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規制庁とエネ庁が駅で「面談」ー運転期間延長

1月25日、原子力規制委員会は、「原子力規制委員会の業務運営の透明性の確保のための方針の改正」(以後、透明化確保の方針)を行った。しかし、それは早くも形骸化している。段階を経て、そのことがジワジワ判明したので、段階を追って書く。

1. 原子力資料情報室の開示請求

2022年12月1日、NPO法人原子力資料情報室が、情報公開法の「開示請求権」に基づいて、ある開示請求を行ったことに端を発する。

開示請求内容は、「原子力規制委員会・規制庁における原子炉の運転期間延長に関する検討資料一切(2022年4月〜11月末まで、原子力規制委員会及び原子力規制庁内での検討、関連省庁や被規制対象者などの外部とのやり取りなど)」。

原発の運転期間を削除する話は、表向きには10月に原子力規制委員会が経産省の話を聞く形で始まる。しかし、開示請求で求めたのは、その前を含めて、規制委員会・規制庁内外でどのようなやりとりがあったかだ。

2.原子力規制企画課「事前に検討した経緯ない」

ところが、原子力規制庁の原子力規制企画課からは、「事前に検討した経緯が存在しない、ついては修正してほしい」と電話連絡があった。(存在しないなら「不存在」という決定を行えばいいのに、電話で返事があったことが既におかしい。そして後述するように「不存在」は後で嘘だったことがわかる)

3.緊急記者会見

原子力資料情報室の松久保肇事務局長は、電話連絡に屈さず、開示請求手続きを進めた。その上で、12月21日、既に入手していた「事前に検討した経緯」を示す内部情報と、それは「存在しない」と言われたことを緊急会見で暴露した。

4.会見で大騒ぎ→事前相談文書の存在を認める

この文書を巡り、同日の原子力規制委員長会見(2022年12月21日会見録)は大騒ぎになった。翌週、12月27日の定例記者ブリーフィング(2022年12月27日会見録)で、総務課長と原子力規制企画課長が暴露された内部資料を提示し、経緯説明を行った(2022年12月27日資料2)。

5.透明化確保の方針改正

年が開けて、2023年1月25日、原子力規制委員会は、冒頭で述べた透明化確保の方針の改正を行う。これは運転期間を原子炉等規制法から削除する事前相談が、原子力規制委員や国民の知らないところで行われていたことを踏まえたものだ。「ノーリターンルールの適用対象となる行政組織」、つまり経産省との面談記録も公開するという改正だった。

6.駅で面談している通報

ところが、改正直後、面談が記録に残らないように駅でやっているとの情報が寄せられた。確かめる方法は一つ。聞くことだ。2月3日のブリーフィングで聞いてみた(2023年2月3日会見録)。しかし、「そんなことは行っているとは思いません」と二度も否定された。

7.【番外編】事前相談文書:規制庁文書は黒塗り、経産省文書は「移送」

この2月3日の会見の中心は、駅の面談ではない。12月27日の定例記者ブリーフィング以降、記者たちに強く求められた資料の説明だ。つまり、経産省と7回もの面談で使われた全資料を公開すべきだと記者たちが求め、新たな資料が出てきた(2023年2月3日会見資料2「運転期間の見直しに係る経緯に関し、本日公表する資料の一覧」)。

ところが、全資料の公開とはほど遠かった。規制庁作成資料の多くは黒塗りで、エネ庁の作成資料は「エネ庁への移送手続を取る予定」だと黒川総務課長が述べた。

この時、疑問に思ったあることがある。移送手続の相談はいつどこでどう行われたかのだ。自分で聞いておいて忘れていたが、次のようなやりとりを行なっていた。

○記者 (略)先ほどのエネ庁に移管した話についてなのですけれども、決裁の最高は長官、委員長の両方ともということだったと思うのですが、決裁したのはいつですか。
○黒川総務課長 正確に申し上げると、移送の判こをするという意味での決裁権者は課長です。原子力規制企画課の金城課長になります。ただし、非常に重要な案件でありますので、判こを押すという意味での決裁とは別に、それらの方針でいきますというのは、長官にも、委員長にも説明をして、了承を得ています。
○記者 いつですか。
○黒川総務課長 今日は金曜ですね。今週のどこかです。今、正確に何日とは申し上げられません。
(出典:2023年2月3日会見録 より)

