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「GXは原発だけじゃないのに全否定するのか」という疑問

日曜と祝日に挟まれた3月20日(月)に、「GX推進法案」を国会で通してはならない―新たな国民へのツケ回しとなる法案の徹底検証(主催:原子力市民委員会)が開催された。途中からオンラインで見ることができただけだが、主催側と一般参加者との質疑で興味深いものがあった。

Q:経産省はどうして福島第一原発事故があってなお原発を進めたいのか?
Q:GXは、原発だけでなく、他分野にも多く投資されるからいいんじゃないか?

原子力市民委員会座長の大島堅一・龍谷大学政策学部教授は、前者には「このままでは衰退するという危機感からだと思う」と答え、後者には「投資150兆円は官・民によるもので、儲かるものは民間が投資するが、官は民間では儲からない分野に投資する。衰退産業である原発などがそれだ。問題は投資した効果が得られるかだ」という旨を回答した。

「脱炭素型経済移行債」で経済は移行する?

その通りだと思う。私もその質問者の視点で考えてみた。今回のGX推進法案で経産省は、「脱炭素型経済移行債」を発行して手に入れたカネで、経済を移行させるという美しい夢を描いている。

問題は、その夢は本当に実現するのか? 経産省はどんな効果を狙い、そしてその効果は得られるのか?

大島氏の言うように、発電コストが年々上がっている原発、投資回収が難しいからと安全確保ルールも定まらないうちに運転期間の延長制度を作ろうとしているような儲からない原子力分野に1兆円たりとも投入することはどうなのか?他の分野で1兆円は正当化できるのだろうか?

昨日の地味な取材ノートと同じ資料で説明してみる。「GXを実現する官・民の投資」という経産省の資料だが。10年間で150兆円超とした中で、最も大きく見える額は「再生可能エネルギーの大量導入 約31兆円」だ。これでみれば、「原発1兆円のために、再エネ31兆円を含めて全否定するのか?」と思う人がきっといるだろうと思う。しかし、ちょっと待て。

出典2022年10月26日のGX実行会議 
資料1 GXを実現するための政策イニシアティブ

上記資料が出てからわずか数ヶ月。今年2月10日に正式に閣議決定されたGX基本方針と共に公表されたGX実現に向けた基本方針参考資料を見て欲しい。すると、一番目立つのは上記では17兆円とされていた「自動車産業」の「34兆円」(P9)。

再エネ大量導入?

一方、「再生可能エネルギーの大量導入 約31兆円」は見当たらない。2月10日GX実現に向けた基本方針参考資料P16の「再生可能エネルギー」「約20兆円」とP17「次世代ネットワーク(系統・調整力)」「11兆円」を足せば31兆円になる。

P16には、「FIT・FIP制度の適切な執行、地域主導の再エネ導入等によるGX投資の加速(約2兆円/年)」と書かれている。これだけで10年で20兆円になる計算だが、経産省の別の資料でFIT制度・FIP制度での単年での買取総額想定を見ると、2021年度が3.8兆円、2022年度が4.2兆円とあるから年2兆円では現状より減る。

「加速」というなら年2兆円ずつ増やすという意味か?と思うが計算が合わない。P16に目を凝らすと、「地域と共生した再エネの最大限導入 再エネ比率36〜38%」とある。これはGXと言い出す前の、エネルギー基本計画での2030年度36〜38%」から変わらない。志の高い話ではないことがわかる。

出典:2023年2月10日GX実現に向けた基本方針参考資料

P17「次世代ネットワーク(系統・調整力)」20兆円とあるが、ここでも再エネ比率36〜38%

出典:2023年2月10日GX実現に向けた基本方針参考資料

再エネの最大障壁が系統制約

中身は、電力自由化以来、既存の大手電力と再エネが競争可能になるように再三再四求められてきたことに過ぎない。折りしも、大手電力が法令違反を犯してまで、不公正な競争をおこなってきたことも、この間、明るみに出た。内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」が3月2日に「大手電力会社による新電力の顧客情報の情報漏洩及び不正閲覧に関する提言」でも指摘したように、「再エネ電源の導入の最大の障壁の1つが系統制約」だ。

2016年に電力自由化に着手した時から解消を始めておかなければならない「系統制約」について、ここにきて、ようやく物理的に系統(送電線)にGX投資で投資しようというのは、あまりにも国民を馬鹿にした話だ。(おそらく、多くの国民は知らされていなさ過ぎて、経産省に馬鹿にされていることにも気づけていないのが実態だと思う。)

上図で需要なのは「GX投資」と並ぶ「規制・制度」で、物理的に系統を整備すれば「系統制約」が解消されるわけではない。タスクフォースが求めているのは行為規制の強化や所有権分離を含む構造改革だが、それはここには見当たらない。

送電線を増やしても、再生可能エネルギーは系統につなぐことを拒まれて増やせない理由の一つに「優先給電ルール」がある。ここにメスを入れないと、原子力は常に最も優先される電源だ。

今回、このGX推進法案とともに、原子力を運転期間延長、再稼働加速、リプレースの3点セットで回帰させれば、この構造は固定されるので、下手すれば、再生可能エネルギーへの投資は、再生可能エネルギーを増やせず、ドブに捨てることになりかねない。

GXは原発だけじゃないのに全否定するのか? いや、今のエセ電力自由化の構造のままでは、新しい時代の経済構造へ移行することを全否定をしているのは原発なのだ。

出典:資源エネルギー庁「出力抑制」
「スペシャルコンテンツ」再エネの大量導入に向けて ~「系統制約」問題と対策)

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