個人線量計を持ち歩くこと前提:復興と帰還
「地味な取材ノート」はこれが100号目(通し番号はつけていない)。だから最近で最も地味で大切なことを書いておこうと思う。帰還困難区域に関することだ。
8月2日の原子力規制委員会は、内閣府の「原子力被災者生活支援チーム」から「特定帰還居住区域における放射線防護対策について」の説明を受け、それが「平成25年の基本的考え方」に沿った方向でまとめられているという結論を出した。
「平成25年の基本的考え方」以外の考え方には「沿っていない」とも言える奇妙な結論だ。
どうやって人々を被ばくから守るのか
「平成25年の基本的考え方」とは2013年に原子力規制委員会が定めた「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方」のこと。
最大のポイントは、「帰還後の住民の被ばく線量の評価は、空間線量率から推定される被ばく線量ではなく、個人線量を用いることを基本」とする考え方だ。
その根拠は、「これまでに各市町村で測定された個人線量の結果によれば、空間線量率から推定される被ばく線量に比べて低い傾向ではあるものの、個々の住民の生活や行動によってばらつきがある」というもの。
帰還困難区域とは「空間線量率から推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以上となる地域」で住民に避難をさせた区域。つまり「平成25年の基本的考え方」とは、極端に言えば、「空間線量率から推定」して20ミリシーベルト以上でも、個人線量で管理できれば帰還してもいいというもの。
目下、原子炉等規制法に基づいて、国は原発事業者に公衆への被ばく限度は「年間1mSv以下」と定めているのに、それとは異なる考え方(ダブルスタンダード)だ。
8月2日に、原子力規制委員会が「特定帰還居住区域における放射線防護対策について」が「平成25年の基本的考え方」に沿うと結論したというこということは、「特定帰還居住区域」への帰還住民も、個人線量で守れると原子力規制委が考えたということだ。では「特定帰還居住区域」って何なのか。
福島復興再生特別措置法の改正
今年6月まで開かれていた国会で、あまり注目を浴びなかった法改正がある。福島復興再生特別措置法だ。この法律は、原発事故からの福島の復興を目的に2012年に成立。その後、政府・国会は「帰還困難区域」を狭める改正を段階的に行ってきている。
2016年改正による「特定復興再生拠点区域」
たとえば、2016年には「帰還困難区域」の中に「特定復興再生拠点区域」を設け、避難指示解除を可能にした。「特定復興再生拠点区域」とは「住民が受ける追加被ばく線量が年間1mSv以下になることを長期目標」とする地域(つまり現時点では追加被ばく線量が年間1mSv以上になり得る地域)に帰りたければ帰っていいという改正だった。自治体と協議し、生活空間周辺を除染し、必要なインフラ整備ができればという条件があり、結果的に双葉町、大熊町、浪江町、富岡町、飯舘村、葛尾村に一つずつ「特定復興再生拠点区域」ができて、除染が行われた。
2023年改正による「特定帰還居住区域」
そして今年6月の改正で「特定復興再生拠点区域」外の「帰還困難区域」に新たに「特定帰還居住区域」を設けて、住民が帰りたければ帰っていいよという区域を設けた。そして、そこでの住民の被ばく防護についても、「平成25年の基本的考え方」でよし、という結論を出した。それが8月2日の原子力規制委員会だった。
個人線量計を持ち歩く生活でいいのか?
その午後、山中原子力規制委員会委員長に次のように尋ねた。
空間線量と比較して個人線量は低く出るという論拠(論文)が撤回されたにもかかわらず、個人情報保護に違反していたという文脈でしか捉えていない・・・。
そして、「空間線量率から推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以上」となり得る地域に「本当に戻りたいという方がおられたときに」(山中委員長)、除染をして、個人線量計を持ち歩くことが自己責任となる地域を作る。そして、帰還した住民は個人線量計を持ち歩いて暮らすのだろうか。
こんな大事で繊細な話が、原子力規制委員会の議題の一つとして、1日で決まっていく。淡々と問題を指摘していくしかない日々が続く。
【タイトル写真】
原子力規制委員会記者会見 2023年8月2日 にて撮影。
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