5~30km圏内の住民を避難させない前提(1F事故の100分の1に収まる)はどこから来たか?
原子力災害と自然災害が重なったときに「屋内退避ができない地域はないのか」とか、「避難経路は確保されているのか」の一斉点検が必要ではないかと内閣府の原子力防災会議の一員である山中原子力規制委員長に聞いたが、「各事業者が自主的に確認する」旨のズレた回答しかこなかった、という前回の話の続き。
避難計画のもととなる原子力災害対策指針(以後、指針)の話は難しいので、自分の頭の整理を兼ね、私見を交えながら、基本をおさらいしてから本題に入りたい(と思ったが、今回はおさらいで終わった)。
指針の最新版はこちら(2024年9月11日版。やっとA5版になった)。
原子力災害対策指針のおさらいと基本的な問題
現在の原子力災害対策指針(以後、指針)では、過酷事故(全面緊急事態:GE)が起きたときに、PAZ(5キロ圏内)は避難、UPZ(5〜30キロ圏内)は屋内退避をすることが求められる。
これを言うと話が進まないが
これを言うと話が進まないが、現指針には、まずここに無理がある。
福島第一原発(1F)事故で、徐々に避難範囲が拡大したと記憶していれば、逃げられるものなら早く逃げたい。住民がピンポイントで知りたいのは、いつ放射性物質が自分のところまで飛んでくるかだ。分からなければ不安だから、直ぐに逃げるのが人間の心理だ。
指針では、避難や屋内退避のタイミングの情報は事業者からの情報を元に、政府や自治体が住民に伝えるが、情報が正確か、タイムリーか、信頼できるか、物理的に断絶しないかなどの問題がある。
5〜30キロ圏内(UPZ)の人が求められる行動
にもかかわらず、指針では、UPZの住民は「避難」させないというのが基本だ。
震度6以上の大地震が起きても(警戒事態:AL)何もしない。
全交流電源が喪失したら(施設敷地緊急事態:SE)屋内退避の準備。
原発が冷却機能を喪失しても(全面緊急事態:GE)屋内退避を始める。
避難させない前提(1F事故の100分の1に収まる)はどこから来たか?
避難させない前提は、新規制基準が功を奏するということ。つまり、事故が起きても放出される放射性物質は福島第一原発(1F)事故の100分の1である100テラベクレルに収まるという想定で、指針ができあがっている。
では、100テラベクレルに収まる想定はどこから来るのか。
遡ると、指針が話し合われていた時だ。2013年4月10日の原子力規制委員会で安全目標に関する論点(資料)がまとまっている。そこで「 Cs137 の放出量が 100TBq を超えるような事故の発生頻度は、100 万炉年に1 回程度を超えないように抑制されるべきである(テロ等によるものを除く)」とされた。
テロは別なの?
あくまで目標であり、今、気づいたが「テロ等によるものを除く」と書いてある。
911に島根原発のテロ対策が合格。飛行機が突っ込んでも1F事故の100分の1の放射線物質放出で済むのか?と無邪気に問いかけたが、済まないのだ。しかし、それ以外の文書では「テロ等」を除外していることは見かけない。
全国知事会に対しても「原子力規制委員会が策定した新規制基準においては」「セシウム 137 の放出量を 100 テラベクレル(福島第一原発事故の放出量の約 100 分の 1)を下回ることを求めている」と説明。
2017年2月に田中俊一原子力規制委員会委員長(当時)が原子力災害対策指針と新規制基準を説明したときにも、同様の説明を行っている。
おさらいのまとめ
いずれにせよ、この「目標」を達成するように定めたのが「新規制基準」である。
そして指針はこの「目標」が達成される(100テラベクレル=1F事故の100分の1)で収まることが前提で、5〜30キロ圏内の住民を避難させないことになっているのだ。おさらいはここまで。
しかし、おさらいだけで、長くなってしまったので、いったん切る。
9月30日の原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム会合の話を書こうと思っているのだが、なかなか到達しないのに、ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。
【タイトル写真】
2024年9月30日 第5回原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム会合にて筆者撮影。