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原発「運転期間」延長の焼け太りー電気事業法

明日から作る老朽原発の規制の中身は?」に、2月15日の原子力規制委員会で「高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム」(以後、チーム)の設置が決まったことは書いた。法改正そのものに反対した石渡明委員は、「論理的必然性」で設置にも反対したので、これも多数決だった。

「運転期間なきあと」の2つの注視ポイント

これにより、2月22日から、チームが、原子炉等規制法案の新「第43条の3の32」に書き込まれる「発電用原子炉施設の劣化の管理等」の中身を議論していくことになった。

今の「運転期間」(第43条の3の32)なき後、それに代わって(代わりにならないが)、岸田内閣提出予定の「束ね法案」(原子炉等規制法と電気事業法他)に盛り込まれている条文(2月15日原子力規制委員会資料2「原子炉等規制法改正に係る事前評価及び高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チームの設置」P36〜38)の中身だ。このチームが議論するのかどうかは別として、現段階で注視すべき点が最低2つある。

注視ポイント1:新「第43条の3の32」

原子炉等規制法の新「第43条の3の32」(発電用原子炉設置の劣化の管理等)は、原子炉の運転開始から30年目以内(以後10年以内ごと)に、原発事業者が「原子炉施設の劣化を管理するための計画」(=長期施設管理計画)を定める義務について定めている。

原子炉等規制法新旧対照表
上段が新「第43条の3の32」、下段が現在の「第43条の3の32」
(2月15日原子力規制委員会資料2「原子炉等規制法改正に係る事前評価及び高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チームの設置」P36〜38)

原発事業者は、原発施設が劣化したかどうかの評価方法と評価結果に基づいて「長期施設管理計画」を作ることになり、原子力規制員会は、それが原子力規制委員会が作る基準に適合するかを原子力規制委員会が判断する制度案だ。

チームは、その原子力規制委員会が作る基準を、これからおっとりと具体的に作るつもりでいる。(チームの進行役を務める杉山委員は、この基準は「古い原子炉に対する考え方」をこれから考えていくことだと勘違いしており、「劣化管理等」という言葉が「狭く見えてしまう」(2月15日原子力規制委員会議事録p17)と述べた。しかし、「見える」のではなく、実際に既に条文によって「狭く」規定されている。注視するのは杉山委員がこれをどう挽回するかでもある。)

原子力規制委員会が「急かされて」多くの穴に気づかないまま多数決で了承してしまったこの「狭い」新「第43条の3の32」(発電用原子炉設置の劣化の管理等)の条文は、原子力規制庁と経産省による協議の上に成り立っていることも忘れてはならない。

最大の問題は、1000万点の製造品からなる原発施設が劣化しているかどうかを事業者が評価して、管理の計画を立て、これから作る基準にそれが適合しているのかを原子力規制委員会が判断することになること。つまり、控え目に言っても、
 ①老朽原発の安全を確保する基準を原子力規制委員会が本当に作れるのか、
 ②事業者の評価は正しいのか、計画通りに管理するのか、
 ③原子力規制委員会に見落としはないのか(事業者の意図的・非意図的な誤りや改竄を見抜けるか)

の判断が介在する。
その判断材料となる基準(上記①)をチームがこれから作るのだ。
なんの判断も要らず、原則40年最大60年の期限が来たら、問答無用に廃炉となる今の第43条の3の32とは違い、原子力規制庁職員が消耗することは必至だ。

注視ポイント2:電気事業法に移る「運転期間」の「延長」とは

もう一つの注視ポイントは、運転期間が原子炉等規制法から削除され、電気事業法へ移るのと同時に付される運転期間を延長してもいい要件だ。その要件は増えて見える。

少なくとも、これまで、原子力規制委員会で議論されてきた60年超の運転期間の話は、せいぜい、新規制基準への適合審査に時間がかかって原発が停止する期間ぐらいだ。しかし、実際には、2月15日の原子力規制委員会の資料2の最後にペラっと挿入されているように、5項目にわたっている。

「原子力発電の運転期間に関する規律の整備②【電気事業法】
(2月15日原子力規制委員会資料2P62)

