核のゴミはリサイクルできるか?②日本原燃の審査書に3100頁の間違い

一つ前のコマ
1.「核燃料サイクル」についての簡単なおさらい
2. すでに構想倒れの「核燃料サイクル」
3. 最初の再処理工場の廃止は2088年の予定

と書いてきたことの続き。核燃料サイクル事業についてです。

日本初の使用済核燃料の再処理工場は、26年稼働し、廃止には70年かかる。その事実があってなお、国は、これから新「再処理工場」を稼働しようとしている。

4.着工から30年してもできない日本原燃の再処理工場

稼働しようとしているのは日本原燃株式会社(青森県六ヶ所村)。日本原燃のあゆみによれば、再処理事業をしたいと申請したのが1989年、着工が1993年。2022年度上期に竣工予定だったが12月26日に「2024年度上期のできるだけ早期」に変更。こうした延期は26回目だ。着工から30年が経過した。

普通の企業なら潰れている。潰れないのは再処理法(今、国会で審議されているGX脱炭素電源法案には、その改正案が含まれている)で支えられている国策だからだ。

5.使用済燃料再処理機構(NuRO)が日本原燃に委託している国策

再処理法は第1条で「使用済燃料の再処理等の着実な実施のために必要な措置を講ずる」としていて、第10条で、使用済燃料再処理機構(NuRO)を原発の運転で生じる「使用済燃料の再処理等の実施の業務を行う」法人として定めた。第42条でNuROは業務を委託できるとした。

つまり、日本原燃は、再処理法に基づいて、NuROが再処理事業を委託した会社だ。会社概要によれば、株主は全国9電力会社や日本原子力発電の他74社。再処理法第4条で、原発事業者は、再処理業務に必要な費用を当てるために各年度、NuROに拠出金を納付しなければならないとされた。拠出金があるから、日本原燃は安泰なのだ。

6.日本原燃の申請書に3100ページの誤り

「しかし」というべきか、「だから」というべきか、この組織は多くの問題を抱えている。4月14日には、原子力規制委員会が日本原燃の増田尚宏社長を呼びつけて、意見を聞いた。

委員会側から提示した論点は主に2つ。

一つは日本原燃が原子力規制委員会に提出した「設計及び工事の計画」の申請書約6万ページのうち、3100ページに間違いがあったこと。原子力規制委員会は、「適切なプロジェクトマネジメントができるよう社長が責任を持って対応すべきではないか」と14日に論点を提示した。申請書の提出期限だけが重要視され、中身を確認する体制がなかったことを日本原燃は認めた。そして、審査に耐えうる申請書を出すように、山中委員長が求めた。

6−2.原子力規制委員会の今後の判断とNuROの存在意義は?

しかし、筆者が思うに、従業員3075人(2023年4月1日時点)がいる中で、社長一人で、大きな組織をどうにでもできるものでもない。核燃料サイクル事業を支える人材が日本にどれだけいるのかという問題ではないのか?

(1)詳述はしないが、再処理事業者は、原子力規制委員会が原子炉等規制法第6章(第44条〜)に基づいて、技術的能力があるかなどの基準に照らして指定を行う仕組みだ。日本原燃は指定に値する組織なのか、原子力規制委員会の判断が迫られる時が来るのではないか。
(2) 日本原燃に再処理業務を委託しているNuROは、経産大臣の方を向いて仕事をしている機関だ。業務を日本原燃に丸投げしっぱなしで、何をしているのかも疑問だ。

7.IAEA監視対象区域で電球切れ

4月14日に、原子力規制委員会が提示した論点のもう一つは全消灯事件だ。1月28日、国際原子力機関(IAEA)が、カメラで連続監視している区域で、電球が全部切れてしまっていた事件だ(資料P32およびをMMCCの報告参照)。

(1) 電球切れに日本原燃が気づかなかっただけではない。
(2) 1月30日、その現場に連続監視データを確認する「保証措置検査」に行った「公益財団法人核物質管理センター」(MMCC)は、日本原燃から電球切れについて聞いていたにもかかわらず、何やら誤認をして、原子力規制委員会に報告しなかった。
(3) 2月9日に、IAEAから原子力規制委員会の「放射線防護部ループ放射線防護企画課保障措置室」に連絡があって初めて、原子力規制委員会は事態に気づいた

電球ひとつ管理できない「日本原燃」と、その検査に失敗したMMCC。

日本原燃やMMCCが3月22日に「原因調査と再発防止対策を書いた報告書を提出。原子力規制委員会は、4月11日にそれでは不十分だとして、今後の対応方針で報告書の再提出を求めた。

原子力規制委員会が提示した論点ペーパーによれば、日本は「国際約束に基づく保証措置」を行う立場だ。そこで、委員たちは、「ことは日本原燃の問題だけではない」「国への信頼性が揺らぐ」と苦言を呈した。

感想

基本的な能力(人材であれコミュニケーション力であれ)が欠けている日本原燃には、高レベルの放射性廃液を含む汚染物質を扱う能力が果たしてあるのかと、心配になる。

私を含め、多くの人は、核燃料サイクルに関する知識も関心も低い。また、再処理事業を巡って、多くの組織で誰がどの範囲の責任で何をしているのかも不透明だ。私自身、今回、初めてそのことを垣間見た。

GX脱炭素電源法案」には、こうしたことの大元となる「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律」の改正案が出ている。しかし、改正案以前に、核燃料サイクル政策そのものの見直しが必要な時期に来ているのではないか。

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