猫がいなくなる
「猫が家から出て行って帰って来ない」
という話をよく聞く。
きっと猫はいつものように外に出かけ、いつもとはちょっと違うとこへ遊びに行き、見知らぬ猫と出会って友達になり、長い時間遊んで帰り道がわからなくなったりしてるのだろう。
僕が街で見かける猫たちも、ホントは誰かの家でちゃんと飼われてた猫だったりするのだろうか。
僕が子供の頃、一番最初に飼った白猫のチビは、子猫を産んでしばらくするといなくなってしまった。いつも近所を探したが全然見つからず、大人たちは諦めムードだったが僕は諦めきれなかった。
学校の行き帰りや、友達と遊ぶのも疎かになり、ずっと猫を探す毎日だった。
一年半ぐらい過ぎた頃だったろうか、家のそばにある大通りを越えたところに商店街があり、祖母に頼まれ買い物に行った。
商店街を入ったところにロッテリアがあり、店の前にでかい看板が置いてある。
ふと目をやると、一匹の白猫がその看板の上で寝ている。
「チビに似てる」
と思ったが、僕はチビ以外の白猫を見たことがなかったので、白猫はみんなこんな感じなのかな、とも思った。
僕はその白猫に近づいて、「チビ」と声をかけた。白猫は僕を見て、ニャーニャー鳴きながら看板を降りてきた。
僕がしゃがんで撫でると、ゴロゴロ言いながら白猫が戯れてくる。
ロッテリアの隣にたこ焼き屋があり、そこのおばさんが声をかけて来た。
「その子全然人に懐かないのに、あなたにはすごい懐くね」
「チビだ」
と僕は心の中で思った。
そのまま僕はポロポロと泣きながらしばらくチビを撫でていた。
たこ焼き屋のおばさんが、
「ちーちゃんご飯食べる?」
と声をかけると、チビはさーっとおばさんの方へ行ってしまった。
「そうか、このおばさんがずっとチビの面倒を見てくれてたのか」
と僕は思い、
「その猫うちで飼ってた猫なんで連れて帰ります」
という言葉をグッと我慢した。
我慢する必要はなかったのかもしれないが、おばさんがチビを可愛がってる姿を見たら、急に言葉が出て来なくなった。
「ここに来ればまた会える」
と自分に言い聞かせ、僕は買い物をして家に帰った。
それから僕は、自ら進んでお使いに行く、我が家の買い出し担当として祖母から頼りにされた。
僕は初めて会う猫によく懐かれる。それを踏まえて考えると、あの猫が本当にチビだったのかは、定かではない。
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