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足りなくなった廃炉や損害賠償コストを誰が負担するのか? #託送料金許可取消請求訴訟

足りなくなった廃炉費用等を、経済産業省が省令改正で、原発を選択しない者の電気料金にも上乗せしてよいとしたことは違法だとして、控訴中の原告らを招き、2024年11月14日、原子力市民委員会が第11回「連続オンライントーク」を開催した。以下は筆者のオンライン視聴メモ。


廃炉や損害賠償を自然エネルギー電力が回収?

招かれたグリーンコープ生協ふくおかの坂本寛子・理事長と一般社団法人グリーンコープ共同体の日高容子・代表理事によれば、最初は裁判をするつもりではなかったという。むしろ消極的だったと、提訴に至る経緯を語った(資料はこちら)。

1986年のチェルノブイリ原発事故以来、原発のない社会を目指してきたが、2011年の福島第一原発事故(以後、1F事故)を大きな転機として、自分たちが使う電気は自分たちで作ろうと自然エネルギーの発電所づくりを開始。電力自由化後、2016年4月からは小売事業も始めた。

ところが同年9月、1Fの「廃炉費・原発事故の賠償負担を新電力にも負担させる」、「託送料金で回収する」という衝撃の報道があった。

経産省を被告に「託送料金許可取消請求訴訟」

そこから4年をかけて、訴訟をするかどうか検討したのだという。
国相手では負けるだろうと、不安だった。
・原発は嫌だけど裁判は怖い。
・裁判(=けんか)は嫌だ。
・裁判は国民の権利だ。
・福島の人に応援するためにも賠償負担金は支払いたいが、払いたくないと思われて批判されるのではないか。
臨時総会で、こうした意見や質問200以上に応えて、結果的に提訴を決めた。

2020年10月15日、被告は国(経産省)、原告「グリーンコープでんき」として、「託送料金許可取消請求訴訟」を福岡地裁に提訴。

電気料金に含まれる託送料金に「賠償負担金」と「廃炉円滑化負担金」を上乗せする経済産業省令は違法であるとして取り消しを求める行政訴訟だ。(関係リンク

地裁は敗訴

原告勝訴なら、2つの負担金を定めた省令は取り消され、日本全国の電力消費者の1F廃炉と賠償の負担金が電気料金に含まれることはなくなる。公益訴訟だ。

しかし、2023年3月22日、提訴から2年、9回の審理を経て「原告の請求を棄却」する判決が出た。諦めることなく、控訴を決めた。

本来、2つの負担金は原発事業者が負担すべきであり、国民が負担することはおかしい。法律で決めたのではなく、経産省の省令で執行するのはおかしい。

訴訟を通して、国会で決めるべきことを省令で勝手に決めることはやめて、民主主義の大原則が守られることを目指したいという。「託送料金訴訟を支える会」も立ち上げた。

経産省が省令で定めた2つの負担金の違法性

続いて弁護団長の小島延夫さん弁護士が、違法性について説明(資料はこちら)。

経済産業省は、2017年9月28日に電気事業法施行規則(省令)改正で2つの負担金を新たに定めた「賠償負担金」「廃炉円滑化負担金」だ。

賠償負担金

賠償負担金」とは、1F事故前に確保すべきだった損害賠償金を、原発事業者が十分に算定していなかったから不足するとして「過去分」(←経産省が使った表現で、この時、2.4兆円)として、送配電事業者が消費者から電気料金に含めて回収する仕組み。

廃炉円滑化負担金

「廃炉円滑化負担金」とは、原発の廃炉に必要な金だが、これも、送配電事業者が、消費者から電気料金に含めて回収する仕組み。

2つの負担金を誰が払うかを法改正なく決定

送配電事業は、電力自由化後も、旧一般電力会社(東京電力や関西電力など大手電力会社)から形ばかりの分離(*)を行なって東京電力パワーグリッド関西電力総配電などが、地域独占で送配電事業者が行っている。