私が決済はいつかと尋ねたのは、その前にテレ朝記者が開示が遅れた上に移送することになったことについて「あきれて物が言えない(略)。どの部分を開示して、どの部分を開示しないか、これでもめているというか、打合せをしているから(略)時間がかかっていますとあなたはおっしゃっていませんでしたか」(2023年2月3日会見録)と尋ねたからだ。これに対して黒川総務課長は「もちろんエネ庁とも移送することですとか、どちらが開示するという議論は当然しています。それにある程度時間がかかったことも事実」と答えている。

振り返ってみれば(と、ここに書いてしまうと、裏で相談されてしまいそうだが)、いったい開示と移送をめぐるこの議論は、「どこで」行ったのか。記録に残っているだろうか。

記者たちが開示請求に消極的な規制庁にいきりたって質問を続けたのは、この事前相談が、原子炉等規制法から運転期間を外すという相談が独立行政機関である原子力規制委員会の知らないところで行われていたからだ。つまり、原子力規制委員会の独立性、透明性、そしてガバナンスが欠如しているという問題意識からだ。

8.駅で資料の受け渡しを国会で認める

さて、6番からの続きだが、確認結果は、予期せず3月10日、衆議院環境委員会で近藤昭一議員の質問に対する国会答弁の形で飛び出した(動画は衆議院ビデオライブラリから)。金子修一次長が「関係の職員に聞き取り調査を行いました。駅で話し合いをするようなやりとりした事実はないと確認した。一方でご指摘の点は駅で資料が受け渡しがあったのではないかという点ではないか。これはよく聞いてみますと7回の面談のうちのエネ庁から受け取った資料について、電話を受けた際に、メモ書きをしてしまった職員がおりまして綺麗なコピーをもう一度もらいたいということで取りに行くということで(目が泳ぐ)、それをわざわざオフィスに来るのも(目を閉じる)大変だろうからということで、駅で渡していただいたことが一回あるということ、確認をした。それ自身が面談のような形で行われたことではない」と答弁した。

ここから3月25日に加筆。

9.山中委員長は駅受け渡しを「そういう習慣」と珍回答

3月15日、国会答弁を受け、山中委員長会見で、駅での資料受け渡しは開示請求を受けた後かと確認した。委員長は回答できず、「後で事務方に聞きます」と諦めかけた(2023年3月15日会見録)。

ところが、別の記者が、この件を「どのように受け止めているのか」と感想を尋ねる。山中委員長は「何かそれが問題であるというふうには思っていません。」「委員会の独立性に何かこういう事務職員のやり取りが影響を及ぼしているというのは全く考えられません」と、防戦姿勢で回答した。

同記者は「駅で資料を役人の方々が受渡しする行為自体、非常に強い違和感を覚える」「なぜそのようなことをしたのか」と更に問い、委員長は「そういう習慣だったのだろう」と珍回答。同記者は「資料をやり取りするときによく使われているのはメールなのですよね」と逃がさない追及姿勢を見せた。

10 珍回答への珍補足

すると、「まさのさんのもちょっと一緒に答えますと」割って入ったのが、金城原子力規制企画課長だった。端折って箇条書きにするが、これもまた珍回答だった(原文は2023年3月15日会見録)。

  • 資料のやりとりは情報開示請求の後。

  • エネ庁資料も含めて特定しないといけない。エネ庁資料は、回収資料で、職員の1人が念のためと、どうせ捨てる資料として持っていたので、いろいろメモを書いていた。

  • メモは全然関係ない、面談ときのメモではなくて問合せが来たら電話番号と名前を控えて、どういう質問でとか。僕もちらっと見ましたけど、全く関係ない、本当にメモで使っていて、いずれ捨てる予定の資料のような扱い

  • 開示するなら、消していくと真っ黒になってしまうぐらいのメモ書きでしたから、エネ庁にも伝えて、我々が聞いた説明資料はこれだよねといったことでやり取りをして、それをもらったのが目的。

  • 最終的にエネ庁に移送して、開示は対応することになったので、その資料の公開についてはエネ庁側に行きましたので、その資料は残っていません。

  • なぜわざわざというところですけれども、多分これ厳密につめたわけではないですけど、大分忙しい職員でもあるので、いろいろなことのついでに、一番それが手早く受け取れるタイミングだったというふうには聞いております。

11 そのまた補足も珍回答

この珍補足に、記者魂に火がついた記者は「全然納得できない」とし、「委員長が面談の記録を残して公表するようにという指示をされた、その指示に違反しているのではないか」と質問。委員長は「私からの指示を裏切ったというふうには捉えておりません」とさらに防戦、これに今度は黒川総務課長が補足に入った。