上記を簡略に書き出すと運転期間を延長してよい要件は次の通り。
 1.新規制基準への適合と審査で停止した期間
 2.行政処分で停止したが、停止する必要がなかった期間
 3.行政指導に従って停止した期間
 4.裁判所の命令で停止したが、停止する必要がなかった期間
 5.他の法令等、予見し難い事由に対応するため、停止した期間

5は特に曲者で「等、予見し難い事由」はこれからも拡大していく可能性は否めない。この資料の下に小さな文字で「利用政策の観点から運転機関に関する制度改正案【政府検討中】」と書いてある。5項目について原子力規制委員会が歯止めを効かせるなら、今が最後のチャンスだ。

ふしだらな事業者に運転延長を認めるのか?

そこで2月15日の記者会見では、委員長に聞いてみた。少し長くて恐縮だが、そのやりとりをそのまま抜粋引用する。

○記者 (審査が長引く理由について)敦賀のように地質データの改ざんがあったりとか、柏崎刈羽のように核物質防護規定違反があったりだとか、そういった問題、要するに原子炉設置者の資質・能力に問題があるような原発がさらに延命されていくということも含まっていると思うのですが、それについてはどのように。

○山中委員長 規制側で考えられることと監督官庁が考えていただくべきことと両方あるかと思いますけども、厳正な審査をこれから継続していくということについては全く異議のないところですし、高経年化の評価と分けて考えていくべき事柄かなというふうに思っています。ふしだらな事業者が出てきたときには、規制としてきちっと何らかの措置はする必要があろうかと思います。

○記者 そうすると延長する要件みたいなものが電事法のほうに、経産省の電気事業法のほうに今回移りますけれども、その中に延長の理由というのが5つ挙げられていました。これについては全く月曜日に議論がありませんでしたけれども、今おっしゃったように不届き者がいた場合、つまり延長はするけれども、こういう例外、例えば柏崎刈羽のように核物質防護規定違反があったようなものについては延長は認めないというような、延長するけれども、その例外規定みたいなものというのを規制委員会のほうから、これから押し込んでいくということは。

○山中委員長 資源エネルギー庁で、まずはそこのその延長に対する要件というのをきちっとお考えいただく必要があろうかと思います。少なくとも安全に対する責任は、事業者も監督官庁も、我々原子力規制委員会も全て持っていると思いますので、これについては資源エネルギー庁がそういう運転延長を認めたものを我々に申請させるかどうか、ここは資源エネルギー庁の問題だと思います。

○記者 その例外について、延長を認めるものの要件について、委員も意見を、原子力規制委員会も意見を言うというふうに理解をしました。それでいいですか。

○山中委員長 資源エネルギー庁に今何か物を申すということではなくて、それぞれ安全に対しては、それぞれの機関が責任を持つ必要がありますよという、そういうコメントです。

2023年2月15日の記者会見議事録より

電気事業法による延長要件5項目について

山中委員長が回答したことを整理すると、「ふしだらな事業者が出てきたときには、規制としてきちっと何らかの措置はする必要」がある。しかし、「資源エネルギー庁が運転延長を認めたものを我々に申請させるかどうかは資源エネルギー庁の問題」・・・。整理しても意味がわからないが、最後にまとめるとしたら、

  • 老朽化原発を運転させないための「運転期間」を原子炉等規制法から削除して、電気事業法に移すことは決まっている。

  • 新「第43条の3の32」の具体的中身は、2月22日に始動したチームで、事業者から意見を聴取しながら議論を進めることになった。

  • 「運転期間」の「延長」要件は電気事業法を所管する資源エネルギー庁が検討する。

  • 延長要件は焼け太りの傾向が見られるのに、それがどのようなものかは、現時点に至るまで「安全規制」の観点から、原子力規制委員会は、何の議論もしていない。

山中伸介原子力規制委員長
(2023年2月15日の原子力規制委員長会見にて筆者撮影)

さあ、どうする、ニッポン?

【タイトル写真】

「原子力発電の運転期間に関する規律の整備②【電気事業法】(2月15日原子力規制委員会資料2P62)


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