この2つの負担金を、経産省は、託送料(送電線使用料)として、電力自由化後に新たに電力事業に参入したいわゆる「新電力」にも負担させることにした。それを電力料金に含めなさいという省令改正を行ったのだ。

原発のない社会を目指したいと自分たちで自然エネルギー発電を始めたグリーンコープからすれば、とんでもない話だ。自然エネルギーを選択した消費者に「原発の廃炉費用と福島第一原発で被害にあった方への賠償金が足りないと国と東電が言うので、負担してください」と言わなければならないという話だ。

簡単に言えば、原発事業者の経営を、自然エネルギーを推進する消費者も含めて、みんなで助けるという本末転倒な話。電力自由化で淘汰されるべきコストの高い原発事業を、国民に応援させる筋の悪い話だ。

小島弁護士は、電気事業法第18条3項(算出方法が適正かつ明確に定められていること)に基づけば、送配電事業のための費用といえないものを、託送料金として徴収してはならないと述べる。
・それを法改正もせず、省令で定めるのは、法律の委任の範囲を超える。
・電力自由化は、発電事業者が効率化等により電力料金の引き下げを目指すもの。
・発電コストは発電事業者が負担するもの。電力自由化に矛盾する。
・会計原則、会計基準は、他の会社の費用を別会社の費用とすることは認めていない。原発事業者のコスト(賠償負担金、廃炉円滑化負担金)を送配電事業者が負担するのはそれらに反する。

そのように違法性を訴えた。ところが、敗訴した。

敗訴の理由は大臣の虚偽答弁

裁判所が、被告(国)が主張した大臣答弁を認めたからだという。

「全ての消費者が広く公平に負担すべき費用を託送料金により回収できる、これが電気事業法の解釈であります。その根源は、2000年に電力小売を部分的に自由化したときに、やはりそういった費用が取れなくなっていく可能性があるということで、当時、審議会で議論をしていただいて、託送料で回収をするというメカニズムを入れていった」(2017年4月12日衆院経済産業委員会、世耕弘成経済産業大臣)

裁判所はこれを認め、「過去に安価な原子力発電による電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力発電事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力発電事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担することは、需要家間の公平性の観点から適当ではない」という論理で判決を書いた。

控訴審での反論

これに対し、控訴審では、大臣答弁は虚偽であることの論証を行ったと小島弁護士はいう。そうした議論を2000年に「審議会で議論」をした事実はない。「託送料で回収をするというメカニズムを入れていった」事実はない。2000年当時、原発事故が起きることは想定しておらず、原子力は安いと宣伝していた。

広く公平に負担すべき費用を託送料金により回収できる」との電気事業法の解釈は、裏付けがないということだ。

また、裁判所には、電力自由化の中心にいた元電気事業審議会委員であり、電力・ガス取引等監視委員会の元委員⻑の八田達夫氏から、消費者が支払う電力料金は電力自由化の下では、競争によって市場が決定するものである、旨をはじめとした意見書が提出された。

足りなくなったお金を国は省令改正で電力消費者からとっていいのか?

想定外の事故が起きた後で、足りなくなった「賠償負担金」「廃炉円滑化負担金」を、後から省令改正で消費者からとっていいのか?

電力自由化を目指す国家で、それらを一体、誰が負担すべきなのか。国会が審議して法律で定めるべきであり、省令で決めてしまうのは違法であるという被告の主張は、筆者には妥当だと思える。

裁判官はどう判断するのか。結審は11月27日ではないかと言われている。
判決はその先だ。

*この発送電分離は、「法的分離」に止まり、資本関係はそのままで「所有権分離」をしていないので、なんちゃって電力自由化だと批判されている。

【タイトル画像】

「自由化の下での原子力事故の賠償への 備えに関する負担の在り方について」(2016年12月9日 資源エネルギー庁)P11より

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