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犬歯が生えてこないのには理由がある。


いつまでたっても生えてこない歯を埋伏歯と呼びます。
ヒトは2生歯性と言われており、一生に一度生え変わりがあるのですが、
その仕組みは、骨の中に控えている永久歯が
歯根(しこん)と呼ばれる乳歯の根っこを溶かしながら伸び続け、
乳歯の脱落に伴い口の中に顔を出すというもの。
このうち、永久歯が乳歯の歯根を溶かす「歯根吸収」というプロセスは、
乳歯-永久歯間でしか見られないもので、永久歯どうしでは通常起こりません。
しかし何を思ったか、
乳歯と間違えて隣の永久歯の歯根を溶かすのに忙しく、
顔を出すのが遅れている永久歯がいます。

1.埋伏歯による永久歯の歯根吸収

生えてくるのが遅い永久歯は、
隣の永久歯の歯根を吸収している可能性が考えられます。
骨の中で起こっているので見た目で判別するのが難しく、
別の目的で撮影したレントゲン写真で偶然見つかるというパターンが多い現象です。また、進行しても痛みや不快感などの自覚症状や歯の動揺もない場合が多いのが怖いところ。
この現象はいろいろな部位で起こり得るのですが、
圧倒的に多いのが上あごの埋伏犬歯による前歯の歯根吸収です。

上の前歯の根っこが食べられてる!


埋伏歯の代表と言えば 第三大臼歯(親しらず)ですが、
上あごの犬歯は埋伏頻度が 0.8~2.9% と2番目です。
なんだその程度か?と思うでしょうが、問題なのはそのうちの40%に
隣の歯の歯根吸収が起こっていたという報告もあることです。
上あごの犬歯が埋伏していたら、
約半数が周りの永久歯に被害を与えているということになります。
怖いですねぇ。
その際、被害を受けやすいのは側切歯、中切歯という前歯です。

2. その治療法

早期発見が可能であれば、乳歯を抜歯して埋伏歯の出口を与えてやるだけで方向を修正できたり、歯根吸収も軽度であれば、埋伏歯をどかすことで吸収を受けた部分は自然修復されると考えられています。
やはりこの現象に対しては、早期発見・早期治療がベストでしょう。

しかし発見が遅れた重度の歯根吸収の場合、
歯の保存の可否も含めた大掛かりな治療計画が必要になります。
上あごの埋伏犬歯により前歯が重度の歯根吸収を受けたケースの場合、
ほとんどの報告で吸収を受けた前歯を抜歯し、その場所に犬歯を移動させるという矯正治療方針を採用しています。
この治療方針の利点は、犬歯周りの歯茎の状態や骨の量に配慮しながら行えば、短期間で移動が完了できることです。
一方、前歯を可能な限り保存し、犬歯を正常な位置に誘導する方針もありますが、人間のあごの骨は唇側が薄い構造になっており、
この薄い部分を大きな犬歯が移動しにくいことや、
移動距離が長くなるので治療期間が延長する、
あご自体が小さい場合、犬歯を並べるスペースが足りない、
などの問題の多さがこの方針を採用しにくい理由と考えられます。

また、治療の開始時期にも配慮が必要です。
埋伏歯は成長期で発見されることが多いので、あごの成長量や成長方向を予測して開始時期を決定する必要があります。しかし個人の成長変化は多様なので、予期せぬ変化が起こることもあります。
これに対応するには、
2段階の矯正歯科治療が有効ではないかと筆者は考えています。
仮に9歳くらいで発見できれば、
まず埋伏歯の移動を行い、矯正装置を一旦撤去。
その後生え変わりが終わった14歳くらいに2回目の治療で仕上げを行う。
といった、治療を2回に分ける手法です。
この手法の利点は1回目の治療後に成長観察期間を設けられるので、
予期せぬあごの位置変化にも対応できることです。

3.その他、歯が生えてこない理由

①ただ遅いだけ
±1年ほどの個人差はありますが、平均的な生え変わり時期を知っておくとよいでしょう。
・上あごの犬歯は10歳(埋伏頻度第2位)
  男児=10.96歳、女児=10.24歳
・上あごの中切歯は7歳(埋伏頻度第3位)
  男児=7.2歳、女児=6.91歳
・上あごの第二小臼歯は11歳(埋伏頻度第4位)
  男児=11.73歳、女児=11.5歳

②先天性欠如歯
生まれつき歯の本数が少ない人が10%います。
永久歯が欠如している場所は生え変わりが無いので、ずっと乳歯が残っているか、乳歯が抜けても永久歯が生えてきません。

③過剰歯・歯牙腫
遺伝情報のミスコピー?で過剰に作られた歯や、歯に成り損なったものなど、本来無いはずのものが骨の中に存在すると、歯が生えるのを邪魔することがあります。

4.心当たりがある方は歯科医院へ

歯が生えてこない原因は、いずれの場合もレントゲン撮影で明らかに出来ます。特に永久歯歯根吸収の場合、早期発見こそが負担を軽減できる手段ですので、ただ待つのではなく、定期的にレントゲン撮影を行って生え変わりを確認することをお勧めします。

でも不思議なのは、骨の中に埋まりやすいことでは同じ境遇にある
親しらずの悪さは少ないのに、なぜ上あごの犬歯では多いのでしょうか?
親しらずの埋伏に関しては、
歯自体が退化という道を選択したという説と、
アゴのサイズが小さいために親知らずが成長したくてもできない=アゴの大きさに原因があるという説がありますが、犬歯にはそのようなことが起こる気配はありません。
ライオンやトラ、我々と同じ霊長類のゴリラやヒヒ、彼らは犬歯を武器として使っているように、犬歯には何か攻撃的な遺伝子が眠っているのかもしれませんね。

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