したのが発端だ。

社会派のインターネットメディアの先駆けとも言えるOurPlanet-TVは、小児甲状腺がんを検討する福島県の「県民健康調査」検討委員会を生配信するなど、生情報、生データをそのまま届ける報道スタイルをとっている。

第1回口頭弁論(2023年5月19日)以来、都合がつく限りは傍聴してきたが、裁判は書面のやりとりが中心で、原告本人は現れず、原告弁護士に取材をしたいのでつないでいただきたいと依頼しても「その立場にない」と名刺も受け取ってもらえない。そこで、文書で本人宛に取材を申し込むことにした。


原告本人への取材申し込み

東京大学大学院情報学環准教授
開沼博様


フリーランス・ジャーナリストのまさのあつこと申します。
OurplanetTVを名誉毀損による損害賠償500万円を求めておられる裁判について
・どのような名誉が毀損されたとお考えなのか。
・なぜ裁判という手段を選ばれたのか。
・裁判報道はどうあるべきなのか。
社会情報学の専門家として、または個人的な立場から
最低15分(各質問へのご回答5分づつ)〜30分
インタビューをさせていただきたく、ご連絡申し上げます。

対面が無理である場合、
オンライン、電話、書面、いずれの方法でも結構です。
ご検討のほどお願いいたします。
・媒体:「地味な取材ノート」https://note.com/masanoatsuko 
・連絡先: 携帯:〇略〇 メルアド:〇略〇
・趣旨:裁判報道についてなぜ社会学者が裁判という手段で問題提起するのかを知り、知らせたい。
・〆切や収録日などの時期: 3月中〜4月前半を希望します。
*フリーランスとしての発信例
『あなたの隣の放射能汚染ゴミ』(集英社新書)、
『投票に行きたくなる国会の話』(ちくまプリマー新書)、
『四大公害病』(中公新書)ほか

すると開沼氏の弁護士さんから、回答をFAXか郵送で送ると連絡があった。「ではFAXで」とお願いしたが、ウチのポンコツFAXが受信できておらず、郵送での再送をお願いし、3月29日の「ご回答」を4月25日に弁護士事務所経由で受け取った。経由と言っても「ご回答」そのものが、弁護士さんの回答だ。

回答は3点の箇条書き。こちらの質問3点に対応しているのだろうと思われるが、ストレートな回答にはなっていないので、その推認が間違っているかもしれない。また、推認が正しいとしても、質問2や質問3については「回答」を、判例や原告の準備書面で確認することを求められ、裁判所に閲覧しに行かなければならない。

裁判所の情報公開の現状

裁判所で裁判文書を「閲覧」した経験がない。東京地裁の民事訟廷事務室に電話してみると、判例については「倉庫から出す」。高裁の窓口は別だという。木曜朝に電話し、午後に「倉庫から出た」と電話があった。印紙と身分証と認印を持ってくるようにという。コピーはできないという。へぇ。出向けるのは来週だ。その間、開沼氏の弁護士の回答の要点を抜粋しておく。

質問1 どのような名誉が毀損されたとお考えなのか。

回答要点:多くの取材の申し込みが「本件前訴」(学生さんの裁判)の第1審と控訴審、および開沼氏がOurplanetTVを訴えた裁判を通じてありました。

それらは「慶應大学現役学生が涙の訴え『僕は開沼氏に脅された』」などと一方当事者の一方的な言い分に基づく記事を掲載することを前提に、ごくわずかな回答期限のもと、回答人(=開沼氏)の回答を求めるものがかりで、取材したという体裁を取り繕うためになされたとしか評価しえないものでした。

回答人が当初から主張していたとおり、本件前訴判決においては、学生の主張は事実として認められず、その請求は全て棄却されました。結果、学生は本件前訴の訴訟費用全価額を自ら負担することになりました。本訴訟では被告となった学生は、既に自らの非を認めて謝罪し、回答人への解決金の支払いも了しています。

質問2 なぜ裁判という手段を選ばれたのか。

回答要点:回答人は、度々、一方当事者の一方的な言い分に基づいた「取材」と称する活動による被害を受けてきたところですが、この度、まさの様から頂戴した取材申し込みは、これまでになされてきた上記のような取材申し込みとは異なり、取材の趣旨が明確に記載され、ご質問の内容もその趣旨に沿い、回答期限も余裕をもったものになっており、回答人としても、まさの様に敬意をもって対応したいと考えております。

しかしながら、本訴訟は今も係属している事件であり、当職が解答人への接触を許容することもできません。

その一方、まさの様からの質問事項に対する回答は、本訴訟の準備書面(3)、(4)、(5)に重点的に記載されておりますので、これをもって回答に代えさせていただきます。

質問3 裁判報道はどうあるべきなのか。

回答要点:本件前訴も本訴訟も、一方当事者による要約は不正確なものとなりがちです。本件については、東京地裁と東京高裁の記録係で、裁判記録(東京地裁平成31年(ワ)第5732号、東京高裁令和3年(ネ)第4130号、東京地裁令和4年(ワ)第21897号)を閲覧していただくのが、最も事態の把握に資するものと思科いたします。

回答人に対する如何なる意見も構いませんが、記事を記載するのであれば、前提とする事実については、決して一部のみの切り取りはなさらず、原資料(本件前訴及び本訴訟の裁判記録)にあたった上での正確な発信を求めます。

以上が回答だ。私の取材趣旨は、先方に伝えた通り、「裁判報道についてなぜ社会学者が裁判という手段で問題提起するのかを知り、知らせたい」と書いた通り。

言葉を足せば、独立系メディアOurPlanet-TVが「一次情報をそのまま流す」スタイルを提訴報道で取ったことで訴えられれば、その対応にエネルギーと時間と精神が割かれることが十分に分かっているはずの社会学者が、なぜ、裁判という手法で名誉を回復しようとしているのか。なぜ、社会学者という言論で生きている立場の人が、自らの言論ではなく、裁判で名誉を回復しようと考えているのかを知りたい。だから、どんな名誉が毀損されたと考えているのか、なぜ言論ではなく裁判という手段を選んだのか、そして、裁判報道のあり方を社会学者としてどう考えるのかと問いたかったのだ。直接、本人の見解を聞くことができず、残念だが、続きは、裁判文書を閲覧しに行った後(細切れ時間で何度か行くことになると思うのでずっと後)になる。

【タイトル写真】
2024年2月9日 訴えられたOurPlanet-TVの白石草代表理事と弁護団を弁護士会館前で筆者撮影。



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