黒川総務課長「要は普通の案件なら当然メールですけど、本件は非常に情報管理を厳しくしていましたので、メールで送れば当然転送というのがあり得ますので、基本紙でやり取りする。これはもう霞が関の中でも基本というか、情報管理を厳しくするときは紙でやり取りする。これは基本の基本で、次に、何で駅でということで聞きましたけど、要はこちらが汚してしまったものをもらいに行くので、基本こちらがあちらに行くという、当然そういう関係になりますけど、そうすると、わざわざ何とか課まで来ていただいてというところもあるので、ちょっと向こうも譲って駅までは行きますよという感じになりましたということで、割とありそうな話というか、わざわざ課までは来ていただかなくても、そこまでは行きますよぐらいなら、普通にあるかなと思ったというのが私の印象です」(2023年3月15日会見録)。

単なる「資料」ならメールで送受信する今日この頃。黒川課長の言うように「情報管理を厳しく」するなら、金城原子力規制企画課長の言うように「メモ」で真っ黒くして「どうせ捨てる」という扱いでは辻褄が合わない。補足の上塗りで、疑問は深まった。

12 委員長は珍回答を撤回

再び、手を挙げ、最後に質問できた。駅の受け渡しについては、記録を残すよう指示があった後でやっていると告発があると聞いた時に、2月3日に黒川課長は「おおよそそんなことをしているとは思いません」と2度おっしゃったと前置きをして、「山中委員長は通常はこういったことはあり得ないというふうに認識をちょっと改めていただきたいのですけど、それはよろしいですか」と詰めた。

山中委員長は「普通、駅で資料の交換とかしないですよね。それは、普通そうだろうなと思います」と、「そういう習慣だ」という珍回答は引っ込めてくれた。思わず、ありがとうございますとお礼を言ってしまった。

その後の質疑も端折って抜粋する。繰り返すが、私が受けた告発は、原子力規制委員会が上記5番の透明化確保の方針の改正後だった(原文は2023年3月15日会見録)。

○記者 (駅受け渡しは)情報開示請求があった後だと。情報公開請求の内容は9月に運転期間について話がされる前に、どのようなやり取りが他省とあったか。手書きが書かれていたとしても、そのまま出すのが情報公開法の趣旨。捨ててしまったのですか、金城課長。
○金城原子力規制企画課長 エネ庁のほうで開示請求すべき資料となり、こちらでの保存の必要がなくなったということで廃棄。
○記者 これ自体が公文書管理法違反。委員長、詳細に公文書管理法の担当者ときちんとお話を一度されるべきでは?
○山中委員長 誤解を解かないといけないので、少し話をしてみます。
○黒川総務課長 事務方から補足を。特に公文書管理法に違反しているとは考えません。
○記者 公文書管理法の、規制庁内のではなく、総務省なり内閣府に聞いていただきたい。
○黒川総務課長 いえ、その必要があるとは考えません。

13 駅で受け渡しは「改正イメージ」・・・ではなく

上記9〜13番が3月15日会見でのやり取りだ。直後に、はて、駅で受け取った資料は何だったのかを聞き忘れたと思い、黒川総務課長に向かって歩きながら、上記4番、経産省との7回の経緯(2022年12月27日資料2)を思い出し、カマをかけて8月19日の「改正イメージ」かと尋ねると「そうだ」と回答。これはオープンに共有されるべき情報なので、次の会見で確認を取っておこうと思った。

14 駅で受け渡しは「7回の非公開面談資料全て」

そして、翌週、3月22日の山中委員長会見。「黒川総務課長に聞いたところ、やり取りされたのは、8月19日に面談でエネ庁から規制庁が受け取った「改正のイメージ」だと聞いたが山中委員長もそのような理解か」と質問。山中委員長は案の定「報告を受けておりません」と回答。

一方、黒川総務課長は「8月19日のも含んで経産省、エネ庁から、面談でもらった資料の一式、8月19日のものも含んでいます」としれっと回答した。

うっと驚愕して、「7回の面談資料、それ全てということでしょうか」と聞き返すと、「基本的にはそうです」という。その後を以下に抜粋する(原文は2023年3月22日委員長会見録)。

○記者 それが机の上に置いてあって次々と全てメモ書きに使われたということでしょうか。
○黒川課長総務課長 何をどこまでメモをというのは確認はしていません。きれいなものを取り寄せたくて全部取り寄せた。厳密に言えば、きれいなものもあったのかもしれないのですけど、そうすると中途半端に取り寄せると、また次に取り寄せるということにもなりますので、担当としては全部、もういっそ取り寄せたというふうに聞いています。

