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東電の汚染水:放射性物質の測定数は変化

5月25日朝、超党派議員連盟「原発ゼロ・再エネ100の会」が韓国の「共に民主党」の議員らも招いて、東京電力から「ALPS処理水の取扱いに関する東京電力の取組状況」をヒアリングを行った。折りしも、韓国政府の視察団が来日し、21日から視察を行なっていた時だ。

29核種測定のはずが韓国議員の前で「69核種」と説明

この勉強会を取材した中で、気になった点が一つあった。東電が、ALPS処理水を海洋放出する前に「69核種を測定する」と口頭で説明したことだ。

昨年夏に「64核種」とした実施計画を、東電は「29核種」に減らす計画変更を申請し、5月10日に原子力規制委員会がそれを認めたばかりだ。汚染水中の濃度が告示濃度限度の100分の1未満となると東電が確認した39核種を除外した結果だ。

出典:2023年5月10日原子力規制委員会資料 P61

汚染水の海洋放出に関する実施計画の変更許可時に原子力規制委員会が行なったパブリックコメントに対して、筆者は一国民として「昨年7月には64核種としていたものが29核種に減っている」、「汚染水を世界で初めて海洋放出するというのであれば、十分に慎重に保守的な体制を取るべき」(委員会資料E-29)と意見を送った(そのような意見は複数出ていた)が、パブコメ結果では「29核種」のままだったので、悔しくて「29核種」と覚えていた。いつの間に69核種に増えたのか?

同日夕方、東電の中長期ロードマップの進捗状況の会見(動画)で確認した。。
 Q1:海洋放出前に測定するのは、29核種なのか69核種なのか。
 Q2:韓国の視察団にはなんと説明したのか。
 Q3:IAEAには何と説明したのか。

国際原子力機関(IAEA)は3月に視察し、韓国政府はIAEAの評価結果を見てから判断するとしている(日経新聞「韓国、福島処理水放出は「IAEA評価で判断」」2023年5月26日)。

韓国への説明内容は「国に確認を」

東電の回答は以下の通りだ。
 A1:29核種は国の告示濃度総和1未満を満たしているかどうかを確認する。我々は、風評影響のことも考えて69核種の測定はする。
 A2:韓国の国の方々にというのは、国に確認していただきたい

驚いた。「実際に説明したのは東電ではないのか、経産省が説明したのか」と聞くと、「そちらについては経済産業省にご確認いただきたい。ちなみにIAEAの方には69核種と説明した」という。
 
では「29核種は告示濃度総和1未満を満たすためということも説明したのか、言わずに69核種と説明したのか。どちらか」

すると、説明者は沈黙後、「IAEAの皆様には告示濃度総和1未満を評価するために、29核種を測定すると説明した」と答えた。

3枚舌

29核種に絞った実施計画と、IAEAに説明した69核種。そして、韓国視察団にどう説明したかは言わない。3枚舌だ。

その後の確認で、確かに東電は2月14日、実施計画の変更申請時の参考資料で「69核種」と日本語で説明していた(下表)。しかし、「実施計画には反映されていない」(東電広報)。69核種はあくまで風評被害対策だという。

2023年2月14日
多核種除去設備等処理水の取扱いに関する 実施計画変更認可申請書の一部補正【概要】

実施計画とは正式には原子炉等規制法第64条の3に基づく「特定原子力施設に係る実施計画」。つまり、法的に担保されているのは29核種で、69核種のうち39核種は世論が変われば測定しなくなりえる。

相手と状況により、説明も測定対象核種も変化する。

東電が提供する情報、しない情報

東電はこれまでに、

  • トリチウム以外の放射性物質は、放出前の段階で、国の規制基準値を確実に下回るまで何回でも浄化処理する。

  • 希釈放出において異常が生じた場合は、移送ポンプを停止し、海洋放出を停止する。 複数の緊急しゃ断弁が自動で閉止する。

  • トリチウムは1,500ベクレル/リットル未満、年間総量22兆ベクレルを下回るよう管理して放出する。

と説明しているが、69核種の総量や、今後増え続ける汚染水や核種の総量、さらには汚染水そのものが増えないようにする恒久的な止水対策について、外から求められている情報については、いまだに積極的に分かりやすく公表しようとしていない。

一方で、「包括的海域モニタリング閲覧システム」、海洋生物の飼育日誌など”風評被害対策”になりそうなPRは積極的に行なっている。

これは、果たして、信頼される情報提供のあり方なのだろうか。

【タイトル画像】

2023年5月24日、超党派議員連盟「原発ゼロ・再エネ100の会」ヒアリングでの東電資料より


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