15 透明化確保方針で求められた「文書管理」

予期しない展開となったが、ここまで来ると、1月25日に定められた透明化確保方針に照らして問わざるを得ない。慌ててスマホで、透明化確保の方針の改正を見ながら、質問した。

令和5年1月25日「原子力規制委員会の業務運営の透明性の確保のための方針の改正」P.8

以下、端折って抜粋(2023年3月22日山中委員長会見録)。
○記者 山中委員長、(略)委員長たちが決めた方針では、文書の管理について、「面談を実施せずに文書の伝達によって情報伝達し、または伝達された場合であっても、意思形成過程や事務及び事業の実施実績の合理的な跡づけや検証に必要なものについては、公文書管理法管理法、その他の公文書の管理に係る法令等にのっとり適切に管理しなければならない」となっています。これを電話のメモに使ってしまったり、だからといって、開示請求を受けた途端にそれを捨てて、新しいものをもらう。これは、公文書管理法に違反するし、委員長たちが決めた方針にも反しているのではないでしょうか。
○黒川総務課長 ちょっと事務方から補足します。特に公文書管理法に違反してはいません。同一物を取り寄せてそちらを原本としただけのこと。
○記者 回収しますと言われて返さなかったものがたまたま残っていて、それをメモに使ってしまったと、これは適切な管理違反ではないのですか
○黒川総務課長 特にどのように管理するかという想定についてのルールは定まっていないので、特にルール違反ということにならない。確かに汚れてしまったので困りましたけど、同一物を取り寄せてそれを正本扱いとしたということかと思います。
○記者 破棄についてもきちんと公文書管理法に定められています。次の質問をします。

ここから3月26日に加筆。

16 透明化確保方針で定義された「面談」

透明化確保方針はよくできていて、「面談」の定義が書かれている。儀礼上の挨拶は含まないが、「内容が委員会の所掌事務に関連するもので、会議室等で」「所要5分を超えた場合」は面談だとみなすというのだ。

令和5年1月25日「原子力規制委員会の業務運営の透明性の確保のための方針の改正」P.10

そこで、「会議室には、駅での面談も5分以上であれば」面談ではないかと尋ねた。「三笘の1ミリ」がそうであるように、ルールの運用というものはそういうものだ。

まして、今回の方針改正は、経産省と規制庁が相談して、原子炉等規制法から原発の運転期間を削除することを事実上、決めていた事件が発端だ。方針の目的は以下の通りで、太字が新たに加わった改正部分だ。

「原子力規制委員会が行う規制業務に関して独立性、中立性を強化するとともに、国民の疑念や不信を招くことのないよう、原子力施設の安全確保の重要性、国民の関心等を踏まえ、被規制者等や原子力利用の推進に係る事務を所掌する行政組織との関係において委員会の運営の透明性を確保するための方針を定める」

ところが、この改正直後に、6番で書いたように、面談が記録に残らないように駅で会っているとの情報が寄せられた。開示請求された文書の受け渡しだとしても、5分が過ぎれば「面談」とみなすべきだし、過ぎていなくても、その行為は「国民の疑念や不信を招くことのないよう」と定めた方針目的に反する。

しかし、山中委員長は、「定義」を聞いてなお、「駅での話合いというのは面談とはみなしません」と回答した。

委員長自身が方針を形骸化させている。しかも、議事録をたどって気づいたが、「駅での話合い」と言ってしまっている。形骸化どころか破壊している。

17 原子力規制委員会の存在意義

以上、深刻なことを整理すると3つ。1つ目は、現在、国会に提出されている法案が結局、暴露された内部文書(以下)とそっくりなこと。原子炉等規制法から運転期間を削除するという内容はもちろん、束ね法にするという段取りまでがそっくりだ。

2022年12月27日資料2 P3

残り2つは7番で書いたが、規制庁が作成したこれ以外の資料は、今でも黒塗り部分の開示を拒否していること。そして、メモで汚したのできれいなものを駅で受け渡されたという経産省の作成資料は、いまだに非開示であること。

これら3つは一体だ。老朽原発を時限で廃炉にするツールを、規制庁と経産省が潰す相談をしたことがバレて、もはや隠すことなどないはずなのに、不必要な隠蔽を続けている。そこに対してすら、原子力規制委員会はガバナンスを発揮しようとしない。それどころか、推進と規制の一体化を擁護している。

これでは、冒頭で述べた透明性確保方針の形骸化に止まらず、原子力規制委員会が存在意義を失い、形骸化していることにならないだろうか。

以上、長くて推敲が不十分ですが、どうぞご容赦を。

【タイトル写真】
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